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長谷川ひとね
2023年12月28日 22:47
直ぐにお風呂に入れて寝かせてあげたかった駅のベンチの下で一夜を明かし嘔吐物で白いティーシャツを赤茶色に染め髪はボサボサ所持品は無し泥酔のはての虚な彼を警察から呼び出され車を飛ばして迎えに来たのは私が彼の母親だからベンチに置かれた水のペットボトル ついさっきまで死がそこにいた道々抱えてきた怒りは粉砕し心臓が凍りつくお風呂に入れてあげたくて布団に寝かせてあげたく
2023年12月1日 17:21
マリーアントワネット風の髪型に長いイヤリングをぶら下げ老人ホームにいるはずの二人の伯母がファミレスの席につく先に来ていた伯母は昔とちっとも変わらないもう一人、知らない女がいる伯母達は私のことを覚えているのか確かめようとするが各々喋りまくっている相変わらず賑やかな関西弁が飛び交う 伯母達はネイルで煌めく長い爪を上手に絡ませ互いの手を取り笑っていたぽつねんとした私は先に来
2023年6月28日 21:49
祖母は身体を乗っ取られ男の声で喚いていた合わせた掌は震え霊というかつて人であった人は僧侶に縁側に連れて行かれ尻を叩かれて追い出された家族はあんぐり口を空け祖母に入った見えない男を見ていたある時祖母は再び男になって喚き出した欺かれた私たちには僧侶を呼ぶ暇はなく母が男を説得したのだまさかの男はいなくなった母は祖母を取り返したのだった以来仏壇にお茶が一つ追加
2023年5月24日 07:11
爺ちゃんは死んでから婆ちゃんの寝床に夜這いしていた明治生まれの駆け落ち婚なのに爺ちゃんは散々浮気をして庭の離れに追いやられずっと一人で寝ていた婆ちゃんにすれば迷惑でいよいよ寝れないもんでイタコのところへ出かけて行った口に寄せられた爺ちゃんは婆ちゃんに言いたいことがあったようで「ありがとう」別れの言葉が雲を跨いだ
2023年4月16日 17:50
じいちゃんは死んだんだよ五歳の私には死がわからなかったじいちゃんは寝たままずっと動かないもう起き上がらないとわかったとき死んだがわかった悲しくて悲しくてうっぷしておんおん泣いたずっとずっと泣いていたら伯母さんがそばにきて優しくさすってくれた小さいのにねってわかるんだねって泣きやんではいけないような気がして泣いていた泣いていたらだんだん嘘泣きになっていった
2022年7月18日 17:21
火葬炉から出てきた父遺体は灰色に燻り頭蓋骨の下に歯がきれいに並んでいた長い箸を手に回りを囲んでいた親戚達は皆、驚いたなんて丈夫な歯だ24歳の初孫は歯を一本挟み5歳の末孫は箸を噛み一同騒然となり慌てて止めすんでのところで骨は口に入れなかった皆んなで泣き笑いの骨揚げ崩れそうになる体を棺に追いすがった母と妹と私なんだ悲しさと可笑しさは別々のところにあるんだ小
2023年3月29日 12:38
薄青い空つがいの鳥悠々と飛んでいてぼくは鳥になりたい鳥は自由でいいなたった四才の息子の言葉を思い出すどうも叶えてあげられないともう自由じゃないかと笑い飛ばした私まだ生まれて数年なのにもう人間をやめたいなんて朝から晩まで早く早くと言いすぎたのかそれだめ、これだめだめだめだめと言いすぎたのか今、君は可愛いお嫁さんをもらって毎日元気に飛び回っている宅急便の
2023年3月29日 12:23
春が億劫だった新しい教室新しい友達生ぬるい風は不安をあおりただただ疲弊していた桜は圧倒的で貧相な私をなおさら貧相にしたでもあの日あたたかい風が背中をおしてくれた優しいひかりが強さをくれた桜が私を輝かせてくれたあなたを産むため一人で歩いていた道分娩台の上で名前に春をつけようと思った春が好きになっていた和風月名の詩 卯月(4月)
2022年1月27日 06:51
父は私を抱きしめお前は優しいなと言う生きている時に言われたことはない父は黒い犬になって遠くのベンチにかけていったベンチにいる老婆に嬉しそうに懸命に 尻尾を振っているそれが本望のようでやがて老婆について黒い犬は逝ってしまった私は立っているしかなかったじっと立って見送っていた
2022年1月26日 19:18
はじめて入院した父腕時計が壊れたから修理に出してくれと言う父は二十歳の時祖父から腕時計を貰ったところが山で失くした必死に探したが見つからなかった残念で仕方なかった父は自分でこの腕時計を買った祖父から貰ったものとして大切にしていたのはそういうことか腕時計と父の命が重なる一刻も早く直さなくては腕時計を時計屋に託す父は一歳の時肺炎で死にかけた祖父母は鯉の生き血を懸命