色覚多様性に配慮した、色を伝える折り紙のデザイン
こんにちは。
博報堂プロダクツ プレミアム事業本部 プロダクトデザイン部の内田です。
私たちは、キャンペーンで使うノベルティグッズやユニークな開発アイテム、飲料や化粧品のボトルやパッケージなどを手掛けるプロダクトデザイナー集団です。
今回は、私たちで取り組みはじめたインクルーシブデザインについてのお話です。
色覚特性の方に、色が伝わるアイテムを作りたい
色覚多様性(色覚特性)とは?
色覚多様性とは、色の識別に特性を持つ人がいて、それぞれの見え方による多様性のことをいいます。
色覚には「C型」「P型」「D型」「T型」「A型」の5つのタイプがあります。一般色覚と呼ばれる「C型色覚」は日本男性の約95%、女性の99%を占めており錐体(赤・緑・青を見分けるためのセンサ)が3つ揃っています。
その他の色覚では「P型」は赤い光、「D型」は緑の光、「T型」は青い光、「A型」は3種類のうち2つ、またはすべてのセンサが無い、または弱いという特性があります。
こうした特定の色が見えにくい・見えない特性を持った方が日本全体で320万人いるとされています。
色覚に特性を持つ方の課題をデザインや
クリエイティブのチカラで解決してみたい
実は、私自身が色覚特性のある目を持つデザイナーです。色の識別に関しては個性がありますが、仲間の理解と協力を得ながら日々お仕事をしています。色に関してはいつも助けていただいているので、企画や形のデザインなど、自分の得意な領域で貢献しなくては!という気持ちで働いています。
逆に、特性がある方の色の見え方や気持ちがわかるので、識別しにくい色を見つけたり、改善したりすることは得意な方だと思います。様々な色の見え方に配慮し識別しやすい色を選択したり、色以外の方法を駆使し情報を伝えるカラーユニバーサルデザインの視点をいつも意識しています。
そういった背景がありますので、自身の特性とデザインの知見を活かして、私のような特性を持つ方に役立つデザインや、色を楽しめるクリエイティブなモノ作りにも挑戦したい!という思いで実験的に作ってみた試作がこの折り紙です。
この折り紙は、どの色覚の方にも色が識別しやすくなるようにデザインしました。表面(色が付いている面)は普通の折り紙と同じ見え方になっていますが、裏面に工夫があります。
裏面には、色の名前や種類を表示するビジュアルが入っています。上から順に、色の名前、色の種類(色相)、色の明るさ(明度)、鮮やかさ(彩度)のチェックボックスが入っています。この表示によって、折り紙の色がどんな色なのかを言葉から認識することができます。
色がたくさんあるアイテムはちょっと不安
色がたくさんあって楽しい折り紙ですが、色覚に特性のある私にとって、色がたくさんあるというのはちょっと不安です。
なぜなら「自分が認識している色を間違えてしまう」という潜在意識や経験を持っているからです。
例えば、橙色だと思っていたら黄緑だった。きれいな青だと思っていた色は紫色だった…というように、自分が見ていた色が異なっていたということが日常的に起こります。そんな思いをしたくないという気持ちから色の選択に対しては不安感がどこかにあります。
たとえば、この写真の折り紙の左右に並んだ色は、私のようなタイプの色覚の方には、似た様な色、同じジャンルの色に見えます。写真の青と紫、緑と茶色は、似た色に見えています。
ですが、折り紙の裏面を見れば色の違いが一目瞭然です!
裏面の表示によって、色の名前や種類が明確にわかります。
初期のデザインは、色相と明度、彩度を示すチェックボックス表示のみにしていました。チェックボックスのみで伝えた方がシンプルかなと思っていたためです。その後何度か検証して、色の名前もあった方がわかりやすいと思い、色名も追加しました。また、子どもも読めるようにルビを入れたり、色のチェックボックスも角丸にしたり、わかりやすくてやさしい雰囲気になるように工夫しました。
うぐいす色って何色?
例えばこの「うぐいす色」。
私には緑色なのか黄色っぽい茶色なのかさっぱりわかりません。緑系の色と茶系の色が似た色に見えるからです。でも裏側の表示を見ると、この色が黄緑系の色相で、やや明るい明度、やや鈍い彩度ということがわかります。今まで(私には)何色かわからなかった「うぐいす色」が緑系の色なんだ!ということが理解できるようになります。
この折り紙なら、色を間違えることもないので安心して色を選べる(誰かに聞く必要もない)し、知らない色名の色を知ることもでき、一般色覚の方の色の見え方に触れる楽しさも生まれてきます。また、一般色覚の方に色覚多様性について知っていただく機会にも繋がると思います。
このデザインが色選びに対する不安を取り除き、より多くの人に色選びと創作の楽しさを届けるきっかけになればと思います。
インクルーシブデザインとしてのとりくみ
インクルーシブデザインとは、多様な人々の視点を取り込むことで、新たな価値を創造できるデザイン手法です。例えば、障がいのある方や高齢の方、外国の方など、従来のデザインでは考慮されきれなかった人々のニーズや課題に寄り添うデザインを、共に作りあげていきます。汎用性が高く誰もが利用しやすいユニバーサルデザインの考え方とはやや異なり、インクルーシブデザインは特定の人々の課題を解決することを起点にしています。これを実践することで、従来よりも多様でアクセシビリティの高いプロダクトやサービスを作り上げられるようになります。
私自身が色覚に特性を持っているということもあり、同じような方の気持ちや課題がわかります。当事者としてのインサイトを活かしたインクルーシブデザインもこれからも続けていきたいと思います。
そして多様性社会におけるさまざまな課題をデザインやクリエイティブのチカラで解決したり、あたらしいカタチを生み出していくことで誰かの役にたったり、おもしろいと思ってもらえるモノづくりを目指していきます!
Size:W150×H150mm
※この作品は販売しておりません。
Staff list:内田成威 橋本千里 石鍋未菜
「プロダクトデザイン部のアトリエ」のご紹介
最後に私たちのWebサイトのご紹介です。私たちは「プロダクトデザイン部のアトリエ」というギャラリーサイトを運営しています。このサイトは「あたらしい価値をカタチに。」をコンセプトに、日常のちょっとした気づきや発見をカタチにした作品を制作し、ギャラリーサイトとして作品を詳しく紹介しています。
ユニークなプロダクト作品をたくさん掲載していますので、ぜひご覧ください!
noteでは「プロダクトデザイン部のアトリエ」で生まれた作品もピックアップして、デザインのこだわりやプロセスなど楽しくお届けしていきたいと考えていますので今後もお楽しみに!