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企業が「スポンサー」をやる意味を、そろそろアップデートしてみないか?

ぼくは「スポンサー」ってものの定義を変えたい。再定義したいと思っている。

ぼくはスポーツビジネスの会社をやっている経営者だ。だからこれから話すのは、「スポーツスポンサー」の話が主なものになる。

ただ内容としては、テレビや映画などすべての「スポンサー枠」に活かせるものだと思う。なのでスポーツ業界以外の人も、もし興味があれば読んでみてくれるとうれしい!!

時代は変わった。スポンサーも変わらなきゃいけない

あなたは「スポンサー」と聞いて何をイメージするだろうか?

テレビのCM枠もそうだし、映画やアニメの協賛もそう。スポーツなら選手のユニフォームに載るロゴや、スタジアムアリーナの命名権。あと、会場の壁面の広告なんかが、パッと思い浮かぶんじゃないかと思う。

これまで、スポンサーをすることの主な価値とされてきたのは「露出」だった。メジャーなコンテンツのスポンサーをすれば、社名が載る。みんなに見てもらえる。

これは「スポンサーをすること自体」が目的だったともいえる。「スポンサー権を使ってなにをするか?」を考えることはほとんどなくて「スポンサー枠を買う。以上!」という感じ。

それは悪いことじゃなくて、実際、それでちゃんと効果がある時代でもあったんだ。

テレビの視聴率は、今とは比べものにならないぐらい高かった。プロスポーツは野球と相撲しかなくて、しかもほぼすべての試合がテレビ放映されていた。

でも、時代は変わった。

スポーツの歴史を、スポンサーマーケティングの視点で少しふりかえってみよう。

「スポンサーシップの価値は露出である」という考え方は、1964年の東京オリンピックのころにできたものだと聞く。オリンピックにスポンサー枠をつけて、露出を売りにしてマネタイズしたんだ。これは、その後プロ野球のスポンサーにも引き継がれた。

しかし、プロ野球のあとにできたJリーグは、必ずしも「マスに向けたエンタメ」ではない。それぞれのチームがホームタウンをもち、地域に根差した存在になることを理念として掲げている。

そのあとに発足したBリーグも、Jリーグの思想を受け継いでいる。

オリンピックみたいな世界大会や、かつてのプロ野球ならば、たしかに露出だけでも価値がある。一方、その観点でいうと、サッカーやバスケはほとんど露出がない。おなじぐらいの露出を狙うなら、ウェブ広告を打ったほうが絶対にコスパがいい。

でも、じゃあなぜ「あえて」サッカーやバスケのスポンサーをする会社があるのだろうか?

それは、露出ではない価値がそこに存在しているからだ。

いまは、プロ野球の時代の「スポンサー」のイメージが、まだみんなの中に残っている状態だと思う。だから「バスケのスポンサーやるより、野球の方がいいでしょ」となってしまう。「試合数も多いし、観客動員数も多いから、見られる人が多いよね。露出できるよね」って。

でも、本当は露出がなくても価値は出せる。露出だけを価値だと思っていたら、すごくもったいないと思うんだ。

サッカークラブ×BtoB企業×地域課題

「露出」じゃないスポンサーの価値って、いったいなんなのか?

それを説明するのにぴったりな事例があるから、紹介したい。Jリーグの「レノファ山口」というチームが、地元のスポンサー企業と一緒におこなった取り組みだ。

山口県で社会問題になっていた「竹林」を、レノファと地元の化学メーカーのトクヤマが一緒に伐採。それを使って「竹クラーべ」というサッカーの応援グッズをつくったんだ。

この取り組みのすごいところは、

①スポンサー企業のブランディング、採用
②スポーツクラブのブランディング、収益
③地域課題の解決

という、一見バラバラな3つの効果を、一気にもたらしているところ。

トクヤマは山口の化学メーカー。BtoB企業で認知がとりにくく、しかも一般的には「大変そう」と思われがちな仕事だ。

だからこそ、会社として普段から、いろんな「活性化プロジェクト」を立ち上げる取り組みをしていた。社会や会社のためになることをやったり、新しい事業を立ち上げたりする。それがまず素晴らしくって。

