「200字の書評」(329) 2022.10.25
お早うございます。
いつもの散歩道、前回金木犀のことについて触れました。近頃再び香りが漂い、道端は橙色に染まっていました。狂い咲きでしょうか。狂っているのは草花だけではありません。政治も経済も倫理性を失って、それに気づかぬ情けなさです。だれも清廉潔白で人生を通すわけではありません。時には道を踏み外すことはあり得ます。でも、振り返ってそれに気づき反省する、或いは忸怩たる思いを抱き繰り返さぬ様、おのれを律するのが理性であり知性であると思います。
さて、今回の書評は大好きで、私の人生の折々に印象的な国鉄についてです。
石井幸隆「国鉄―『日本最大の企業』の栄光と崩壊」中公新書 2022年
鉄道は日本の近代化を国策として担わされてきた。鉄道開通150年、鉄道は日本の写し鏡かもしれない。戦後国鉄は占領軍の意向で公共企業体になり、公共性と収益性の狭間で呻吟してきた。役所的体質が残り、政治的思惑に翻弄され、労使問題、複雑な組合間の対立もあって困難な経営を強いられた。筆者は元国鉄技術系キャリア、JR九州に移りJR3島会社の苦悩を始め、民営化の問題点を率直に語り、鉄道の将来像も大胆に提示している。
【神無月雑感】
▼ 円安が記録的な数字を示しています。無為無策、成り行き任せの政府日銀にレッドカードです。報道によると物価は高騰し昨年同期より3%上昇、家庭では年間8万円以上の負担増になるそうです。給料は上がらず、年金切り下げ、庶民はどのように暮らしたら良いのでしょうか。円安の大きな要素にはアベノミクスなる金融財政政策にあります。低金利、放漫財政のアホノミクスと言われる所以です。そのツケを庶民は払わされています。生活の危機、格差の拡大に怨嗟の声が高まる一方で防衛費倍増の方針、その財源は増税もあるとか、許せることではありません。誰のために、何を守るのでしょう。米軍の指揮下で中国、北朝鮮とことを構えるつもりですか。
▼ 後期高齢者になって直面するのは、運転免許更新の手続きの面倒さです。9月末に認知機能検査(運転免許センター・手数料1,050円)、今月末に高齢者講習(埼玉自動車教習所・手数料6,450円)、両方の証明書を得てから警察署での更新手続きが可能になります。(参考までに前者は鴻巣市、後者はさいたま市、両所とも拙宅からは距離があります)。認知検査には辛うじて合格?しました。認知機能検査も高齢者講習は一方的に期日と場所が指定されてしまいます。更新申請は近くの警察署ですませられますが、手数料は約3,000円かかるはずです。時間に加えて経費が1万円以上必要です。時間と金の無い人は更新するなと言わんばかりです。
▼ ウクライナ戦争の行方がますます混沌としています。様々な情報が飛び交い、報道も錯綜しています。ロシアはウクライナのインフラを攻撃し、冬を迎えての市民生活の困窮を意図的に進めているように見受けられます。無辜の民の苦難も両軍兵士の死傷も、悲惨なことです。米欧系のややバイアスのかかった報道には、行間を読む必要がありそうです。いずれにしても人命と文化を尊重し、産業経済など生活に密着するものは守られるべきです。核による脅迫はもってのほかです。市民が安心して暮らせるよう、一日も早い停戦を望んでいます。
<今週の本棚>
奥泉光/加藤陽子「この国の戦争 太平洋戦争をどう読むか」河出新書 2022年
冒頭、小説家奥泉は物語が歴史に働く役割の意味を問いかける。「多くの国々で、明白に贋物とわかる歴史の『物語』が流通する現状がある」と語り始める。歴史家加藤は「時代を刻印するような『キャッチフレーズ』を持つ物語ですね」と応ずる。談論風発、随所に教育勅語やポツダム宣言などの史料を挟み込み、何故、どこで、誰が間違ったのか碩学同士の語り合いは深い。対米宣戦布告の遅れは、大使館の怠慢ではなく、奇襲を成功させるための軍部の要求に外務省が折れたから、また大東亜共栄圏構想は、ドイツの東南アジア戦略への牽制であるなどの、興味深い見方が提示される。
アンデシュ・ハンセン「ストレス脳」新潮新書 2022年
人が不安を感じ、恐怖を感じるのは人類の歴史が生命の危険にさらされて来たから。不安こそ生き残るための最大の防御システムだった。感染症は未だに人類最大最強の敵、ついて回っている。それだけに人の体には対処する能力が備わっている。鬱もまた感染症への備えの一つともいう。考えれば考えるほど人間の身体、特に脳のあり様は興味深い。
天候が定まらぬ晩秋です。気温の差が大きくなっています。寒さに耐えきれず、ついに暖房を入れてしまいました。コロナとインフルエンザの同時流行も懸念されます。注意してお過ごしください。
月末には墓参りのため帰郷します。釧路は寒冷の地、冬支度で出かけます。今回は不本意ながら、阿房列車の旅にはなりません。