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エンジニアこそ「患者さんの声」を聞く。がん治療生活サポートアプリ「ハカルテ」の裏側を支える二人

DUMSCOが開発している、がん患者向けの治療生活サポートアプリ 「ハカルテ」。
京都大学大学院医学研究科と医学研究用アプリ「ハカルテリサーチ」を共同開発し、2024年には一般向け「ハカルテ」アプリのリリースを予定しています。
「ハカルテ」サービス概要はこちら

今回は、「ハカルテ」開発チームのバックエンドエンジニアである佐藤祐介さんと、小川智洋さんにハカルテ開発への思いを聞きました。

「ハカルテ」開発チームのバックエンドエンジニア 佐藤祐介さん
同じく「ハカルテ」開発チームのバックエンドエンジニア 小川智洋さん

ーーまず、お二人がDUMSCOに入社した経緯を教えてください。

小川:僕はもともとかなりのおばあちゃん子で、昔から介護や福祉の業界に興味を持っていました。
理系が得意だったので大学は工学部を選び、工学の分野から介護福祉に携われないか考えた結果、大学院では福祉工学の研究室で歩行に関する研究をしていました。

その後就職先はメーカーを選んだのですが、IT系の開発技術を身につけたいと思いAIベンチャーに転職。Webアプリのバックエンド開発やJAXAへの出向も経験し、スキルを積みました。
身につけた技術を使って「生活に困難を抱えている人に寄り添えるサービスを作りたい」という思いからDUMSCOに転職を決意し、現在に至ります。

DUMSCOは「ハカルテ」「ANBAI」など、IT技術を患者さんの治療や人の健康に役立てる事業を展開していて、自分のやりたいこととマッチしていると思い入社しました。

左:佐藤 右:小川

佐藤:僕は東京大学の建築系の研究室で地震の構造計算などを研究していたのですが、そのなかでコンピュータに触れるようになり、建築の道はやめてITエンジニアを志しました。
バックエンドエンジニアとして様々な現場を経験し、その後独立。
DUMSCO社長の西池に出会って、スマホのアプリで自律神経を計測する「ANBAI」の開発を手伝ううちに正式に入社することになり、今に至ります。
「ANBAI」の技術を用いて「ハカルテ」を開発することになったので、現在はその2つのサービスを担当しています。

ーーお二人はいま具体的にどんなお仕事をしているんですか?

小川:ハカルテ事業は、医学研究用アプリ「ハカルテリサーチ」を一般の患者さん向けにしたアプリを開発しているところです(2023年11月現在)。
現在は研究用アプリには無かった新機能の設計など、仕様を策定しています。

僕と佐藤さんは、ユーザーが直接触るアプリの画面ではなく、その裏側のシステムを設計する「バックエンドエンジニア」という職種です。
アプリ開発の過程で「こういう機能が欲しい」となったときに、どうやって実現するのかを考えて開発する担当です。
なので、ハカルテを使う患者さんからは僕らの仕事は見えませんが、患者さんがどういう機能を求めていて、どういう使い方をしたいと思っているのかを理解するのがとても重要な仕事なんです。

ーー直接患者さんと関わる業務ではないものの、がん治療の現状や様々な悩みを理解する必要がある仕事なのですね。ユーザーのことを理解するために、どんなことをしているのですか?

小川:ハカルテ開発チームでは、「どういうアプリだったら患者さんの役に立つものになるのか」を知るために、患者さんやそのご家族などにリサーチインタビューをしていて、僕たちもその場に同席してお話を聞く機会をいただきました。

僕の身近にはがん治療を経験された方がおらず、詳しくお話を聞く機会はこれまでありませんでした。なので、患者さんへのインタビューを通して初めて治療の辛さについて知り、ハカルテ開発への目線はかなり変わったと思います。
治療中にも関わらずインタビューにご協力下さった方にはとても感謝しております。

患者さんが話してくださった治療における悩みの中で、「医師や看護師とのコミュニケーションの取りづらさがある」といった話がありました。そういった部分はハカルテのアプリを使っていただくことによって改善できる余地があるのではないかと思っています。

佐藤:私もがん治療中の患者さんとお話しする機会はこれまでなかったので、インタビューに同席して多くのことを勉強させていただきました。

治療の副作用に関しても、髪の毛が抜けてしまったり、吐き気などの症状が出ることは知っていましたが、「爪が全部はがれてしまう」こともあると伺って、非常にショックを受けました。

がん治療の主治医の先生は皮膚科の専門ではないため、そういった副作用で爪に起こったことに関する治療は、別の先生に見てもらわなければいけないそうです。

しかし、爪を治療してくれる先生をネットで検索して探そうにも、指が赤く腫れ上がり、痛みが酷く、パソコンのキーボードで文字を打つのも痛いという話を伺って、がん治療における悩みの深さと難しさを知りました。

佐藤:アプリを開発しているだけでは知り得ないようなことを教えていただけたので、大変ありがたかったです。
正確な情報に楽にアクセスできるようになることに加え、副作用などへのスムーズな対処のためにも、自分で体調記録をつけるということはとても大切だということがわかりました。

ーーたしかに、直接お話を聞かないと知り得ないことばかりですね。そのように、通常のアプリ開発とは少し異なるユーザーの事情があるサービスだと思いますが、開発で気をつけていることはありますか?

