春はあけぼの
こんばんは。
2022年度からは、高校で新学習指導要領が実施され、古文や漢文を含めた文学的な要素が強い作品は「言語文化」という扱いになるのだそうです。
同じ国語でも「現代の国語」に分類されるジャンルでは、求人票や法律文書などの読み解きが加わるらしく、企業勤めの経験がないまま大卒直後から教師になった知人はいささか困惑気味でした。
社会ではなく国語の分野で要求される要求されるようになるというのを不思議な面持ちで相槌を打っていましたが、実際には企業勤めであっても全員が契約書の内容を読解、説明できるとは限りません。
リーガルチェックや些細な契約書の文言修正でも特定の部署や専門知識のある方、場合によっては外部の専門家へ依頼する企業もあります。
随分と方向性が変わるのだなと感じつつ、ふと学生時代の国語の時間に思いをはせるのでした。
春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。
夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光て行くもをかし。雨など降るもをかし。
なぜか思い浮かんだのは『枕草子』の冒頭です。
当時は様々な古典の冒頭や作者を覚えるという教育方針でした。
実態は現代よりもはるかに寿命が短く、権力争いも熾烈を極め、必ずしも優雅なばかりではないものの、文学の中の平安時代は何となく華やかな気配の漂う独特の世界観でした。
久しぶりに懐かしくなって、清少納言を主人公にした小説をいくつか手に取ることに。
砂子のなかより青き草 清少納言と中宮定子
宮木あやこさんの『砂子のなかより青き草 清少納言と中宮定子』では、紫式部の怖さ、中高年評論家のイメージのあった清少納言の恋愛事情など、学生時代に一部を読んだ『枕草子』とは異なる生々しい平安時代の女性たちの姿を感じ取りました。
こちらの清少納言は、大河ドラマの主人公のようなどこか強さを感じさせる平安式のキャリアウーマン。
『枕草子』には綴られなかった、清少納言（アラサー）の恋と悲劇そして幸せ
美しいあの方のお傍に、恥じることなくいられるだけの強さが、ほしい――
平安中期、時の帝の寵愛を受ける中宮（平安時代の皇后）定子に仕えることになったなき子（清少納言）。
当時としては「年増」と呼ばれる年齢になってから才を買われて宮中に入ったなき子だが、定子に瞬く間に魅了される。
華やかな宮廷で卑屈に縮こまっていたなき子の心をほぐしてくれた、眩いほどに美しい年下の主人。
「女が学をつけても良いことは何もない」といわれていた時代、共に息苦しさを感じていた定子と清少納言は強い絆で結ばれていくが、定子の父の死によって栄華を誇った一族は瞬く間に凋落していく……。
定子の兄・伊周との身分違いの恋に苦しむなき子、そして紫式部との因縁。
悲運の時代を描いた哀切にして美しい平安絵巻に仮託した、女性の自立の物語。
「わたくしたちがずっとその心を忘れなければ、女が役に就ける御世がきっと来る。この悔しさを、のちの世の女は味わわなくてすむようになる」
はなとゆめ
冲方丁さんの『はなとゆめ』では、もう少しヒロイン臭が漂う清少納言。
悲劇の中宮としても描かれることの多い定子に、そこそこの前評判で出資したにもかかわらずイマイチパッとしない、内気で陰に隠れようとする清少納言。
定子に才能を見出され、「この方のために！」と奮起する様子の清少納言は、定子に対して現代でいう推しや宝塚のファンとも通じるような感情をいだいていたのかもしれません。
それであれば、ことあるごとに「定子様のいらした頃は…」と『枕草子』の中で回顧する清少納言も、紫式部の評価による鼻持ちならない傲慢な女ではなく、何だか可愛らしく思えるではありませんか。
『天地明察』『光圀伝』の異才が放つ、傑作歴史小説！
なぜ彼女は、『枕草子』を書いたのか――。28歳の清少納言は、帝の妃である17歳の中宮定子様に仕え始めた。華やかな宮中の雰囲気になじめずにいたが、定子様に導かれ、その才能を開花させていく。機転をもって知識を披露し、清少納言はやがて、宮中での存在感を強める。しかし幸福なときは長くは続かず、権力を掌握せんとする藤原道長と定子様の政争に巻き込まれて……。清少納言の心ふるわす生涯を描く、珠玉の歴史小説！
さしずめ、現代でいえば清少納言はインフルエンサーであり、定子サロン所属の敏腕広報のひとりといったところでしょうか。
災害、疫病、不況、現代にも通じる諸問題が巻き起こる時勢下でも、華やかでユーモラスな世界観を配信し続けるのは、なかなかの精神力。
遠い時代ではなく、現代の情勢に照らし合わせて読んでみるとまた異なる味わいがある人物です。
今も昔も変わらぬ働く女性お悩みも垣間見える作品を手に取ってみてはいかがでしょうか。
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