フィレンツェ ブランカッチ礼拝堂 奇蹟の壁画
前回の記事で予告しましたが 、今回はブランカッチ礼拝堂について取り上げます。
場所は フィレンツェのサンタ・マリア・デル・カルミネ教会の中にあります。
タイトルを当初の予定を変更して「奇跡の壁画」を追加しました。
どこが奇蹟かというと、教会は残念ながら18世紀に火災に見舞われてしまいましたが、この礼拝堂は幸運にもその被害から、免れられたということでした。
まずそれが大きな理由ですね。
教会自体は入場無料ですが 、この礼拝堂だけは仕切られてしまっていて、入り口も別です。
入場料は10ユーロで、観覧するのに人数、時間制限(30分)があります。(2024.7月現在)
初めて ここを 訪れたのは20年以上前ですが、その当時の物価で同じくらいの価格だったかと😅
ちなみに20年以上前と言うと、当時は サンタ・マリア・ノヴェッラ教会やサンタ・クローチェ教会などの主な教会が 無料で入れましたね。
礼拝堂は2023年まで修復されていたようで、 その影響か「地球の歩き方」では予約しないと入場できないと書いてました。
しかし サイトから予約しようと 何度やってもうまくいかず 💦ダメ元で直接行ってみたら、難なく入れたので良かった~😆!
ここで取り上げるのは 両側面と正面端の壁画についてです。
(天井画と正面の聖母子像の祭壇画は、別の時代のものなので除きます)
壁画のことを簡単に説明しますと1427年頃迄、 画家のマゾリーノ(1383頃~1447頃)とマザッチオ(1404~28/29)が共同制作していたということです。
しかし 中断後マザッチオ が 1428年頃 夭逝してしまい、 依頼主のブランカッチ氏もフィレンツェから追放されてしまったことで、壁画は半世紀ほど 未完のままになっていました。
それを 1480年から85年頃にかけて 画家の フィリッピーノ・リッピ(1457/58~1504)が完成させました。
何からお話ししようかなと思ったのですが、私がここを訪れたのは、好きな画家のフィリッピーノ・リッピ作でもあるし、自画像、師匠のボッティチェリ、弟子のグラナッチの肖像画が見られるので、それが第一目的でした。
始めはそれ等肖像画について、次に美術史の評価が高いマザッチオの技法についてお伝えします。
1. 壁画に描かれた当時の芸術家の姿
まず、上の赤で囲んだ人物たちで、正面を向いているのがマザッチオの自画像です。
他の傍にいる人物は、マゾリーノやブルネレスキなどの芸術家だとする説があるようですが、現時点で確証は得られませんでした。
余談ですが緑で囲んだ聖ペテロは、ミケランジェロが少年時代に、これを模写した有名なデッサンがあるので取り上げました(ここでは載せられないのですが、上手いですよ~😊ぜひミケランジェロの美術書などでご覧ください)
そして 上の写真は私が一番好きな絵です♥️
フィリッピーノ が描いてますが、裸の王子の少年は ミケランジェロと親しかったフランチェスコ・ グラナッチです(「芸術家列伝 フィリッピーノ・リッピ編」G.ヴァザーリ著より)。
グラナッチは ギルランダイオの弟子でもあり、ミケランジェロがギルランダイオに弟子入りする手助けをしたとも 伝わっています。
写真も撮ったけど、想い残しがないようにしっかり目に入れておきました😊
反対側も見事な壁画です。
まずはフィリッピーノの自画像と師匠のボッティチェリの肖像画の部分をご覧くださいませ。
他にも依頼主や関係者など、たくさんの人が描かれているようです。
当時は このように 宗教画の中に実在の人物をたくさん描き込んでいたんですね。
以下 2枚は ウフィツイ美術館にあるボッティチェリ の有名な作品です。
実は私は昔、ボッティチェリやフィリッピーノ、そしてフィリッピーノの父親フィリッポ・リッピの創作をしたことがあるのです。
フィリッポに弟子入りして来た少年サンドロ(ボッティチェリ)の読み切り短編シナリオだけですが、子役のサンドロやフィリッピーノの映像的なイメージでも、基はこれらになります😊
あと20年以上前だとネガフィルム写真はもちろん、普通のデジカメでも室内でフラッシュNGでは、とても鮮明には取れませんでした。
その頃のアルバムの写真を広げて比べると、今の写真技術ってすごいなって 改めて感じました😅
2. マザッチオの技法について
フィリッピーノの絵を中心に見てきましたが、次は マザッチオについて 。
美術史で1番評価が高いのはマザッチオの絵なのです。
先ほどの「左側」の写真で入りきれなかった面があり、その部分が下になりますが、上部がマザッチオ作です。
「楽園追放」では人体がリアリティに描かれていて、隣の「貢の銭」では遠いほど色を薄くしているという空気遠近法が用いられてます(湖の魚の口に手を入れているというペテロは薄く描かれていますね)。
マザッチオが用いた遠近法や解剖学的な絵画の技法の詳細は、私も図書館の書籍を読んだり、昔カルチャーセンターで習ったことを思い出したりするしかないし、もっとお詳しい方はたくさんいらっしゃるかと……😅なのでここでは、自分で見て来た他の作品などと比べて考察することにしました。
フィリッピーノなどの時代…つまりレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)以降の絵画をイメージしてしまうと、普通の絵にしか見えないのですが、
当時の一般的な壁画のスタイルと比べれば分かりやすいです。
この時代の絵画を見ることが目的ではなかったので、当時の壁画の写真があるか探したら、 プラート の大聖堂で撮ったものがありました!