小川:想定ユーザーである患者さんへのインタビューや、アプリの設計などをプロダクトマネージャーに任せきりにするのではなく、エンジニア自身も「患者さんの声」という一次情報を知っておくことが大切だと思っています。
そうすることで、アプリの仕様でどんなものが必要か、または必要でないかの意見を持てるようになるのではないでしょうか。

例えば、僕は最初「家族に自分の症状を共有できる機能があったら良いのではないか」と考えていたのですが、お話を聞いていくうちに「家族には心配をかけたくないから、あまり症状を知られたくない」と思っている方が多いと知りました。
やはり、想像やネットで調べた情報よりも、患者さんに直接お話を聞かないとわからないことが多いです。

佐藤:小川さんが言っていることがとても重要である一方で、患者さんの要望を叶えようとしすぎて、あれこれ機能を詰め込みすぎてしまっても使いにくいアプリになってしまいます。
開発スピードが遅くなって患者さんにアプリを早く届けられなくなってしまうのも本末転倒です。

なので、入れたい機能の優先順位づけや、本質的に大切なことの見極めはエンジニアの仕事かなと思っています。
仕様が複雑になるとアプリの不具合も起きやすくなるので、要素のそぎ落としが重要です。
これから本格的な開発作業に入っていくので、みんなで議論しながら良いアプリを作っていきたいです。

ーーバックエンドエンジニアと一口で言っても、関わるサービスによって仕事内容が変わってくると思いますが、ハカルテ開発のバックエンドにはどういった難しさや面白さがありますか?

小川:ハカルテ開発の難しさだと、「治療のスケジュールや人の体調」といった、変則的なものに対してどうロジックを組み立てていくのか? という点があります。

小川:例えば「毎回の抗がん剤治療後に、アプリ内で問診に答えてもらうために通知を送る」機能の設計をしたいとします。
仮に3週間ごとに問診に答えてもらう仕組みにしたとしても、患者さんの都合や治療の状況により、抗がん剤治療のための通院日がズレることがあります。
通院は長期間に渡って何回も続くため、通知のズレが積み重なると、患者さんに適切なタイミングで通知を送るのが難しくなってしまう...という困りごとが発生します。
そのあたりをいかに複雑なロジックにせずに解決するかが難しさでもあり、やりがいでもあります。

佐藤:あとは、人の体調の記録というセンシティブなデータを扱うので、いつも以上に情報の保持と管理には気をつけなければと思っています。
病気のことや細かい症状のことは人に知られたくないことだと思うので、丁寧に取り扱って開発したいです。

小川:面白い点でいうと、ユーザーとの距離が近いアプリになりそうなので、使ってみてどうだったかなどの感想をいただきやすいのではという点かと思います。
治療で大変な思いをされている方たちに対して、少しでも役立つようなアプリを作り、ご意見をいただきながらまた改善して…という開発ができるのがありがたいです。
サービスによっては、ユーザーの温度感が伝わってきにくいものもあるので、ハカルテ開発はとてもやりがいがあります。

佐藤:面白い点は、やはり使っていただいた方の生活の役に立てそうなサービスであることや、一般向けのハカルテアプリが出たら喜んでいただけそうなところが一番です。

がんになる方は年々増えていますし、ハカルテのようなサービスを必要としている人は多いはずです。
また、患者さんだけでなく医療者の方にとっても価値のあるサービスにできたらと思っています。

ーー早く一般の患者さんたちに使っていただけるアプリをリリースしたいですね。最後に、ハカルテのアプリによって社会にどんな価値を提供したいですか?

小川:患者さんの中には、治療の悩みを解決するためにご自身で体調記録を詳細にメモしている方も多いと聞きました。
とても重要なことである一方、毎日のことなので紙に記録し続けるのは大変だと思います。

ハカルテのアプリを使うことで記録の大変さを軽減し、さらに医療者にも伝えやすいフォーマットにすることができれば、患者さんと医療者どちらにも大きな価値を感じていただけるのでは、と思っています。

佐藤:患者さんのお話を聞いていくなかで、がん治療で関わる相手は主治医と看護師さんだけではなく、先ほど述べたような爪や髪などの副作用に対処する医療者や、様々なサポートをするサービスの方など、色々な役割の人と接するということを知りました。

そのなかで、それぞれの担当の方に自分の症状について同じ説明を繰り返さなければいけないのも、かなり大変だと聞きました。
なので、小川さんが言ったようにハカルテのアプリで体調記録することによって「記録のフォーマットの最適化」ができるようになれば、関わる人への共有の手間が省けるというのも大きな価値になるのではと思います。

ただでさえ治療中は体力や気力が低下してしまうこともあると思うので、そういった点をアプリでサポートできたらと思います。

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