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「200字の書評」(327) 2022.9.25



台風一過、久しく見なかった青空を仰いでいます。お元気でしょうか。

週末ごとに襲来する招かれざる客、それが台風です。巨大化強力化して、深刻な打撃を各地にもたらしています。必ず東京湾から上陸する大怪獣、都市を破壊する宇宙怪獣の如くです。でもウルトラマンは来てくれません。河川の氾濫、家屋浸水、がけ崩れなど生命と生活を脅かしています。離島では大時化によりフェリーが接岸できず、生活物資が届かず暮らしの不安が迫っているようです。直接的な危険と同時に見逃せないのは、観光業界や運輸物流業界をはじめ各産業界への経済的な損害です。特に宿泊、土産店、飲食店では観光客に依存し期待するところは大です。コロナで客を失っている上に、連休の度に台風襲来では経営意欲がそがれてしまいます。経営が成り立つよう、有効な施策を望みます。

さて、今回の書評は考えさせられ、結論の出しにくい問題についてです。




平野啓一郎「死刑について」岩波書店 2022年

殺人が許されるのは、戦場と死刑である。いずれも国家公認行為だが、この一事をとっても社会にとって正義とは何かが問われる。著者は死刑肯定論者だったが、廃止論に転じた。被害者側へのサポートと思いやりの不足を説く。被害者にとっての「許し」と「罰」への問いかけは、社会の不寛容さと人権意識の欠如の提起と合わせて考えさせられる。人間の生き方と、社会への向き合い方を作品のテーマにしてきた、作家平野の心性がある。




【長月雑感】


▼ 国葬とは、こういうものだと海の向こうで見せてくれました。エリザベス女王の国葬は、見せること、権威付けをし対外的に印象付けることなど、十分に練り上げられ組み立てられた時代絵巻を眼前に示してくれました。綺羅星のごとく世界各国の要人が並び、様式美はさすがです。衰えたりとはいえ、大英帝国の栄光でしょうか。忘れてはならないのは、エリザベス女王を送る国民の悲しみの陰に複雑な思いと、生活の危機、迫りくる国際的な地位の低下があるのではないでしょうか。煌びやかな軍服の列は、帝国とは軍事力そのものと示しています。
翻って我が国のあり様はどうか、問いなおしたくなります。国力の低下と国際的な存在感の希薄さ、政治不信の増大と右派勢力の伸長、とめどなき円安進行による生活不安、人口減少と格差拡大、怪しげな宗教の仮面をかぶった旧統一教会との癒着。アベとその亜流政治のまやかしそのものです。それなのにアベ国葬とは、いやはや??イギリスと比べられて恥をさらしそうです。


▼ 日照時間が短くなってきました。日の出は遅くなり涼しさも増しています。早朝散歩は出発時間が遅くなりました。黄金の穂波が波打っていた田圃の多くは、切り株が目立ち、鷺、雀などの落穂ひろいが忙しそうです。カエル合唱団は解散したようです。こんなのどかな風景がいつまでも続くよう願っています。


▼ 水は生命維持に欠かせません。雨は恵みであり、災厄でもあります。最近の台風や豪雨は限度を超えています。人間の放恣な行動、特に欲望を膨らませた経済活動の結果と思うべきです。身勝手さが己を滅ぼすのでしょうか。


▼ 文部科学省から各図書館へ、北朝鮮の拉致問題に関する資料の充実を求めています。文部科学省から各都道府県教委への事務連絡として出されました。行政権力が図書館の蔵書について、指導がましいことをするのはをすることは許されるのでしょうか。図書館の自由に関する宣言に照らしても受け入れ難い行為です。図書館界、識者、利用者たる市民は危機感を持たねばなりません。文部科学省の無定見さ、不見識の表れです。


▼ 昨夜TBS「報道特集」での金平茂紀氏の発言です。「何度か折れそうになりましたが、皆さんの声に励まされた」と。彼のようなキャスターが専任から外れるのは、まことにおかしな話です。2015年国会前の安保法制反対集会の人込みで、取材中の彼と出会いました。「みてますよ」と声をかけました。戻れるよう声を上げるとともに、ジャーナリストとして活躍されるよう期待します。また、「報道特集」が変質しないよう見守っていきます。




<今週の本棚>


萬年一剛「富士山はいつ噴火するのか?」ちくまプリマー新書 2022年

いつかは噴火するけれど、それがいつかは正確にはわからない。研究者の正直な語り口に引き込まれる。もし富士山が噴火したら想像を絶する被害が広がるであろう。111を数える火山を抱える我が国の監視体制は心細く、火山研究者を取り巻く環境もまたお寒い。一つの火山を長期的に観測し続けて、はじめて活動の変化に気づき予知につながる。わずかな成功例からはそんな事実が浮かび上がる。観測体制は縮小しているという。例によって、基礎研究軽視はここにもある。


杉田弘毅「国際報道を問いなおす」ちくま新書 2022年

私達が日ごろ見聞きするニュースは、テレビ新聞が主であったが、最近はネットニュースの比重が大きくなってきている。どの立場から、どんな視点で取材し伝えるのか。それによって受け取る側の意識に違いが出る。日本は圧倒的に欧米寄りの報道が目立ち、無意識のうちに欧米寄りの視点に立っている。人口規模、経済的比重、地政学的位置からしてもすでに米国中心の世界ではなくなっている。そんな印象を受けた。ウクライナ戦争が長期化し、ロシアは予備役動員に踏み切るなど先が見通せない中で、早急に停戦と和平合意を実現するにはどうするべきなのか。別な視点からのアプローチも求められているように感じる。




消費者物価は上昇を続け、生活に圧迫感が強まっています。10月にはビールも値上りとか。庶民のささやかな楽しみも奪われそうです。反比例して円安は進行、遅ればせながら財務省日銀は為替介入してわずかに値を戻しました。でも、焼け石に水。元財務省財務官はこう指摘します。介入の原資である外貨保有高には限界がある、円安の原因の一つは日本の国力の衰えであると。正鵠を射ていると思います。新自由主義的な財政金融運営こそ問題であり、アベノミクスなる偏頗な政策はそれを加速させ、格差の拡大と国力低下を招いたのです。その元凶を国葬とは。呆れるばかりです。憤懣やるかたなしですが、血圧が上昇せぬ様これくらいにします。

コロナ禍先が見えません、お互い気をつけて日々を過ごしましょう。


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