ぼくは社長だけど「評価制度」という言葉が嫌いだ
ぼくは「評価制度」という言葉が嫌いだ。
会社なのだから「制度」はつくらなきゃいけない。でも、仲間のことを上から下に「評価」するということに、どうしても違和感があった。
うちの会社は「自分がここで働きたいから働いているんです!」という人が多い。「働かせてもらっている」という感覚も、とくに古参メンバーはないだろう。
だからメンバーからも「好きで働いてるのに”評価”されるのってなんで?」 と言われて。ぼくも「いや、マジでそうなのよ。どうにかならんかな……」とずっと悩んでいた。
評価しなきゃいけないけれど、誰もそれを望んでないーー。
そんなぼくらに合う「評価制度」のあり方はないのだろうか? 創業以来ずーっと考え続けてきて、最近ようやくひとつの答えにたどり着いた。今日はそれをご紹介したい。
社長ひとりで全員の給料を決めていた
以前は、メンバー全員の給料を「ぼくの独断」で決めていた。ぼくがひとりで評価をしていたのだ。
「評価制度をつくろう」という話は何度も出たけれど、なかなかぼくらにフィットするものが見つからなかった。
たしかに大企業の評価制度はよくできている。「がんばったら給料が上がる」のはいい。ただ、その金額の幅は2〜3000円程度。がんばりに見合う金額とはいえないものが多かった。
たとえ100人の給料が上がっても、会社にとって大丈夫なようになっているわけだ。
でも、思ったんだ。「俺らって、そんな会社をやりたかったんだっけ? 」「そんなのしゃらくせえし、つまんないよな」と。
それで結局、ボツになっていた。
仕組みがつくれていないのは、ぼくの責任だ。だから、ぼくが全責任をもって評価を決める。不満があったら、ぼくに言ってくれ。それがオーナー社長の仕事だから。
そうみんなに伝えオッケーをもらって、ぼくが一人で決めていた。
なんのための「評価制度」?
立ち止まって考えたい。
「評価制度」ってなぜ必要なんだろう?
世の中を見渡してみると「”評価”をやるための評価制度」になっている会社もたまに見かける。
ぼくの答えはこうだ。「そのほうが成長しやすいから」。
評価制度というのはシンプルに言えば「まず目標があって、それを達成できたかどうか見るもの」だ。「今期は売上1億円を目指します」と宣言して、その期が終わったら「1億円に到達したかどうか」を評価する。
目標を決め、それに向かって動く。できなかったことができるようになる。
つまり、ぼくらにとって評価制度は「評価のため」にあるのではなく、「みんなの成長のため」にあるんだ。
ぼくはその方向で評価制度を考えることにした。
成長するために、目標をきちんと言葉にする。目標は、月に1回の1on1でも確認して、むかう方向を忘れないようにする。そして、期がおわったら「ちゃんと成長できたか?」を推し量る。
いわば「振り返りシート」として、評価制度を位置づけたんだ。
がんばったんなら、どんどんアピールしてこう
社内では「がんばりを自分でアピールするなんてどうなの?」みたいな話もあったらしい。アピールした人ばかり有利な仕組みになってしまいがちだから、アピール自体しないほうがいいんじゃないか? と。(みんないいやつらだな。。)
それでもぼくは「いや、どんどんアピールしてったらいいやん」と思うんだ。
だって、がんばったんだから。
たしかにある側面から見れば「アピール」かもしれないけれど、結局は「どれだけがんばったか」を明文化しているだけの話。それを見て「あ、おれ結構がんばったじゃん、今年」と振り返ることが大事だし、まわりと共有することが大事なんだ。
「相手がどれだけがんばったか」なんて、ふだん隣にいる人ですら、なかなかわからないもの。そこを共有できれば「こんなにがんばってるんだな」「今度はこんな仕事も任せてみようかな」とコミュニケーションできる。
がんばりをまわりの人にも見てもらうことで「自分の現在地」もわかると思う。
「振り返りシート」は、ぼくらなりの評価制度
具体的にうちのやり方について話そう。
まず、期初の目標設定では「マストでやってほしいこと」を経営側から提示する。それに対してメンバーは「自分がやろうと思っていること」を書く。「これは絶対やってほしい」というのはこちらから言うけど、どういうアプローチでやるか、どういう行動をとるか、は自分たちで考えてもらう。
