「200字の書評」(358) 2024.2.25
こんにちは。
晩春の陽気は異常を通り越して、もはや異変です。天気予報にハラハラドキドキ、朝空を眺めては服装選択に悩み、洗濯の可否もまた思案のしどころ。灼熱の中東では雹が降り道路は水路に、一方では熱波に襲われ旱魃も。地球はどこへ向うのか?と問いたくなります。その非難は天から人間に返ってきます。
さて、今回の書評は公共図書館を俯瞰すると何が見えるか、万華鏡的な見方に感動。
中村文孝/小田光雄「私たちが図書館について知っている二、三の事柄」論創社 2022年
正統図書館史とは違う戦後図書館史がここにあった。公共図書館の源流の一つは占領軍のCIE図書館政策に遡れそうなこと、日図協とTRCの因縁など歴史の陰を感じる。出版業界の長い著者の眼からは「市民の図書館」を金科玉条とする公共図書館が抱えた弱点と、前川恒雄らの神格化にこそ、広い意味での出版文化の一翼であることとの乖離を見る。出版業界との距離感を提起し、とても刺激的で示唆に富む対談である。
<今週の本棚>
NHKテキスト 趣味どきっ!「読書の森へ 本の道しるべ」NHK出版 2022年
教育テレビ毎週月曜日夜に放映されているこの番組、見逃してしまうことが多いので録画をします。最近福岡伸一とヤマザキマリの回を見て感じるところ大だったので書店に走り、早速買い求めた。この二人のほかに6人がそれぞれの読書観を語り、人生で感銘を受け生き方に影響を及ぼした大切な本を紹介している。もし、自分なら何を紹介するのだろうかと、考え込んでしまった。
エドガール・モラン「祖国地球 人類はどこへ向うのか」法政大学出版局 1993年
私には読み解くことの及ばない著者の歴史観、世界観であった。斜め読みだが、広く深く宇宙と時間を俯瞰した地球哲学であり人類哲学である。約30年前の著作でありながら今日の資本主義と民主主義の変質、倫理的文化的な腐敗、政治的危機を見通している。人類の危機を語る一方で、最終章で希望の原理6項目を提示してくれる。我々は受け止めきれるだろうか。ヤマザキマリのお薦め本でした。
【如月雑感】
▼ 倫理観と金銭感覚の欠如は政治家(政治屋)の絶対条件なのだろうか。権力を保持し、利権構造の場にいられるのなら何でもありなのだろうか。食品、生活物資の値上がりに目を見張り、僅かな賃上げに一喜一憂し、目減り続ける年金に老後の生活に苦慮する。そして迫りくる軍靴の響きにおびえる民衆。先憂後楽の有徳の指導者は何処に。
▼ 能登半島地震被災地での生活基盤の復旧は、遅いながらも少しづつ進んでいるように見受けられる。電気、水道、下水道の回復は喫緊である。各地の業者と自治体職員が応援に駆け付けている。相互支援の大切さは言うまでもない。同時に常設の国家的規模の援助隊が必要ではなかろうか。これこそ国民の生命生活を守る真の国防と思うのだが。
▼ 「用心棒」「椿三十郎」「隠し砦の三悪人」「蜘蛛巣城」など黒沢作品をDVDで観た。「七人の侍」はこれから見るつもり。言わずと知れた黒澤明監督、三船敏郎主演の映画だ。BSで放映したものを観たのだが、当家にBSは入っていない。娘宅で録画してもらった。随分昔、中高生の頃に封切られ評判になった。その頃と大人になってからビデオなどで見直している。モノクロならではの薄汚れた現実感、出演者の醸し出すそれらしさに迫力と臨場感が迫ってくる。如何にもという雰囲気は、やはり時代を映しているのであろうか。私の中では「七人の侍」が傑作だと思っている。ストーリーもさることながら音楽が優れ、涙腺が緩みがちになる。J・スタージェス監督により西部劇化されるのもさもありなん。
▼ 株価がバブル超えの高騰とか。実感はないのだが、どのように受け止めるべきか。日本の経済、産業にそれほどの実態があるのだろうか。円安が追い風になっているのかもしれない。周回遅れになってしまった半導体事業、巨額の補助金を出して台湾企業の工場を誘致し、落成したと報じられた。不安感は拭えない。かつて世界半導体シェアーの半分を占めた日本製は凋落の一途。政府の産業政策と企業努力の双方に先見の明が無かったということだろうか。
☆徘徊老人日誌☆
2月某日 行きつけの病院にてCT検査。と言っても年に1,2度の定例のこと。幸い大きな変化はなし。それでも検査結果が心配になるのは人間だれしも。
2月某日 川越の税理士事務所へ。昨年逝去した家人の姉の相続の件、税理士と司法書士から確定した相続分と税務申告の内容が説明された。税務申告と相続処理は、ほぼこれで終了。10か月を経過していた。思わぬことに直面する日々だった。故人は生涯独身で親はすでになく、子供はいない。すると相続順位は兄弟姉妹になる。もしその兄弟が死んでいたら、さらに代襲相続と言うことでその子が受け継ぐ。司法書士が戸籍を遡って相続権者の探索をする。土地建物などの財産処分をするには、一度相続人代表に名義を書き換える必要があり、家人がその役にならざるを得なかった。家屋土地の権利確認と片付け整理、それに関する支払い、車等の財産処分、厚生年金共済年金の処理、不動産処理に係る業者買主との折衝と立ち合い契約等、土地の確認測量と農転申請等、為すべきことが山積。それらにいちいち相続人であることを証明しなければならない煩雑さ。戸籍謄本、印鑑証明など何通用意したことか。想定外の厄介事もあり、今回は実にいろいろ勉強をさせられた。自分の親や親族である程度の体験はしていたが、やはり面倒なものだ。幸い親身な司法書士、税理士に恵まれたが、専門家の存在の意義を実感した。皆さん、事前に遺言書を作成するか、公正証書にしておくか、お薦めします。余談ながら日本の戸籍制度の凄味を知った。
2月某日 旧知(鶴ヶ島市勤務時)の学芸員が来訪。以前から書き溜めていた郷土史の原稿を見てほしいとのこと。以前に草稿を読んで感想を伝えてあったので、書き直したものを届けてくれた。自分の専門を生かして、地域の記録を残そうとする姿勢は尊い。小さな付き合いが続いていることは嬉しい。
先日歩いていると何やら薫風が、春の兆しです。民家の南側に沈丁花が開きかけていました。あの香りこそ春の知らせです。寒さの中に陽気の変化を感じますが、時として後退もありまさに三寒四温です。能登半島地震の被災者は春を感じているのでしょうか。生活基盤の再建を期待しています。海外ではウクライナ戦争に停戦の動きは鈍く、破壊と殺戮の日々です。ガザも同様、ジェノサイドが無慈悲に進行しています。住民はどこに避難するのでしょう。国連安全保障理事会は米露対立で機能不全。互いに拒否権を行使して解決の糸口は見えません。民衆の悲しみと苦しみが広がるばかり。核大国のエゴは許し難い。被爆国日本の外交努力は見えず、米国の言いなりです。情けない。
モランは見抜いている。「歴史上、狂気が理性を、無意識が意識をなぎ倒すことは頻繁に起こった。なぜもう一度、私たちの運命が狂気と無意識に操られることがないと言えるのだろう。」(「祖国地球」p.209)と。
怒りと不安の春になりそうです。心身を健全に保つには、やはり知性の力です。心がけましょう。どうぞご健勝でお過ごしください。
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