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「能数」の考え方に関して〜『非常識な本質 ヒト・モノ・カネ・時間がなくても最高の結果を創り出せる』の所感
先日、水野和敏著の『非常識な本質 ヒト・モノ・カネ・時間がなくても最高の結果を創り出せる』(フォレスト出版株式会社)を読みました。著者の水野氏は、日産GT-Rの開発を代表したエンジニアです。本記事では、本書で取り上げられた「能数」に関して、私の簡単な所感を述べます。
能数とは
本書における「能数」とは、各自が持つ専門性の数を指します。例えば、一人で2人分の仕事をする方の能数は2であるのに対し、一人で0.5人分の仕事をする方の能数は0.5になります。この考え方に基づくと、一人が1つの専門を持つ5人よりも、一人が3つの専門を持つ2人の方が能数が高いと定義されます。前者における能数は5に対し、後者における能数は6になるからです。
工数と比較した能数の利点
一般に現代のエンジニアの世界では工数に基づき仕事を管理しています。工数とは時間と人数を乗じた値と定義されており、大雑把に述べてしまえば仕事を時間単位で管理する計算法です。
ところが、工数では各人の能力があまり反映されていません。能数を採用すると2人で取り組める仕事に対して、工数を採用すると5人以上の人員が必要になってしまう場合があります。能数を採用することで、管理側にとっては少ない人員で仕事を回せますし、エンジニア側にとってはより大きな裁量や自由度で仕事に取り組めます。
日本社会における能数の問題点
本書において水野氏は、能数の高いエンジニアにはプラスアルファの給与を支払う点も述べられています。しかし、エンジニアの処遇が芳しくない現代の日本社会において、工数の代わりに能数を採用してしまうと、能力が高いエンジニアほど割に合わない事態になってしまいます。
……否、既に他国と比較すると、実質的に能数の概念が日本には内在しているため、例えば米国における同水準のエンジニアと比較して、日本のエンジニアの給与は低く抑えられています。現代の日本社会では、一人のエンジニアが3人分の仕事をしたところで、3人分の所得を稼ぐことは難しいですし、1.5人分の所得すら稼ぐことが難しい現実があるからです。
終わりに
水野氏が開発を代表された日産GT-Rは、日本を代表するスーパーカーです。水野氏のようなエンジニアは能数を高めていけばよいでしょうし、一流のエンジニアを目指す方も能数を高めていけばよいでしょう。
しかし、そのようなエンジニアが果たして、いつまで現代の日本に収まることができるのか……この矛盾を打破することが、日本が技術大国として世界に誇れる製品を創り続けられるのかを左右する、資金石になりそうです。
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