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お前のほうが迷惑だ!
今日は隅田川花火大会だったので、始まる前に帰路についたが電車は混雑していた。
山手線内で20代位の男性の大きな声が響いた。
「おとなしくしていられる?
だったら行こうか?
帰ろうか?
新宿まで行く?」
一緒にいた男性(兄弟?ヘルパーさん?)に何回も確認している。
よくある光景だ。
男性はおそらく自閉症で、直前に言われた言葉を繰り返しているのだ。
声は大きいが、暴れたりしない。
優しい言葉をかけてもらっているのだな、とほっこりした。
次の駅で座席が空いたので座った。
私の隣は60代の女性、その向こうには40才位の男性。親子かな。
女性が「こんなに早い時間から酔ってるのかしらね」と世間話のように息子に呟いた。
しばらく二人は小声で話していたが、だんだん息子が怒りで昂ぶってきた。
息子「あの野郎、ぶん殴って来てやる!」
母「やめなさい。あの人は声が大きいだけで友達がいるんだから、いいのよ」
息子「だったら、その友達に言ってきてやる!皆迷惑してるんだからやめさせろって!」
そのうち自閉症の方の声より、隣の息子の声の方が大きくなってきた。
母「そんなことしたら、あの人と同じじゃない!」
息子「俺をあんな奴と一緒にするのかよ!みんな迷惑してんじゃねーか!」
地団駄踏んで野獣のようにいきりたっている。
明らかに自分より弱そうに見える人を叩きのめして、自分がヒーローになりたいのか?
私は身を乗り出して親子の様子を無遠慮に眺めた。
これは私の抗議だ。
何やってんの?バカじゃないの?
という目線だ。
息子はTシャツ短パンで手ぶら。
母は重そうなキャリーケースを持っている。
キャリーケースには二人分の荷物が詰まっているのだろう。
二人の年齢差なら息子がキャリーケースを持つべきだろう。
そうでなければ自分の荷物は自分で持って然るべき。
あれ?見た目は普通だが、こっちの方が重度だ!
「みんな迷惑だとおもってるんだよ!だから俺が!」
必死に宥める母の背後から
私「迷惑だなんて思ってませんよ!」
とはっきり目を見て言った。
母「え?あの方は迷惑じゃないってことですか?」
私「そうです」
母「あの方は友達がついているから、口を出すべきじゃないと言うことですか?」
私「その通りです」
母「ほら、そう言われたじゃない!だからおとなしくしなさい。
まだそんなこと言うなら、もう降りるよ!」
息子「でも他の人はみんな迷惑してると思っているんだよ!」
その時「面倒な人にはかかわりたくない」と見て見ぬフリをしていた乗客が、一斉に息子へ非難の眼差しを向けた。
誰かが勇気を出して一声上げれば、空気が変わるのだ。
私はいつも一声を出すようにしている。
殴られそうになったり罵声を浴びせられたりする。
怖い。足はブルブル震えている。
しかし一度空気が変わると、助けようと近づいて来てくれる人が絶対に現れる。
バカを野放しにしているとエスカレートしてしまう。
それは変えたいと思う。
その勢いに圧されて、息子は黙ってしまった。
母は自分の片手をもう片方の手で思い切り引っ叩いた。
ずっと息子を叩きたいときに自分の手を叩いていたのだろう。
お母さん、もうそんなに自分を追い詰めなくていいよ。
あなたの過ちは障がいが発覚しても療育を受けさせないで放置したこと。
支援が受けられる時に誤魔化して生きてきたこと。
でももう誰かにお願いして良いんだよ。
お互い安らかな老後を模索しようよ。