そのなかで、サッカーが好きな人たちが結束して「地元のサッカークラブを活かして、何かやれるといいよね」と話してた。

トクヤマは、燃料を燃やして火力発電をしている会社。だからこそ、会社全体としてCO2削減に取り組まなきゃいけないっていう姿勢があった。

カーボンニュートラルによる発電の仕方をずっと研究していて、その一環として「竹を活用した発電」にも試験的に取り組んでいたんだ。

竹林って実は、地元にとって大きな社会問題だった。

竹は生命力が強くて、どんどん増えていく。でも竹って地面に根をはらないから、竹ばかりの森は雨水を貯められなくなって、土砂崩れが起きてしまう。だから、基本的には行政が、税金をつかって竹林の伐採をやっている。

トクヤマは「その竹林を燃料にできないか?」と考えた。竹を伐採してチップにして、エコな燃料にする技術を開発していたんだ。

この2つの取り組みがつながって、今回のアイデアが生まれた。

「伐採した竹を燃料チップにする前に、レノファ山口のサポーターが使う『応援グッズ』として活用できるんじゃないか?」と。

ちょうどコロナ禍で、声出しでのスポーツ応援が禁止されていたタイミングでもあった。

「やるんだったら、竹林の伐採からみんなでやろう!」という話になった。そこで行政にお願いして、みんなで伐採できるような竹林を選定してもらった。それを、トクヤマとレノファ山口の人たち、ファンの人たちが集まって、伐採する。

伐採した竹をくべるときには、地元の工業高校の子たちに協力してもらった。化学実験室で竹をくべて白くしてもらって。それを加工して、レノファの応援グッズにしたんだ。

で、竹の応援グッズをパカパカたたいていると、いずれ割れる。割れたやつをレノファが回収して、トクヤマに渡して、チップにして燃やす。

クラブのファンも嬉しくて、地域の課題にもコミットできて、企業のブランディングにもなる。

この取り組みは、狙ってやったというよりは、たまたまいろんな偶然が重なってできたって側面も大きい。でもこれってすごくいい事例だ。こういうことが世の中に知られていけば、狙ってやることも絶対にできると思う。

スポーツクラブの強みは「ステークホルダーの多様さ」

スポーツが「会社の活性化」と「地域貢献」の両方にコミットする。

それを可能にしているのは、スポーツクラブの「ステークホルダーの多様さ」だ。

クラブの周りには、行政、企業、ファン、一般市民、あとはメディアもいる。

スポーツクラブには必ず地元のメディアがついている。だから、地元企業がクラブと一緒になにか取り組みをやると、メディアが取り上げてくれる。

スポーツを通すことで、PR効果が何倍にもなるってことだ。

もし企業だけでそういう取り組みをしたとしても、客観的な印象としては「いち企業内のプロジェクトでしょ」という感じになる。それだと、やっぱりメディアに取り上げられることはない。人もなかなか集まらないだろう。

でもクラブが入ることによって、一気に「公共性の高い取り組み」という見え方になる。メディアが来て、PRができて、そういう素晴らしい活動をしてる地元企業があるってことを知ってもらえる。

すると社内のメンバーも「自分たちは、いい会社で働いてるんだな」って思えて、インナーブランディングにもなる。

トクヤマの取り組みのなかで、実際に採用も決まっている。竹をくべるのを手伝ってもらった工業高校の生徒が、何人か新卒でトクヤマに就職してるんだ。

「トクヤマって聞いたことなかったけど、こういう取り組みもしてるんだ。いい会社だな」と思って、就職した人がいる。それは、数としては一人や二人かもしれないけど、とてつもなくすごいことだ。

そうやって入ってくれた人は「とりあえず地元だし、大きい会社だし」みたいな感じで入社するのとは、働くモチベーションが全然違う。

マスに向けた露出じゃなくても、「n=1」でも、そこに熱量があれば、大きな価値が生まれる。

しかもこれって、将来的にトクヤマだけじゃなくて他の企業を、おなじプロジェクトの中に入れることもできるはずだ。

たとえば、加工業の会社に入ってもらって一緒に竹を加工するとか。「竹を切るときの作業着を提供しますよ」みたいな形で、スポンサーを取ってもいいと思う。もっともっと広げられるポテンシャルがある。

