「200字の書評」(325) 2022.8.25
おはようございます。
酷暑と天候不安定の8月、散歩の道すがら秋を感じるようになりました。空の雲の流れ、肌を吹き抜ける風、セミの声などどこか違ってきました。居間でくつろいでいる時、庭の草むらから「チー チンチン」とかすかな音が聞こえました。そう、カネタタキの虫の音です。「スーイッチョ、スーイッチョ」も聞こえてきます。「秋は近いぞ」と伝えてくれているのでしょうか。
ロシアによるウクライナ侵略戦争が半年となりました。停戦、平和回復は見えません。日々人命が失われ、住まいは瓦礫と化し生活基盤が破壊されています。恐怖、憎悪、怨念、諦念、絶望など負の要素を持つ言葉が、ウクライナの人びとの心を満たしているのでしょうか。砲弾やミサイルではなく、希望という光と、平和の輝きを贈りたいと念じるばかりです。狂気の指導者や、哄笑する死の商人たちとは無縁な、市民の願いです。ウクライナだけではなく、ミャンマー、シリア、アフガニスタンなどの難民のことも忘れずに直視しなければなりません。
さて、今回の書評は室町時代から、戦国時代に至る関東の歴史をおさらいしてみました。富士見市勤務時に取り組んだ、難波田城歴史公園と川越夜戦の背景も出てきます。
植田真平「鎌倉公方と関東管領(対決の東国史 4)」吉川弘文館 2022年
室町幕府は京都の政権中枢と、関東10か国を管轄する鎌倉府からなる。鎌倉には足利氏を公方とし、それを補佐する関東管領が置かれた。京都と鎌倉の関係の微妙さ、公方と管領の関係、管領上杉氏内部の対立、地元豪族の向背も絡んで幕府崩壊、戦国時代へと繋がっていく。時代背景はよく描いているが、後北条氏の勃興について詳述してほしかった。後に山内上杉氏は越後に追われ名跡を守護代長尾氏に譲る。上杉謙信の登場である。
【葉月雑感】
▼ 国民一人当たり1005万円。1255兆1932億円、これが我が日本国の借金です。地方を入れるともっと膨らみます。「オギャー」と生まれた赤ちゃんの預金通帳には、マイナス1000万円が記帳されていることになります。返す当てはあるのでしょうか。会社でも家庭でも、破綻です。賢明で太っ腹な政治家と、有能な財務官僚には秘策があるに違いありません。たとえGDPが低迷しようと、賃金が下降しようと、科学技術の実力が失われようと、国民が呻吟しようと、怪しげな宗教紛いに暗躍されようと、何ら動揺することなくアメリカの言いなりに武器を爆買いし防衛費を倍増させるのでしょう。富裕層には優遇し、そのツケは下層国民が負担する。消費税増税には要注意です。
▼ コロナ第7波いよいよ深刻の度を増しています。知り合いが感染したと知らされると、身近に迫ってくるような現実感があります。一昨年来のコロナ対策の教訓はどうなっているのでしょうか。ここでも先進国から滑り落ちつつある様相が明白です。医療体制、検査体制、収容体制などの整備はされていないのですね。救急車の中で30数時間待機を余儀なくされ、死亡した例も報じられています。法律上の位置づけを第何類にするとか、全数把握はどうするとか、そんな論議は落ち着いてからじっくりすべきです。今、ここにある危機と向き合うべきです。
▼ 人を殺してはいけない。これは人間の最低のモラルです。その倫理観がいとも簡単に乗り越えられています。安全で平和が取り柄のこの国で、何かが崩壊しつつあるのでしょうか。人間を大切にする、相手の尊厳を認める。あえて理屈をつけるまでもない規範は、この社会では失われてゆくのでしょうか。豊かな人間性と教養の在り方を追究する社会教育に携わってきた者として、不本意さを嘆いています。
▼ 甲子園大会は仙台育英高校の優勝で幕を閉じました。選手と関係者の奮闘を讃えます。やっと白河の関を越えたと快哉を叫ぶ東北人の喜びも理解します。そこで、天邪鬼の一言があります。私は甲子園を目指す高校野球には疑問を持っています。
まず、特別な大会として美化され過ぎていること。次に私立高校と公立高校の間には実力差があることです。私立高校は経営戦略として全国から有望選手を集め、特待生として入学させ有能な指導者と完備した施設を設け、100人規模の野球部です。公立高校ではそうはいかず、選手をそろえるのも困難な学校もあると聞いています。(今回の仙台育英高校は選手18名中14名が東北出身とか、良かったと思います。でもあそこは宮城県代表です。地元選手は何人でしょうか。)以前田中マーくんを擁して北海道代表で出場した駒大苫小牧高校に、北海道人はいなかったとされています。同じ土俵で戦うのは平等でしょうか。
