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明日は雨だとキャスターは言っていた。
せっかくの連休初日が雨なのはちょっぴり悲しくなる。
休日の日数が割に合わなくなってきたので、向暑はるは有給を取った。
脳は平日だと勘違いしてたようで、いつも通りの時間に起きてしまった。
カーテンを開けると曇天が広がっている。
キャスターの予想通りにはいかなかったらしい。
身支度を整えて外に出た。
スーツ姿にせかせかと歩く社会人の集団に紛れ込んだ。
いつもならこの中の一部として埋もれているはずなのに、今日はやけに目立っているように感じる。
これを少し恥ずかしいと思ってしまうくらいには社会に染まってしまっているらしい。
特に目的もないままバスに乗った。
久しぶりにバスに乗ったけど、時間になにかとルーズで、走ったり止まったりを繰り返すのは、都会らしくなくて好きだ。
好きな街が近づいてきたので、そこで降りることにした。
降りる時に押すあのボタンは、未だに少しだけ緊張する。
外は肌寒く、コートを着てくれば良かったと後悔した。
寒いのは苦手なので、気になっていたカフェに颯爽と駆け込んだ。
カフェラテとプリンを一つ。
平日のおかげで席は空いていて、店内のBGMも心地よく耳に入ってきた。
休日は肌身離さず持ち歩く愛用のカメラで、一枚。
これではこの素敵な空間が十二分には伝わらないと思ったので、バックの中からパソコンを取り出した。
カフェラテとプリンを口にしながら編集を始める。
ある友人が、写真を編集する人は詐欺に近いと言ったけど、
じゃあ君は目の前の広告を見て食べたいと言ったマックのハンバーガーに詐欺られてるじゃん、と返したことがある。
普通の写真じゃ人の興味を惹くのは難しいことは分かっている。
だから向暑はるは編集をする。
編集が終わったタイミングと同時にプリンを食べ終えた。
我ながら上出来である。
カフェラテをお腹に流し込み、ふらふらと街を歩いた。
そういえば。と、周辺に人気のパン屋があることを思い出したので、向かってみる。
既に行列ができていた。
まあいいか、休日だし。
開店と同時に焼きたての香りがフワーっと、最後尾の向暑はるにも届いた。
この香りを楽しんでいれば待っている時間も苦ではなく、気づけば先頭にきていた。
クロワッサン全種類ください。
何を買うか決めずに店内に入ったけど、初見でこのクロワッサンを見て買わない人なんて多分いない。
帰りのバスでは、形を崩さないように、赤子のように丁寧に抱えていた。
紙袋からはパンの香りが溢れていた。
隣のおばあちゃんが話しかけてきたのは、その香りに誘われたからに違いない。
家に着いた頃には正午をまわっていた。
昼食は既に決まっていた。
映えも味も完璧で、お腹も心も満たされた。
ポツポツ ポツポツ
雨が降ってきた。
どうやら昨日のキャスターは正しかったらしい。