プラートはフィレンツェ 近郊で、リッピ親子ゆかりの街。
大聖堂は フィリッポ・リッピの壁画で有名です。
プラートの作者不明の壁画と、「貢の銭」を見比べて、いかがでしょうか。
どちらもお祈りの場での絵画なので、好みもあるのでしょうが、マザッチオが描く人物たちはかなり写実的で、背景に遠近感も感じられるかと。
でもプラートの壁画の背景の建物なども、遠近的になってませんか😅
書籍などでマザッチオ以前の絵画(14世紀ごろ)を見ると、それなりに立体感や奥行きが感じられるものもあります。
マザッチオは絵画において「線遠近法」を初めて用いたということでも評価が高く、それを建築家のブルネレスキ(1377-1466)から学んだということなので、きっと建築で使えるようなしっかりしたものだったのでしょう(理系の領域っぽいので私は苦手です💦)。
マザッチオがその「線遠近法」の「透視画法」で描いたという、研究者の間でとても評価の高い絵画「三位一体」(1427年頃)がサンタ・マリア・ノヴェッラ教会にあるのですが、私は今回訪れず、過去の写真もなかったため、載せられませんでした。
フィレンツェに行かれるご予定の方、こちらの教会はミケランジェロやグラナッチの師匠、ギルランダイオの壁画などもあり、見どころ満載なのでもちろんお勧めです。
さらにリアルに描かれているのは、マザッチオのアダムとイブの裸体像で、当時としては画期的だったということです。
マゾリーノも描いています。
他の作品でこの頃の裸体像は数も少ないのか、撮った写真の中に良い絵画はありませんでした。
カルチャーセンターの講義を受講していた時、当時は人体をこのように解剖学的に表現するのは、絵画より彫刻の方が進んでいたと聞きました。
今回は彫刻作品の写真の数が少なく、年代もはっきりしないものも多かったのですが、探し出したのを挙げます。
どれもガイドブックに載っている作品です。
上の2作品はフィレンツェ大聖堂の傍にある、サン・ジョバンニ洗礼堂の扉(装飾)を制作する彫刻家を選ぶコンクールの、最終審査に残ったものです。
テーマは「イサクの犠牲」でブルネレスキは準優勝、ギベルティは優勝しました。そして選ばれたギベルティ(1378-1455)はその後何十年もかけて扉を制作。ミケランジェロがその扉を「天国の門」と呼んだことでも有名です。
これら浮彫そのものは小さい作品ですが、裸体像のイサクの部分を拡大してみました。
この部分をしっかり見るのは私も初めてでしたが、きちんと肉体表現されているのがわかりますね。
ブルネレスキ作のものを評価する研究者もいらっしゃいますが、私的にはやはりギベルティ作の方が良いかなと思っていました。
全体的にもギベルティの方が好きだったのですが、改めてイサクの部分だけ見ても…やっぱりギベルティの方が上手かな(^^)
上のブロンズ像の制作年は、ブランカッチ礼拝堂より後ですが、彫刻家ドナテッロ(1386~1466) はマザッチオより年上で、ずっと活躍していて、これもとても有名な作品なので、参考までに載せました。
そしてこのテーマの終わりに上の絵を挙げました。
これまで特別好きでも、関心があったわけではない部分だったのですが、いかに写実か解剖学的かを意識して見ると、この裸体像が見事と判断しました。
こうして見るとミケランジェロが描いたと言っても違和感ないとも思ってしまいます。
ミケランジェロ・ブオナローティが活躍し出すのは、これより 約70年ほど後ですね。
3.まとめ 他
タイトルを「奇蹟」にした第一の理由は火災から免れたこと、第二を挙げるとしたらマザッチオの描き方ですね。
これが伝授されて後世「ルネサンス」とも呼ばれる多くの芸術家(当時は職人という概念でしたが)が生まれましたから。
記事をご覧になって少しでも楽しめられたら幸いですが、もしフィレンツェを訪れる機会がありましたら、こちらブランカッチ礼拝堂、是非お勧めです。
壁画をご覧になるだけでも楽しめますが、図書館などにある美術書を参考にされたら、より楽しめます。
私としては、ここはミケランジェロに関わるエピソードもあるし、またフィリッポ・リッピが入所していたカルミネ教会でもあり、フィリッピーノ・リッピが壁画を完成させているので、外せない場所でしたね。
最後に、壁画で未だ載せていない箇所と、先ほど述べたギベルティ作「天国の門」のオリジナルの写真を載せます。
よろしければご覧くださいませ😊
【参考図書】
「図説 名画の誕生 ルネサンス絵画入門」 仲川与志/西永裕 著 秀和システム
「地球の歩き方 フィレンツェとトスカーナ」2019~20年版 学研プラス