関わる人みんなが得をするし、ハッピーになれる輪が広がっていくはずなんだ。

MVVをスポーツで体現する

会社には、彼らのポリシーや目指すものをあらわす「ミッション・ビジョン・バリュー」というものがある。

メルカリなら「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(すべては成功のために)」「Be Professional(プロフェッショナルであれ)」が彼らのバリューだ。

この3つのバリューって、内容的にもかなりスポーツと親和性が高い。

だからメルカリは「鹿島アントラーズ」というスポーツチームを運営している。それによって、自分たちのバリューの体現をしてるんだ。

以前、メルカリの小泉さんと鹿島アントラーズのジーコさんにインタビューさせてもらったことがある。二人の話を聞いていても、やっぱりスポーツの「リアルな手触り感」の価値をすごく感じた。

スポーツによるオフラインの熱量が、企業のMVVを確かなものにする。

特にこれは、ITの会社がやるとおもしろい取り組みだと思う。

IT系の会社はサービスがデジタル上にあるから、リアルな表現の場を持たない。メルカリもオンライン上のショップがメインだ。だからこそ、スポーツというリアルのものでMVVを体現できることに、大きな価値が生まれやすい。

マネーフォワードが「横浜Fマリノス」のスポンサーをやっているのもそうだ。マリノスのプレイスタイルには「アタッキングフットボール」という方針がある。どんどん前に攻めて行こう! というスタイル。

で、マネーフォワードには「お金を前へ 人生をもっと前へ」というミッションがある。これがマリノスのプレイスタイルとかなりシンクロするから、スポンサーの取り組みをやっている。

MVVは、会社にとって「魂」みたいなもの。だからそこを強化することで、採用やインナーブランディングなど、多方面に効果が生まれるんだ。

スポーツの熱量は、露出を上回る価値になる

ここまでの事例で、新しいスポンサーシップの形が、なんとなくイメージできただろうか?

露出がメインの従来型のスポンサーシップは「マス(大衆)」と向き合っていた。一方で、これからのスポンサーシップが向き合っていくべきは「コミュニティ」だと思う。地域コミュニティや、企業コミュニティ、ファンコミュニティ。

そうなったとき、大切にすべき指標は露出ではなく「エンゲージメント」だ。

PV数や視聴率ではなく、エンゲージメント。個々人の「熱量」の高さ。たとえば、トクヤマの取り組みが新卒採用につながったり、メルカリのMVVに共感する人が増える、みたいなことだ。

それは、たとえ届いた相手がたった一人だとしても、価値があることだと思う。

その熱量を、横に広げていく。薄くマスに広めるのではなく、熱量の高い「n=1」をみんなに知ってもらう。それが結果的に、芯を食ったブランディングになる。

もちろん「スポンサーの価値は露出効果ではない!」って言うつもりは全くない。露出の効果もそれはそれである。

ただ「そこだけじゃないよね!」「エンゲージメントが大切だよね!」ということを、ぼくらとしては伝えていくべきだと思ってる。ぼくらが言っていかないと、まだほとんどの人は「露出」の話をしているからだ。

スポンサーは「手段」でしかない

トクヤマやメルカリのようなスポンサーの形は、採用にも、インナーブランディングにも、営業促進にもつながる。

解決できる企業の課題が、本当にかなりたくさんあるんだ。

もちろん、スポンサーだけですべてが解決されることはない。課題解決のひとつのツールとして「スポンサーによるブランディング」という選択肢があって、それがかなりいろんなところに効く、という感じ。

それは「ただ球場に看板を出すだけ」のスポンサーの形とはまったく別物だ。

看板を出すのがダメってわけじゃない。あれはあれで効果はある。でも、それだけで終わったらもったいないよね、と思う。

スポンサーシップを一つの「手段」として買って、そのうえで「どう活かすか」。やっぱりそれを考えないといけないんだ。

めざすべき最終形態は「ストーリー」の共有

スポンサーの「エンゲージメント効果」を最大化するために、とても大切なのが「ストーリー」の視点だと思う。ひとつおもしろい事例があるので、紹介したい。

「東京ヴェルディ」というサッカーチームがある。彼らはJ2(2部リーグ)にいるチームだ。

そして、J1にはFC東京がいる。FC東京には「東京ガス」がスポンサーしてる。東京ガスは関東圏でシェア1位のガス会社。で、シェア2番手には「ニチガス(日本瓦斯株式会社)」という会社がある。

