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「200字の書評」(322) 2022.7.9



こんにちは。暑中お見舞い申し上げます。

7月7日は小暑、そして七夕でした。皆さんはどんな一日を過ごしましたか。暑さはやや和らぎましたが、湿度が高く暑苦しい夜でした。

近くのスーパーには竹が飾ってあり、机には短冊と筆記用具が置いてありました。私は「平和で安心して暮らせるように」と書いて下げておきました。のどかな季節の節目に安寧を願うのは、皆同じだと思います。物価高騰、収入減、将来への不安、コロナ再拡大などなど気が重くなります。ウクライナ戦争は終息がみえず、世界的にひずみが溜まってきています。聞き置くだけ、庶民置き去り、アメリカ一辺倒、大企業擁護のキシダ政権には呆れるばかり。でも、政治不信、政治離れをしてはいけません。国の主権者としての正当な権利行使をする機会が、10日です。9条改憲はもってのほか、政府に無限の権限を与える緊急事態条項は危険すぎます。

私は、自公政権と隠れ与党の維新、国民民主は絶対に支持しません。平和、護憲、生活擁護に加え知性尊重を選択要件にしています。

明日10日は参院選投開票日、1日前に送信しようと書評の準備をしているとアベ銃撃事件の報が飛び込んできました。それ故、送信を早めます。私の所感は最後に述べておきます。こんな時ほど平常心で事態を見極めたいものです。

さて、今回の書評は久しぶりのウチダ本です。危機感に満ちています。




内田樹編「撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて」晶文社 2022年

事業は始めるよりも、幕引きの方が難しい。盛衰を見極め、戦線を縮小して軟着陸を図るのは、リーダーの決意と段取りに加え、構成員の理解が必要になる。経営者には、従業員・取引先への影響を最小限に抑え将来への布石を打っておく責務と見識が求められる。陰りの色濃い現代の日本では、悲しいかな首相等の要路の人物には、その自覚と工程。国民への言葉は持ち合わせていない。ウチダと16人の論客が、個性的な撤退の論理を語る。




【文月雑感】


▼ 参院選期日前投票を済ませてきました。市役所ロビーには沢山の高齢者が待っていました。不審に思って周囲を見渡すと、マイナンバーカード申請待合所の表示。なるほど、と気が付きました。政府がカード普及を狙らってポイント付与をするという、それにつられての駆け込みなのでしょう。天邪鬼としては、国民総背番号を意図するカードを持つ気にはなれません。まして利で釣るとは許し難い気持ちです。健康保険証や図書館カードの機能さえ包含しようとはとんでもない。こんな国に管理されてたまるものか。住基カード同様、管理機構を設けて官僚の天下り先になり、請け負う特定企業の利権になるのでしょう。


▼ また散歩の話しです。暑さに怯んでサボりがちです。歩くたびに感じるのは、無住の家屋が増えていることと、その家が自然に戻っていく様が露わだということです。庭の草丈が伸び、樹木は茂り放題、ツタ類は家を覆い玄関も窓も定かではありません。こうして人が住まなくなると、自然が人界を飲み込んでいくのでしょうか。




<今週の本棚>


播田安弘「日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る」講談社ブルーバックス 2020年

著者は造船会社の船舶設計技師。理系研究者が歴史を探求するとこうなるという、興味深い一書。元寇、何故蒙古軍は一夜で姿を消したのか。その船の構造、積載能力、航海性能、戦闘力などを理論的に実証する。NHKの番組「歴史探偵」のタネ本はこれだと思う、著者を番組内で正直に紹介すべきだった。また、秀吉の中国大返しについても、数字からの解明は面白い。


内田樹「複雑化の教育論」東洋館出版社 2022年

教師に向けて語った、ウチダ式教育論。生命は複雑化することにより、進化と適応をしてきた。教育においては人間の成熟上、複雑化して事態に対応するのは当然である、それ故ものごとを単純化して効率優先、成果重視の教育をするのは間違いだ。ウチダセンセは喝破する。成長とは一本道ではないことを教えてくれる、こんな学校であったなら、そう思ってしまう。




[アベ銃撃事件への所感]


① 誰もが言うことだが、言論を暴力的に封殺することは許し難い。まして演説中を背後から銃撃するとは卑劣極まりない。

② 「死者を鞭打ってはならない、批判は差し控えよう」が日本人の習い性である。同時に「人の評価は棺の蓋を覆って定まる」のも教えです。8年にわたる安倍政治の功罪を、忌憚なく語るべきでもある。モリカケ疑惑桜を見る会疑惑などの政治の私物化は目に余り、官邸主導の下で国会の軽視、官僚の主体性欠如、茶坊主の重用、自民党の幅広さ喪失など政治倫理は著しく損なわれた。

③ 政治の右傾化は著しく、憲法を事実上否定する政治判断を重ねたことも事実である。経済的にはアベノミクスと称する財政金融政策による国富の流失、国民の貧困化の進行があり、財政規律は喪失した。非正規雇用が主流となり、低賃金が一般化した。国際政治の面では、トランプに阿って兵器の爆買いを進め、自衛隊の軍隊化への道を開いた。アメリカへの従属の度を進め、国際的には属国視されている。解釈改憲を強行し、改憲を主導している。プーチンにすり寄りながら、北方領土返還の進展はゼロ。

④ 典型的な反知性主義の立場。学問研究を軽視する姿勢は明白で、長期的な研究体制ではなく即時的な成果を求め、研究者は任期付き雇用になり地道な研究は困難、大学も同様になり正規雇用よりも任期付き教員で当面を糊塗する傾向にある。世界的な論文引用数では大きく後退している。極め付きは学術会議会員任命拒否で(これはスガ政権だが、同一の流れにある)学問の世界にも、反対派を許さない狭量さを示している。

⑤ 身辺に警察官僚を重用して、強権的な政権運営をしている。公安を活用しての反対派の身辺調査、北海道など各地での演説中にプラカードを掲げたり、ヤジを飛ばした市民を警察が排除する、伊藤詩織さん事件ではお仲間の逮捕状をもみ消すなどなど権力乱用は枚挙にいとまなし。

⑥ メディアの萎縮も見逃し難い。新聞テレビ経営者との会食を重ねる、お気に入りの記者を特別扱いする、批判的なコメンテーターの排除、批判的な記事や報道への執拗な抗議と恫喝、これら飴と鞭とでメディアを自家薬籠中の物とする。

功よりも罪深さはまだまだあげられますが、大事なことは彼が進めてきた、右への道は市民生活の規範と倫理観を破壊したということです。暴力的な政権運営こそ、今回の事態の遠因の一つではないのか。そんな気がします。もう一つ、犯人は元海自隊員であったと聞いた瞬間、いやな思いにとらわれました。戦前の五・一五事件です。海軍青年将校を中心とした右翼グループが、犬養首相を暗殺し日銀、政友会本部などを襲撃しました。事件後にはこれを擁護する世論が盛り上がります。五・一五の直前には血盟団事件がありました。その後の二・二六事件などに連なる歴史を見る時、暗雲が広がる思いがします。




明日は参院選です。平和と生活を守るのは主権者の自覚にかかっています


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