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明治天皇の晩餐会の料理を八芳園シェフが現代に再現【NHK番組 歴史探偵】

NHK総合にて2022年9月28日(水)午後10時より放送予定の番組、歴史探偵『肉食解禁!明治天皇の晩さん会』の収録を八芳園で実施。
明治22年に開催された「明治天皇の晩餐会」で振舞われたメニューを、八芳園 統括料理長 新田周平が過去の文献から紐解いて再現しました。

明治22年に開催された「明治天皇の晩餐会」

明治22年に開かれた宮中晩餐会『大日本帝国憲法の発布を祝う大宴会』
明治天皇が主宰者となり、憲法の発布という「立憲国家誕生」の瞬間を世界各国の公使たちを招いてお披露目する重要な場でした。
ゲストに招かれた世界の公使たち約400名には、料理が振舞われたそうです。

白鳳館にて行われたNHK番組歴史探偵の収録の様子

この度の番組では「明治天皇の晩餐会」の12品のメニューのなかより、肉料理3品を再現いたしました。

料理の再現を担当したのは、今年5月に行われた、アメリカ合衆国のバイデン大統領と岸田総理大臣の「日米首脳非公式夕食会」のメニューも手掛けた八芳園 統括料理長 新田周平。

過去の文献を紐解きながら、明治時代の料理を再現するまでの過程をご紹介いたします。

八芳園 新田シェフが現代に再現した
「明治天皇の晩餐会」のメニュー3品

今回再現した「明治天皇の晩餐会」のメニューは以下の3品です。

烹込牛繊肉 松露菌 - 牛ヒレ肉のトリュフ風煮込み
薄切羊肉 豌前 -
 薄切り羊肉青豆添え
凝汁寄鴈肝 -
 フォアグラのゼリー寄せ

牛ヒレ肉のトリュフ風煮込み
薄切り羊肉青豆添え
フォアグラのゼリー寄せ

料理の再現にあたる
新田シェフのこだわりとは?

晩餐会のメニュー再現について新田シェフに語っていただきます。

▼当時の料理人の考えに寄り添いながら再現

晩餐会の料理を再現するにあたり、基本は「当時の再現性を高める」ということを重要視し、当時の料理人がどのように調理したのかを紐解くことにこだわりました。

現代の調理法でも、見た目だけを似せるなど「それ風」のものであれば簡単に再現できます。
しかし、本当に晩餐会で出された料理を再現するのであれば、当時の料理人が、どんな厨房機器を使って、どのように調理していたのかというところまで紐解いていくことが必要だと考えました。

もともと私は、このような昔の料理や歴史的な背景に強く興味があり、個人的に調べることも大好きです。
時代背景を知っているため、どの調理法が確実かという検討もつけやすく、今回は、オーギュスト・エスコフィエ『エスコフィエフランス料理 LE GUIDE CULINAIRE』 (柴田書店 1969年)、小野正吉『フランス料理』(柴田書店 1981年)、2冊の文献を軸にしながら料理の開発を行いました。

私の解釈で料理を再現するにあたり当時の料理人たちの考えや時代性とずれていないかを反映しながらレシピを作りました。当時の文献を読むことにより、フランスに渡った日本の料理人たちはどのように考えているのかなど、必ず答え合わせを行いながら進めていきました。

新田シェフの参考文献

▼「漢字」での表記から紐解く晩餐会のメニュー

「明治天皇の晩餐会」のメニューは、フランス料理を学んだ日本の料理人が、日本にある材料で作ろうとしたと考えられます。
実際に使用されたメニューの名前は全て漢字で表記されていました。
それにルビを打ち、一度現代の日本語に直してからフランス語に戻す、という作業をしないと、厳密にどのような料理なのかを紐解くことが出来ませんでした。

明治22年2月11日 大日本帝国憲法発布大宴会 メニューカード(イメージ)

当時の料理人も、このような漢字の書き方をしても何の料理か伝わらないだろうなと感じていたと思います。
しかし、当時は西洋の料理を食べ慣れていない人々に料理を提供しなければならなかったため、当て字にしたり、省略して表記していることが多かったようです。