期の終わりには「実際にやったこと」を書いてもらって、「どれくらい目標を達成できたか?」を振り返る。
こうすることでみんなの「努力の証」を評価できると思っている。
ひとつ注意しているのは「プロセス」をアピールしてもあんまり意味がないよ、ということ。「こんなに徹夜しました」「こんなに朝早く起きてやりました」というアピールは評価できない。
たしかに「長時間やった」「すごく苦労した」というのも、がんばったことだとは思う。だけど、うちでは「時間はみんな平等に有限だよ」と伝えている。決して、残業しまくる人が偉いわけではない。
振り返りシートでアピールしてもらうのは、限られた時間のなかで「実現できたこと」「実際にしたこと」だけだ。
振り返りシートは「進化の助け」になる
たとえば、デザイナーが「今後はアートディレクターになっていきたい」と思っているとしよう。
それで、シートに「アートディレクターになる」という目標を書いたとしても、いきなり「じゃあ、やってもらおうかな」とはなかなか言えない。
だから、たとえばシートの「したこと」の項目に「これまでウェブのデザインしかしていなかったけど、紙のデザインもしました」と書く。次は「これまで自分の手を動かす案件しかなかったけど、パートナーさんに依頼してディレクションもやりました」と書く。
そうやって「アピール」してもらえれば「ここは評価したいね」となって、結果的にアートディレクターの仕事を任せられるようになるだろう。
ぼくらの「振り返りシート」は、そうやって「進化の助け」になるように使ってほしい。「これまでやってきたこと」「これからやりたいこと」をきちんと言葉にすることで「次になにをすればいいのか」がわかるようになる。
その積み重ねが、進化につながっていくはずだ。
シートを使って「評価」しているんだけど、一般的な「評価制度」ではない。だから「なにかいいネーミングはないもんかなあ」と、社内でいつも話している。(「進化のみちしるべ」というのがイメージは近いけど、まだピンとは来ていない……。)
「進化」という言葉は、うちの会社のスタンダードでもある。だから、評価制度も「みんなが進化できるような仕組み」にしているつもりだ。
愛がなければ評価はできない
評価次第で、給与の上下はもちろんある。
そこはぼくだけで判断するわけじゃない。
評価シートを書いてもらったら、メンバーと部署のマネージャーで面談をしてもらう。次に、マネージャーと経営陣で会議をする。各マネージャーが「うちのメンバーはこうでした」と説明していく。
そこで「この人はたしかにがんばってたよね」「いや、もっとこういうがんばりもあったよ」と、いろんな角度からブラッシュアップする。そうやって、個々のメンバーのがんばりを、全員で共有しながら、最終的な評価を決めていくんだ。
すべての会議がおわったら、マネージャーからメンバーに評価を伝える。給料やクラス(他の会社でいうグレードみたいなもの)が上下することも、ハッキリと伝える。
「給料を下げるなんて、勇気がいりそう」と言われることもある。でも、それはこの制度を入れるタイミングで、みんなに言ってあることだ。
一気に月収で7万円ぐらい下げたこともあるし、逆に一気に10万円以上も上げたこともある。その理由も率直に伝える。
ぼくだって、給与を下げるのはイヤだ。だからもちろん、下がらないようサポートしている。でも、なかなか一筋縄にはいかないのも現実だ。
メンバーの成長のためなら、ぼくはべつに嫌われてもいいと思っている。
もちろん本人への説明はきちんとする。ちゃんとロジックがあって評価しているから、「しょうがないな」と思ってもらえることがほとんどだ。「これだけちゃんと見てもらえているなら、納得できる」と。
すべての評価が終わるまで、丸2、3日はかかる。それだけ、細かいところまでていねいに評価しているつもりだ。
これは、きっと愛がないとできないことなのだと思う。評価にいちばん大事なのって、結局は「愛」なんだ。
マネージャーは「偉い」わけじゃない
そもそも「昇格」「降格」というワード自体、ぼくとしては好きじゃない。
マネージャーになるのは、たしかに世の中的にいえば「昇格」だ。だけど、うちとしてはただ「役割」をお願いしただけの話。