ニチガスは、東京ヴェルディにスポンサーをしている。

2番手どうしで一緒になって「1番を目指そうぜ!」ってこと。

これはすごくおもしろい事例だと思う。「チームが強いか、弱いか」みたいなことは、あんまり関係ない。「ストーリー」が合致してるからこそ、スポンサーをする意味があった。

メルカリやマネフォはMVVの体現としてスポンサーをしてるけど、それも同じ。スポーツクラブと企業が「ストーリー」を共有してるってことだ。

企業にはそれぞれ、ストーリーがある。MVVや創業秘話、いまやってるプロジェクト、経営者の人生や、スタッフの人生。

同じように、クラブにもストーリーがある。創設から何年目で、今どういう強さを目指してるのか。

選手自身もそうだ。千葉ロッテマリーンズには佐々木朗希っていうすばらしい選手がいて、彼は3.11の震災に見舞われても、折れずにプロになった人だったりする。選手を支えてる人も、その家族にも、みんなそれぞれのストーリーがある。

「ストーリー」まで合致してるクラブと企業は、やっぱりすごく相性がいい。表向きの業種は違うけれど、魂のところが「同じチーム」だから。スポンサーを超えた「パートナー」のような関係になっていけるんだ。

すべての広告マーケに「意味」が生まれる

ストーリーを共有して、熱量を大切にしながら、スポンサー活動をしていく。それができると、もはや「スポンサーであること自体」がブランディングになる。

商品の宣伝も、SDGs的な取り組みも、採用広報も、マーケティングも、ストーリーから派生したものであればすべてに「意味」が生まれるからだ。

根っこのところで「同志」としてやっているから、空虚な宣伝じゃなくて、ちゃんと熱のこもった施策になる。逆にそうじゃないと、なにをやるにも説明がつかない。

これはスポーツやスポンサーに限らず、すべてのマーケティング活動にいえることだと思う。ストーリーを企業経営に昇華させていったのが、よく言われる「パーパス経営」だと思うし。

それに、お客さんもやっぱり、ストーリーを欲してる。

なにも知らずに見る試合より、選手やチームのストーリーを知ってから見る試合のほうが、圧倒的におもしろい。心が動く。

同じように「ただ強いチームだから」「有名チームだから」でスポンサーをするよりも、「似たビジョンを持っているから、一緒にがんばりたいんです」と言われたほうが、圧倒的に応援したくなる。

だからこそ、スポーツを活用したマーケティングは効果的なんだ。


いまのスポーツ業界では、まだまだこの「マーケティングツールとしてのスポンサーの価値」は伝わりきっていないと思う。

だから、せっかくいいストーリーを持っているのに、それをぜんぜん発信できていなかったりする。

それでぼくらは、おもしろい取り組みをしてる企業を「Japan Sports Activation Awards」で表彰したり、スポンサー営業でいろんなアクティベーションを提案したりして、この価値を広めていってるんだ。

その一環として、5月23日から28日まで、スポーツスポンサーを再定義するためのイベントも開催する。ミッドタウン八重洲で、1週間、社運をかけて全力でやる。絶対に損はさせないから、このnoteでちょっとでも興味をもってくれた人は、ぜひ来てほしい!!

ぼくらはスポーツ業界をもっとよくして、結果的に日本中の地域や企業のこともハッピーにしたいと本気で思ってる。

このnoteやイベントをきっかけに、まずは「スポンサー」の定義を変えるところから、それを実現していけたらうれしいんだ!

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平地 大樹(ひらちたいじゅ)/プラスクラス代表取締役
最後まで読んでくれて、ありがとうございます! スポーツビジネスのこと、経営のこと、セカンドキャリアのことなど、どんどん発信していきます。よろしくお願いします!