今回、番組から提供されたのは文献と資料のみで、具体的な料理の解釈はこちらにまかされておりました。
そのため、まずは「書かれている文字が何を指しているのか」というところから紐解きが始まりました。

▼料理3品の使用食材と調理方法、特徴について

烹込牛繊肉 松露菌 / 牛ヒレ肉のトリュフ風煮込み

【主な使用材料】
群馬県産 赤城和牛
オーストラリア産 黒トリュフ (フレッシュ)
フランス産 黒トリュフ (瓶)

「烹込牛繊肉 松露菌」「牛ヒレ肉のトリュフ風煮込み」と解釈しました。

当時牛ヒレ肉は、しっかりと火を通すことが重要視されていました。
そのため、火を通したとしてもお肉をやわらかく食べてもらいたいというようなニュアンスをもった、「烹」の字の表記がされていると読み取りました。

実際には「煮込み」というよりも「蒸し焼き」や「蒸し煮」に近いような形で作られていたと思われます。
この調理法はフランス語で「ブレゼ」といいますが、日本語の漢字で当てはまる表現はなかったため、このような表記になったのでしょう。

牛ヒレ肉は切って両面を焼き、赤ワインとコニャックでフランベにして、フォンドボーとトリュフとともに煮込みました。

今回の素材を探すにあたり、先日群馬県を訪れた際に、当時と同じかなと推察される環境で育てられた「赤城和牛」を見つけてきました。
「赤城和牛」を育てる群馬県の鳥山牧場は、地域循環型のサステナブルな事業を行っている牧場で、米や稲穂を食べさせて仔牛を育てています。

当時の牛は現代のような外国産の飼料は食べていないと考えられるため、この「赤城和牛」に行き着きました。
当時のメニューに近いものにするため、赤みが強く、サシのきめが細かく、脂身が少ないものを今回は仕入れました。

付け合わせには人参と蕪、そしてニンニクをピューレにしたものを小さなタルトレットに絞って盛り付けています。

ニンニクのピューレの現在の作り方は、ニンニク臭さを抜くために、沸かして茹でこぼすという作業を10回程度繰り返します。
そのあとに、生クリームや牛乳やバターを混ぜて作るのですが、今回のメニューでは牛乳に浸したパンと一緒に作りました。

食パンを使用すると、滑らかなもたっとした食感になる効果があり、昔の料理に多い手法です。
当時は、ソースなどにとろみをつけるのは片栗粉ではなく、代わりにパンを使用していたそうです。

「松露菌」と表記されるのは「トリュフ」です。
当時トリュフは日本に出回っておらず、海外から運ぶ際には瓶詰めや缶詰だったため、トリュフ汁と一緒に火が入ったものが日本では使用されていたと考えられます。

当時の一皿に近づけるため、今回は生と缶詰、2種類の「黒トリュフ」を使用いたしました。

薄切羊肉 豌前 / 薄切り羊肉青豆添え

【主な使用材料】
ニュージーランド産 羊肉
国産 グリンピース
人参のグラッセ

「薄切り羊肉青豆添え」には、羊の後ろ足を使用します。
前足より後ろ足のほうがボリュームが出るため、当時は後ろ足だけを使用していたと考えられます。

シンプルにローストした羊の肉を薄切りにしていく、いわゆるフランス語でいう「エギュイエット」のようなものだと推測しました。

「豌前」「グリーンピース」です。
晩餐会の時期的にも、春の素材なのではないかということが推測されます。

春の仔羊の料理といったら、「ナバラン」というフランスの郷土料理が思い浮かびます。
「ナバラン」は春野菜と仔羊を一緒に煮込む料理で、よく「空豆」や「グリンピース」を使用します。
「グリンピース」はえんどう豆なので、当時の日本でも収穫できました。

仔羊や青い豆は「春の象徴」とされており、このような仔羊や春野菜を使用した料理は、フランスでは「春が来た」と感じるような季節の料理です。

調理方法に関しましては、当時はしっかりと焼いていたと思います。
今回はそぎ落としながら切るような形の盛り付けになるため、少しだけピンク色を残した焼き色で仕上げました。

