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『あのこたちは、どこに』

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#連載

『あのこたちは、どこに』④(小説)

 カフェの大きな窓から日が射しかかり、テーブルの上に置いてあるファッション雑誌に目を落とすと雑誌が反射して少し眩しい。
藤田風海は、以前働いていた職場の同僚が、店に入って来て風海に気付かず奥の窓際のカウンターの席に座った様子をじっと見ていた。
私が作った、中年の男性に預けたアクセサリーをしていた。
一体どうやって彼女のもとに行ったのだろう?
一個一個丹精込めて作った品だ。一品一品がいとおしいのに

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『あのこたちは、どこに』最終話

『あのこたちは、どこに』最終話

 カフェの入り口の扉から入って来て、その男性だとすぐに分かった。
 白いシャツに黒のスラックのズボンに黒い革靴の姿で現れた男性は、細身で長身、頬が少し痩けているせいか目の輪郭がはっきりしていて鼻筋も通っている。黒髪は、少し長めの七三分けで整えられていた。歳は27歳とすでに訊いている。
 その男性は、藤田風海を見つけると、軽く会釈をして風海のテーブル席に近付いて来た。
 お互い挨拶を済ませると、風海

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「あのこたちは、どこに」(小説)17

「あのこたちは、どこに」(小説)17

 リノベーションされた家は一階は、貸しスペース。二階に賃貸住宅、三階に事務所で建てられた。
 一階に各関係社と清水からも花が贈られ、飾られている。
「これで出来上がりました。また、不備なことがありましたら、ご連絡ください」一級建築士の清水はそう言って、藤田風海のところに挨拶に来た。

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『あのこたちは、どこに』(小説) 16

『あのこたちは、どこに』(小説) 16

 ぼん、ぼん。
 生温かい空気。暗闇の空。
割れるように音が身体の奥まで鳴り響く。
 白い浴衣や紺のの浴衣、髪をくるっと巻いて髪留めをしている女性たちが、その音から離れて行く。小学生の子供が出店で買ったリンゴ飴を舐めながら母親と少し厳つい父親と一緒に歩いて帰るようだ。
 自転車で来た高校生の男子たちは、女子の話でもしているのだろうか両足を地面につけながら自転車をこいでいる。
 浴衣を着たカップルは

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『あのこたちは、どこに』   (小説)15

『あのこたちは、どこに』   (小説)15

 店を出ると、夜の街は少し肌寒かった。大学が近いせいもあって、学生のグループが変に酔って少しふざけて声を荒げている。それを横目にサラリーマンたちが通り過ぎ、駅の改札口の方へと歩いている。
 藤田風海は、腕時計を見ると、8時を過ぎたところだった。まだ飲みたらない思いで清水に、
「もう少し飲みませんか?」と訊いてみた。
「そうですね」と、清水は全く酔った顔もせず、
「この辺で、よく行く店を知ってるんで

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『あのこたちは、どこに』*️⃣13

『あのこたちは、どこに』*️⃣13

 新緑の葉が風で揺れている。優しい春の陽が新緑の葉に反射して眩ゆいくらいだ。鳥たちは、花や虫など食べれるものが、この季節になると多くあって、さえずる声もよく響く。
 藤田風海は、一緒に仕事をしている勝間から、近くの空き家を買って、住居兼事務所兼貸しスペース兼賃貸部屋にリノベーションしてはどうかという案に賛成して、色々調べてある一級建築士にお願いすることにした。
 連絡すると、

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『あのこたちは、どこに』*️⃣12(小説)

『あのこたちは、どこに』*️⃣12(小説)

 イチョウの葉が黄色く色付き、道路脇の楓の枯葉が時折り風で飛ばされては、車が通りすぎてコロコロと舞っている。
 藤田風海のアクセサリーは、「ファンリー」というブランドを立ち上げてsnsで紹介したり、デパートで展示してもらえたこともあって、右肩上がりに向かっている。

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『あのこたちは、どこに』③(小説)

強く地面を激しく打ちつけるほどの雨は、至るところに水溜まりを作っていった。
傘をさしながら藤田風海は、水溜まりを避けながら指定していた国道沿いのカフェの店に入った。
雨だというのに、店内の席は人が多かった。まだ、電話の男性は、来ていないようだ。
風海は、窓側の席に座り、注文したコーヒーを一口飲んだ。

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『あのこたちは、どこに』②小説

電話に出たのは、女性だった。
「はい、何でしょうか?」
声を聞くと、40歳か50歳くらいの声だ。
「あのー。私、特産物店で『あなたの趣味の物を売りませんか』という印刷した紙を見て、電話をした者ですが…」
「あっ、そうですか。あの、ちょっとお待ちください」女性は、そう言って、
「ねえ、電話だよ。あれを見て、電話したって」と、遠くにいる誰かに喋っているようだ。
暫くして、

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『あのこたちは、どこに』①小説

仕事を辞めて、2週間が経つ。この前、一社を受けるが、連絡がない。
自分は、社会に必要とされていないのではないかと平日の青い空の下、買い物に車で走っていると時々思う。

自宅にいると自分を責めてしまうので、藤田風海は外出した。乾燥した冷たい風は、服装の薄いところから入って肌を突き刺す。名前に『風』とあるけれど夏生まれの風海は、厳しい冬の時期は苦手だ。
車に乗ってエンジンをかける。行き先は何とな

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