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尾上菊之助の春秋 その壱 春

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尾上菊之助さんの話題が中心のマガジンです。筆者の長谷部浩は、『菊之助の礼儀』(新潮社)を以前、書き下ろしました。だれもが認める実力者が取り組む歌舞伎、その真髄について書いていきま…
有料記事をランダムに投稿します。過去の講演など、未公開の原稿を含んでいます。アーカイヴが充実すると…
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#菊五郎

【劇評199】いつもの正月のように。なにも変わないことの貴重さ。菊五郎劇団の国立劇場。

【劇評199】いつもの正月のように。なにも変わないことの貴重さ。菊五郎劇団の国立劇場。

 いつものように正月が訪れる。初芝居に行く。繭玉を観る。それがどんなに貴重なことか。

 菊五郎劇団の国立劇場、正月興行は、復活狂言を上演してきた。
 長い間上演されなかった戯曲には、それなりの理由がある。脚本を整理し、演出をほどこす作業は、座頭である菊五郎の負担が大きい。
 平成一八年の十一月だったろうか、『菊五郎の色気』(文春新書)を書くために、菊五郎の楽屋を訪れた。眼鏡をかけた菊五郎は、書見

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玉三郎と菊之助に何が起こったのか。伝承のさまざまなかたち。



 伝承には、さまざまな形がある。

 名だたる家に生まれた歌舞伎俳優にとっては、師匠であり、親でもある父との共演がまず、なにより先立つ。歌舞伎の配役は、なかなか一筋縄ではいかないが、一般に親は子を子役として使う。祖父の意見が大きく左右することもある。
 次第に長じてくると、立役の親は、子を女形として、自分の相手役として使う。音羽屋菊五郎家も、このやりかたで、菊之助を育てた。つまりは、菊五郎

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【劇評188】値千金の『身替座禅』。菊五郎と左團次の息。

【劇評188】値千金の『身替座禅』。菊五郎と左團次の息。

 歌舞伎には、大人の童話と名付けたくなるような面がある。

 狂言から来た作品には、こうした微苦笑の種が潜んでいて、『連獅子』の「宗論」や『棒しばり』『素襖落』など温かい気分に包まれる。

 菊五郎が得意とする『身替座禅』は、その代表的な一幕で、残念ながら公演中止となった四月の新橋演舞場での歌舞伎公演でも、この演目が予定されていた。

 『身替座禅』のみどころはいくつかある。
 山蔭右京(菊五郎)

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4月演舞場の無観客放映はありますか?

4月演舞場の無観客放映はありますか?

松竹は、3月歌舞伎座の放映を発表しています。

残念ですが、収録自体が行われていないようです。

演舞場の宣伝部からは、以下のようなメールが届いています。

拝啓 平素より格別のご高配を賜り、篤く御礼申し上げます。

この度、新型コロナウイルスの感染拡大と政府の緊急事態宣言を受け、
新橋演舞場「四月大歌舞伎」を全日程で中止することを決定いたしましたので、
ご連絡申し上げます。

(公演中止)新橋演

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七世梅幸の面影。隔世遺伝と言うこと。

七世梅幸の面影。隔世遺伝と言うこと。

 

本の賞味期限
 久しぶりに実家に帰った。
 ほとんどの書籍は、自宅や研究室に移してしまったから、たいした本はない。
 日本文化年表や近代史年表などが見捨てられたようにしてあったので、手に取ってみた。いずれも古い本なので、2020年の今からみると、中途半端な時代で終わっている。年表にも賞味期限があるようだ。

 そのなかでドノソやパヴェーゼに一巻を与えた世界文学選集は、今でも読みたいと思う。さ

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