羊の味付けは塩だけですが、ソースに関しては仔羊のだし汁を使用します。

ソースの作り方は、「フォンダニョー」という仔羊のだし汁を煮詰めていき、「ブールマニエ」という小麦粉とバターを溶いたものでとろみとうまみをつけていきます。

焼いた仔羊の骨や端材も一緒に白ワインとともに煮詰めていくので、シンプルな仕上がりになります。

凝汁寄鴈肝 / フォアグラのゼリー寄せ

【主な使用材料】
フランス産 フォアグラ / 黒トリュフ
宮城県名取市 赤パプリカ

「鴈肝」「フォアグラ」「凝汁」という漢字は「コンソメ寄せ」という意味だと推測しました。

トリュフと同様に、フォアグラは当時日本では作られておらず、海外より缶のものが日本に届いていたはずです。
今回の料理では当時の再現性を高めるために、フランス産の缶のフォアグラを使用しました。

調理方法に関しては、蒸し焼きに近い形だと考えられます。

テリーヌ型を使用してフォアグラを蒸し焼きで固め、余分な油を抜きます。
型に組んだものをひっくり返して形成しますが、途中でダイヤ型に切ったトリュフを入れ、その上からフォアグラで蓋をしていきます。

「ショーフロア」という、温めて冷やしてゼリーコーティングをする料理がありますが、それと同様にコンソメをしっかり詰めて、生クリームとゼラチンで固めたのが一層目の白い部分です。

フォアグラを型から外してひっくり返し、ゼリーがぎりぎり溶けないくらい、固まらないぐらいの状態で上からショーフロアソースをかけ続けてコーティングをする。
その後、1枚ずつ型抜きしたトリュフのスライスを飾り付けに貼って行きます。
これはとても大変な作業でした。

白い部分が固まったら初めてコンソメが登場します。

当時の日本にもゼラチンは存在し、ゼラチンで作った「アスピック」というゼラチン料理も登場していたようです。

ゼラチンの味はパプリカ風味のコンソメになっています。
パプリカを、溶かすことによりコンソメ全体の色と風味を濃くしたものが当時のメニューに近いと考えます。

今回の再現にあたり、こういう料理だろうという解釈を起こしだけで1週間ほどかかりました。
2冊の本を中心に当時の料理に近いものを書き出していき、それに近しいフランス本国のレシピを探して検討をつけました。
料理が生まれた土地の言葉で調べなければ、深い資料は出てこないので、フランス語で当時の料理について追っていく作業を行いました。

その後、集めた資料を元に、2週間かけて他のシェフとともに具体的なレシピ起こしを行っています。

白鳳館にて行われたNHK番組歴史探偵の収録の様子

その他にも歴史上のレシピを3品
八芳園 新田シェフが再現

番組内では「明治天皇の晩餐会」のメニュー3品の他にも、歴史上のレシピを3品、八芳園 新田シェフが再現しております。

カステラ

【主な使用材料】
福来純「伝統製法」熟成本みりん
きび砂糖 / 甜菜糖
山梨県甲斐市 黒富士農場 平飼い卵

鴫壺(しぎつぼ)

しぎつぼ

【主な使用食材】
京都府産 かも茄子
埼玉県産 うずら

富士山アイス

【主な使用食材】
伊豆大島 大島牛乳
山梨県甲斐市 黒富士農場 平飼い卵
岐阜県白川町 美濃白川茶 抹茶 飛山

NHK総合 歴史探偵
『肉食解禁!明治天皇の晩さん会』 
放送は2022年9月28日(水)午後10時より

歴史探偵『肉食解禁!明治天皇の晩さん会』 はNHK総合にて、2022年9月28日(水)午後10時より放送予定。
歴史に挑む新感覚番組と、新田シェフの再現料理をぜひご覧くださいませ!

今回番組内で再現したメニューは、八芳園のご宴席でのメニューとしてのご用意も可能です。

メニューについてのお問い合わせは

八芳園 広報  promo-all@happo-en.com 

まで、ご連絡ください。

《文・写真》八芳園 広報チーム 髙橋