【第71期王将戦第一局】新時代の▲8六歩
第71期王将戦第一局は大熱戦の末、藤井竜王の勝利となった。しかしながら、その内容が凄まじかったので、自分の偏見を織り交ぜて語っていきたい。
見どころ
まず何が凄いのかというと、タイトルの所持数だ。将棋界に八つあるタイトルのうち、渡辺王将が3つに藤井竜王が4つ、合わせて七つものタイトルを持っている。三冠対四冠だけでなく、将棋界で格が高い名人と竜王とが激突するこれ以上はない好カードになったのだ。今後、名人戦か竜王戦でこのカードが実現すれば、もっと盛り上がることは間違いない。
【1日目】新時代の▲8六歩
1日目の午前、戦形は昨年の藤井竜王ー豊島九段のタイトル戦で度々現れた相がかりとなった。両者共に研究範囲なのだろう、40手までさくさくと進んでいった。ところが、昼食休憩直前に指された▲8六歩以降は手がパタリと止まった。
素人からすると▲8六歩は自ら争点を与える(隙を見せる)危険な手に見える。藤井竜王は暗に「そう思うなら咎めてみてください」と言っているわけだ。相がかり特有の「動くべきか?待つべきか?」の悩ましい局面を迎え、渡辺王将は91分の大長考に沈んだ。1日目のハイライトは間違いなくここだろう。
いかんせん相がかりは金銀を左右に分散させているため、中央に陣取る玉の守りが紙のように薄い。そんな爆弾を抱えながらの戦いなので、想像以上に神経をすり減らされる。相手に持駒を持たせすぎると中央に殺到される恐れがあるので、角と歩以外の交換は極力避けながら慎重に手を進めざるを得ない。結局、1日目の午後はわずか5手しか進まなかった。
【2日目】中盤→終盤→中盤の戦い
2日目、藤井竜王が決断の中段角を放った。過去に藤井竜王が一ヶ月の間に中段角を5回も放って結果4勝したと以前のNOTEに書いたことを思い出した。「この局もデータ通りになるのか?」と早くも勝敗を勘ぐってしまうが、形勢不明のこの局がどう転ぶのかは全く分からない。ここからは歩の手筋が華々しく飛び出して、本格的な戦いに突入していく。
歩の犠打によって相手の陣形を乱したり、つけ入るスキを互いに作り出す。80手目以降は角歩以外の駒も参加した攻め合いとなり、ついには玉同士が盤の中央で睨み合う形になった。驚くべきはそこからだった。決め手を発見できなかったのか、両者共に四段目(六段目)まで出てきた玉を自陣の方へと退きあげ、体勢を立て直す。てっきり終盤戦だと思っていた局面が、再び中盤戦の様相を呈す不思議な流れとなっていた。
アマチュアの自分はこういった激しい攻め合いをするといつも攻めっ気が残り、「潰される前に相手を潰そう」と無謀な攻撃をして自滅することを何度も繰り返した。だから、冷静に攻守の切り替えをする「退く時は退く」ことができる凄さに素直に感動する。さすがは名人と竜王だ。個人的には、アマ四段とアマ六段の違いは火のついた終盤でこういった緩急を難なく使いこなせるかの差なのだと思っている。
その後、藤井竜王は渡辺玉を盤の中央5五で捕まえる都詰を決めて、この第1局は幕を下ろすことになった。最後まで勝負の行方は分からなかった。やはりこのカードは勝敗を超えて1手1手の価値が高い将棋を楽しめるから、全くもって目が離せない。このシリーズは将棋界の歴史の中でも、世紀の名勝負として語り継がれることになるだろうなと思った。
( 'ω' ).。oO( しかし、あまり飛車が目立たない珍しい将棋でしたねぇ……