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『アメリカの悪夢』は、大統領選を控えて、現実を直視せよと、日本人に語りかける。
なぜアメリカへの渡航を控えていたか
今、必要な本はなんだろうと考えてみた。
ディヴィッド・フィンケルの『アメリカの悪夢』(古屋美登里訳)は、大統領選まで一ヶ月に迫った今、トランプの悪夢とはなにかを考えるために、きわめて有用な本だと思う。
トランプが大統領だった時代、私はアメリカに渡航するのを控えていた。民主党支持者だからではない。ドナルド・トランプのような人物を大統領に選出する国に足を踏み入れたくないと直感的に思ったからだ。
本書は、こうした直感がなぜ生まれるのかを、帰還兵の現実、日常のディテイルを徹底して取材することによって立証している。
退役兵が直面した現実
かつて軍務にあったブラント・カミングズは、戦争のトラッシュバックに悩みながら、ジョージア州で暮らしている。国家分断というと大きな話になってしまうが、住民同士が赤と青に別れて、理解しあえない国があからさまになる。こうした住民同士の敵対感をあおっているのが、恐怖と煽動によって国民をコントロールしようとするトランプの厚顔無恥によるものだとわかる。
ブラントは、退職前の一年間、エルサレムに派遣されたときのことを思い出す。ヨルダン川西岸地区で、パレスチナ自治政府の治安部隊を訓練するプログラムに協力していた。平日は仕事があるからいい。「土曜日。エルサレムでの土曜日は彼にとって最悪の日だった」と彼は回想する。
同僚の厳しい指摘
同僚のタマラは、彼にこう説明する。
「あなたはアメリカ人だから、自分以外の人が優位に立っているという状況を体験したことなどないでしょう。他人から虐げられたり、不安のなかで暮らしたりした経験などないでしょう。安全もなければ、自分を守れもせず、未来もない。何にもない存在でいることを」
彼女の論難に当時のブラントは耳を貸さないように思える。ところが、アメリカに帰還してみると、アメリカ人の優位も、アメリカ人だから、守られている状況が、本国でももろくも崩れ去っているのを知る。
私は、このブラントに気持ちを寄せる。日本の一見、平穏に見える暮らしと、ブラントの退役後の生活の差を思う。しかも、ブラントをさらに苦悩させるのは、いつまでも止むことない人種差別であり、ブラック・ライブズ・マターの盛り上がりである。そして、かつて退役前に過ごした中東のイスラエル・パレスチナの問題なのだった。
世界はどこへいくのか
日本はアメリカの属国だという。私もこの考えに同意する。だからこそ、世界の今後を大きく左右する大統領選挙に一票を持たないことがくやしく、残念でならない。
本書を一読しただけで、トランプの言葉や行動が、いかにアメリカ市民を蝕んでいるかがよくわかる。この現実を直視しなければ、日本の未来を考えることさえできない。その意味で、『アメリカの悪夢』は、日本人が悪夢へと捉えられないために、読んでおくべき一冊だと思う。
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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺
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