
Happy Women's Map 京都府京都市 日本女性初アカデミー賞受賞衣装デザイナー / Japan's First Female Costume Designer Awarded an Oscar, Ms. Emi Wada

「豪華な衣装であれ質素な衣装であれ、私は日本人というものを美しくみせたい。今の日本人は裕福になったけれどもあまり美しくないのではないかと思う。」
"Whether they wear gorgeous, formal costumes or frugal, plain attire, Iwant my Japanese characters to be beautiful. Today's Japanese are prosperous , but they seem to have sacrified some of their beauty."
ワダ・エミ (本名 和田 恵美子)女史
Ms. Emi Wada
1937 - 2021
京都府京都市 生誕
Born in Kyoto-city, Kyoto-fu
ワダ・エミ (本名 和田 恵美子)女史は舞台美術・衣裳デザイナー。日本人女性で初めて米国アカデミー賞衣装・デザイン賞受賞。映画また舞台の双方で世界各地で数多くの作品を手がける。
「糺の森」
富山の薬売りから大阪で製薬会社を起こして莫大な富を築いて大阪市議会議員になった曽祖父・野口茂平から数えて3代目の父・伸男と、母・寿美子のもと、エミは5人きょうだいの長女として誕生。小学3年生で敗戦を迎え、京都下鴨神社の「糺の森」につながる敷地で、森と伝統文化と音楽と輸入雑誌と一流の舶来品に囲まれて育ちます。エミはおしゃれな祖父母・両親にならって、お気に入りの職人とやりとりを重ねて自分らしい納得のいく洋服や着物を誂えます。洋画家・堂本尚郎に師事して自宅にアトリエをつくってもらい、フランス映画専門の劇場に通いつめながら、同志社女子中学・高校から画家を志し、京都市立美術大学(現・京都市立芸術大学)の西洋画科に進学します。学校がちっとも面白くないエミは、ある日、母の知人の脚本家・依田義賢の家に使いに行って、NHK大阪のテレビドラマ監督・和田勉と出会います。安部公房や遠藤周作、武満徹や林光や黛敏郎、といった気鋭の文学者また作曲家と一緒に仕事をする和田にエミは可能性の広がりを感じます。「料理も掃除も一切しなくていい」熱烈なアプローチを受け、ニューヨーク・パーソン・スクール・オブ・アーツやシカゴ・アート・インスティテュートの奨学金を諦め、出会って半年後20歳で結婚します。
「夫・和田勉」
早速、エミは結婚した年に、劇作家・堂本正樹の詩劇『青い火』を演出する夫・勉の舞台の美術・衣裳デザインに取り組みます。衣装デザイナーがまだいない時代に、メリヤス生地を学校で染めて、手縫いで彫刻のような衣装を仕上げます。「他者がいることで成立するところが面白い」「役者や照明や音楽次第で変化していく空間と時間の妙は、キャンバスでは表現できない」。もまなく「草月アートセンター」「東京画廊」で前衛芸術家たちのアートイベントやパフォーマンスが盛んにおこなわれる東京に、エミは夫の転勤に伴って住みます。息子の育児の傍らで、夫の仕事の人脈を広げるように、作家・三島由紀夫、シャンソン歌手・美輪明宏、劇作家・寺山修司、詩人・吉本隆明、演劇評論家・武智鉄二、映画監督の羽仁進や勅使河原宏、ジャンルを超えた交流に刺激を受けながら、舞台・衣装デザイナーとしてミュージカルにオペラにアングラ歌舞伎に雑誌編集に挑戦します。
「乱」
40代半ばの或る日、黒澤明の製作発表パーティーに参加したエミは、シェイクスピア好きが高じて意気投合。「リア王」を時代劇として映画化する「乱」の衣装デザインに大抜擢されます。エキストラの衣装まで含めて1400点。エミは数百冊の書籍資料と生地を何度も何度も車に積み込んでは黒澤監督と打ち合わせをします。安土・桃山時代を再現するために、京都在住の能・狂言の装束の熟練職人に糸染から織り上げまで昔ながらの手工業で織り上げてもらうことに。エミは新しいアイデアを持って工房に何度も何度も通って試作をチェックしては、数十色もの糸で1日15センチしか織れない生地を1着3か月かけて同時発注。資金が行き詰まると「私の家を売ってでも払います」「支払いは1年待ってください」。自宅のふろ場で自染めしてコインランドリーで乾燥、衣装費を大幅に節約(数億円を5千万に)。エミの情熱が黒澤監督を動かし、フランスの大手映画会社の出資を引き出し、続く日本の映画制作会社の出資で製作が再開します。3年10カ月かけて完成した衣装は、米国と英国のアカデミー賞最優秀衣装デザイン賞を受賞します。
「人間を捕えようとする作品」
世界各地での仕事が次々に舞い込むエミは、生地・装飾パーツ・技術者・予算が集まる北京にアトリエを構え、映画とオペラの両立に時間を割き続けます。ジュリー・テイモアの演出、小澤征爾の指揮によるオペラ「オィディプス王」(米国エミー賞最優秀衣装デザイン賞)、スティーブン・ソンドハイム監督とミュージカル「太平洋序曲」、張 芸謀(チャン・イーモウ)演出と譚盾(タン・ドゥン)作曲のオペラ「始皇帝」、市川崑 監督と映画「鹿苑」「月下の姫君」、勅使河原宏 監督と映画「利休」、黒澤明 監督と「夢」、ピーター・グリーナウェイ監督と映画「プロスペローの書」「枕草子」「8½ Women」、張婉 婷(メイベル・チャン)監督と映画「宋家の三姉妹」(香港電影金像奨最優秀衣装デザイン賞受賞)、于仁 泰(ロニー・ユー)監督と映画「白髪魔女伝」(香港電影金像奨 最優秀衣装デザイン賞受賞)、大島渚監督と映画「御法度」、張 芸謀(チャン・イーモウ)監督と映画「空飛ぶ家」「HERO」(香香港電影金像奨 最優秀衣装デザイン賞受賞)、田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)監督と映画「The Go Master」「The Warrior and the Wolf」など。エミは「アメリカ人の想像上の日本を描いている」として映画「SAYURI」の衣装制作を断ります。最後の作品は、ベネチア映画祭でプレミア上映された 許 鞍華(アン・ホイ)監督の「Love After Love」。
-「私という衣装」(ワダエミ 著 / 求竜堂1989.10)
-「わたしが仕事について語るなら」(ワダエミ 著 / ポプラ社2010)
-「Emi Wada: My Life in the Making | Stagecraft」(Emi Wada 著 / Communion W Ltd 2005)
-「映画撮影 (89)」(日本映画撮影監督協会1985-07)
-The Costume Designer - The Meaning of Life
-Ran Wins Costume Design: 1986 Oscars
-「『アカデミー賞』受賞でも成功とは思っていない、ワダエミの流儀」CINRA 2015.03.16
-「ひとつの世界を作り上げるためすべての衣装を作る」WENDY NET 2011.08.
-"Emi Wada obituary" The Guardian 2 Dec 2021