三番目に、時期の問題です。この猛暑の時期に、連日の過密な日程で試合をするのが健全なのでしょうか。どうも、ストンと胸に落ちません。
▼ 昨夜驚くべきニュースが飛び込んできました。政府は原発再稼働の推進と、新規建設の検討を方針とするそうです。この夏、電力不足の大キャンペーンが執拗に繰り返されました。やはりか!原発ありきでした。キシダは前任者と違い、ソフトな雰囲気を振りまいていましたが、あくまでアベ路線を継承するのですね。統一教会をめぐる疑惑の数々と言い、国民の政治を見つめる目の確かさが問われています。
<今週の本棚>
佐藤究「爆発物処理班の遭遇したスピン」講談社 2022年
8篇からなる短編集。いずれもやり場のない暗い情念が漂っている。それでいて、妙に既視感がある。著者には社会の不公正さに対する怒り、歴史の揺れへの不信、そしてアメリカへの抜きがたい嫌悪があるのではなかろうか。表題作に典型的なように、鹿児島の学校と沖縄米軍基地に仕掛けられた爆弾処理を巡る、不可解な対応のままの終わり方は、日本とアメリカの関係を象徴させている。
北海道の夏休みは終わりました。元気で登校していることでしょう。こちらでも間もなく休みが明けます。コロナ禍で行動は不自由だった子供が多いのではないでしょうか。相変わらず水の事故が伝えられます。健康で登校してくれるよう願うものです。先日小4の孫娘の希望で、群馬県上野村の恐竜センターと不二洞(鍾乳洞)に行ってきました。恐竜の展示解説はかなり本格的で、見ごたえがありました。鍾乳洞は駐車場から急坂を息を切らして登り、洞内も階段やら狭い通路でやや難儀しました。疲れたけれどじいちゃんの夏休みの孫サービスでした。
暑さは和らぎつつあります。でも油断禁物、処暑とはいえ厳しい残暑の日もあります。ご用心ご用心。
追記(2022.8.28 10:58)
おはようございます。
今朝の坂戸は暑い雲に覆われ、昨夜来の雨が降り続いて湿気に包まれています。
いつも駄文を読んでくださり感謝です。時折、感想やら近況、さらに推薦の本感動した本をメールしてくださる方がいて、拝見して嬉しく、また励まされる思いです。
<今週の本棚>と称して、印象に残った数冊の本を紹介しています。遅れましたが大切な本を紹介します。
小山哲・藤原辰史「中学生から知りたいウクライナのこと」ミシマ社 2022年
ウクライナについて、何も知らなかったに等しいことを教えられました。私のウクライナ観は、ユーラシア大陸の広大な平原に位置する穀倉地帯で、ソ連の構成国でありスラブ民族に属する、と言ったところでした。いわば高校の人文地理で習った程度の知識でした。
本書の著者の一人はポーランド史を専門とする歴史学者、もう一人は農業・食料を主題にした歴史研究者でともに京大に籍を置く。前者は中世以降の中東欧の攻め攻められ転変する支配の流れと、当時の国家制度は現代とは違うことを教えられました。隣国ポーランドもウクライナも、かつては周辺大国の侵略・支配を受け分割と統合を繰り返してきたのです。ウクライナが国として独立するのはソ連崩壊を待たねばなりませんでした。
後者は主にドイツを対象とした農業史に詳しく、ナチスの観点も含めた指摘が鋭い。ロシアの一方的な侵略行為とロシア人を同一視するべきではない、NATOが以前ユーゴスラビアを空爆したことなど、冷戦終結後の欧米諸国の30年を考えるべきであること、旧来の戦争観とは違う視点が必要とする。真にロシアの蛮行を非難するには、二重基準であってはならない。プーチンの歪んだ歴史観は絶対に受け入れられない、同時にこの地の歴史を俯瞰し、日本は欧米追従でいいのか、と問いかける。
核大国ロシアのウクライナ侵略が、歴史の一つの転換点であることは予感できる。何かがちがってきていると思います。この書は「中学生から知りたいウクライナのこと」と題していますが、むしろ私達大人が読むべき価値があります。日本自体が戦後の転換点を迎えている時、教訓とすべき沢山の視点があるからです。少し時代は違いますが、大国に翻弄される中小国の動きについては、以前紹介した山崎雅弘「第二次世界大戦秘史」(朝日新書)も地続き、歴史続きとして参考になります。
プーチン憎しロシア許し難し、ウクライナ頑張れは正直な感情です。同時に心情に流されず客観的な考察も求められます。 以上のことから、お薦めする次第です。