マネージャーには「ときにはプライベートまで気にかけながら、みんなの面倒を見る」「みんなが動きやすいように、戦略を考える」といった役割が与えられている。
その役割に対して「マネージャー手当て」のような対価があるだけで、べつに「昇った」わけでも「偉い」わけでもない。
これがぼくらの考えだ。
職階が上だからといって「偉い」わけではない。「やれることが多い」というだけの話。この考え方をすることで、メンバーどうしが役職に関係なくリスペクトしあえていると思う。
マネージャー以外のキャリアも用意する
「マネージャーが偉い」という考え方だと「マネージャーや経営側にいかないと給料が上がらないのかな?」「発言権がもらえないのかな?」と思ってしまうかもしれない。
だけど、社員のなかには「マネージャーではなく、クリエイターとして突き抜けていきたい!」という人もいる。
だからぼくらは「マネージャー側のキャリア」と「プロフェッショナル側のキャリア」という2つのキャリアプランをつくった。
一般的にクリエイティブディレクターというのは、クリエイターとしても一流で、かつマネジメントもできなくちゃいけない。
でもうちは、かならずしもそうじゃなくていい制度にしているんだ。
うちのクリエイティブチームにもマネージャーはいる。だけどマネージャーはマネジメントが仕事であって、必ずしもクリエイターとして一流じゃなくてもいい。
ちなみに今は、ぼくがマネージャーを兼任してる。ぼくは、デザインはわかるけどできない。でもぼくがマネージャーをやることで、もともとマネージャーだったメンバーには、クリエイティブに専念してもらえてる。
逆に言えば、マネジメントが苦手でもクリエイティブディレクターになれるということだ。
うちのマネージャーの仕事は、エンパワーメントと事業推進。「みんながんばれー!」と応援できて、みんなの仕事がちゃんと進めばOK。クリエイターとして賞をもらわなくたっていい。
一方で、クリエイティブディレクターやアートディレクターには「賞を狙いなよ!」と伝えている。マネジメントはできなくてもいいから、圧倒的プロフェッショナルを目指してほしい、と伝えている。
マネジメントとクリエイティブ。2つのプロフェッショナルのキャリアプランをつくることで、得手不得手にあわせて、それぞれが進化していけるようにしているんだ。
逆ピラミッド型の組織
もうひとつ言うと、ぼくは「社長」って呼ばれるのもイヤなんだ。(このnoteではわかりやすさのために、タイトルに使っちゃったけど。)
それは、うちが「逆ピラミッド型」の組織だから。
一般的に会社組織は、社長がトップにいる「ピラミッド型」であることが多い。
でもうちでは逆だ。社長のぼくがいちばん下にいて、どんどん頼もしいメンバーが増えていく「逆ピラミッド型」。
だから「社長」や「上司」や「部下」って言葉は使わない。
メンバーのことは「雇ってあげる」「育ててあげる」のではなく、「助けてもらってる」と思っている。ぼくひとりじゃできないことも、みんなが助けてくれるおかげで実現できているからだ。
こういう考えに共感してくれるメンバーたちだから、このちょっと変わった評価制度がフィットしたんだと思う。
つねに「なんで?」を考えよう
ぼくはメンバーに「つねに『なんで?』を考えよう」と伝えている。
新卒や、中途で入ってきた人は、会社にもともとある制度に対して「なんで?」とは言いにくいだろう。「偉い人が言っていたら、絶対に逆らえない」という人もいるかもしれない。
でも、そこは遠慮しなくていい。疑問に思ったら「なんで?」と言ってほしい。経営幹部もマネージャーも、べつに「偉い」わけじゃないんだから。
たまにうちの仕組みを見て「よく考えられてますね」と言ってもらうこともある。でもぼくらだって、前からできていたわけじゃない。
人間関係がめちゃくちゃだったときもあるし、言い合いになったことも何度もある。ほぼ組織が崩壊しかけたこともある。コケては立ち上がりながら、なんとか整えてきたんだ。
そして、いまのシステムだって完ぺきだとは思ってない。完ぺきになることなんて、きっとない。これからも膝をすりむきながらPDCAを回して、ぼくらに合うシステムを模索していきたい。
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