【読書】これぞ官能小説の傑作なのかもしれない『眠れる美女/川端康成著』
「川端康成」という作家の存在は知ってはいたけれど、ずっと著者の本を手に取れなかった。
あるとき、xで上記の投稿を見つけて、気になりすぎて思わず手に取った一冊がこちら。
まずもって、このキャッチコピー、パワーワードすぎないか。
この説明文を読んで、この作品を読まない人っているのだろうかと疑問に思ってしまうくらい惹きつけられて、図書館で借りて読んでしまった。
三島由紀夫が「息苦しい」とあとがきに書いているように
本当に息苦しい小説だった。
今までいろんな官能小説と呼ばれる類のものを読んできたけれど
これほどまでに、いわゆる官能小説を官能たらしめるシーンが描写されていないのに「官能」を感じさせるって、すげぇ。
とそんなことを素直に読み終わって思ってしまった。
めちゃくちゃ著者には失礼かもしれないけれど
たまたまふらっと立ち寄ったレトロ感溢れるバーで、片隅で飲んでいる別に派手でも地味でもない、清潔感と雰囲気のある男性に、自ら声をかけてしまって、予想外に話が盛り上がって、「2軒目行きましょうか。」ってなった行く先は、自然と近くのホテルになっていたけれど、そこに違和感が何もなくて、その前に立ち寄ったコンビニでお酒を彼が選んでいる間に逃げようとも全く思わなくて、そのままホテルに入るなり、買ってきたお酒で乾杯して話しているうちに、いつの間にか眠ってしまっていて、朝起きたら服は着たままなのにその彼は消えていて、連絡先を聞いていなかったことをその場でひどく後悔して、けれどそのときには遅くて、仕方がないのでしばらくの間、そのバーに毎日のように通ってしまうほどに、自分の中に彼の余韻が溢れて、結局のところ何もなかったがゆえに、彼が人生で一番忘れられない男になってしまうという感じ。
に、すごく似ている息苦しさだと勝手に思った。
「官能」ってこのことか。
と妙に納得させられる不思議で圧巻の小説だった。
そんな「眠れる美女」の余韻ままならぬままに読んだあとの別の章の小説にも、またさらなる余韻があって、まんまといろんなことを考えさせられた。
怖いのは、どの物語も、かなり昔に書かれている上に、現実からは遠い世界線で描かれているはずなのに、ありえない別世界の話だと思って油断していたら、ふと耳元でささやかれているような、急に現実世界に戻ってくる感覚に、めちゃくちゃしびれた小説だった。