小説 | 島の記憶 第6話 -結婚式-
前回のお話
しばらくして、秋分がやってきた。島では秋分は結婚の季節で、村では華やかな大宴会のための準備が進んでいた。
今年は私の従姉のレフアが隣村に嫁ぐことになり、またもう一人の従姉インデプはお婿さんを迎えることになった。従兄のカイの兄のパイケアは島の遠くの村へ婿入りすることになり、パイケアの弟でやはりカイの兄さんのマヌブはお嫁さんを迎えることとなっていた。
4組の新しい家族の門出を祝い、また二人の旅立ちと、二人の新しい家族の誕生を祝うために村全体がとびきりの宴会を開くために様々な工夫をしていた。
カイ達は連日岩島までカヌーを出し、季節で海流が変わって大型の魚が来るようになった海で毎日のように漁に専念していた。獲れた魚はその日のうちに食べるものを除くと、すべて天日に干して保存できるようにした。おばあちゃんは干し魚作りが大好きで、毎年ふっくらと噛み応えのある干し魚を沢山作ってくれた。干し魚は大抵の場合、漁が芳しくないときのごちそうになった。
山の猟も大忙しだった。イハイアやヘミ達は毎日山へ出かけて猟に専念した。ウサギや鳥など小さな獲物から、罠にかかった鹿などが運ばれてきて、革や羽など後で使うものをより分けた後は、その日に食べる分を除いて保存できるように燻した。アリキのお爺ちゃんは燻製を作るのが得意で、石の窯にいい匂いのする木の皮の煙を立てながら、燻製の出来具合を見ていた。私たちはいつもその石窯を眺めながら、木の皮のいい匂いのする煙を嗅いでは、この先どんな美味しいごちそうになるかを話しあった。
母さん達も大忙しだった。山や近くの畑でさつま芋やカボチャなどの野菜や花を収穫し、また宴会の装飾のためのプルメリアの花を沢山集めては、大きな鉢に張った水の中に生けていった。あまりに沢山のプルメリアの花が集められたせいか、うちの前には甘く清涼な花の香りがふくいくと漂っていた。
叔母さん達も大忙しだった。村へ迎えるお嫁さんとお婿さんの歓迎のための贈り物の他、村から嫁いでいく従兄と従姉のための婚礼の贈り物の準備に余念がない。贈り物は、服に仕立てる鮮やかな文様の幾重もの布と、ウサギや鹿の皮を使った鞄や狩りの道具、そして村の代々の人々の名前を織り込んだ、部屋仕切り用の織物。草のつるで編んだ沢山の籠。妹のリアたちが一生懸命手伝った沢山の鉢や皿や壺。そして燻製の肉と干し魚の山。普段使いのものから、結婚のお祝いの品として前々から準備していたものが8人分積み上げられていった。
私は山の神殿でのお勤めが終わると、おばあちゃんの手伝いで干し魚を天日の下に並べたり、叔母さんとの唄のお稽古の後では、集めてきた花や葉などで宴会当日の沢山の装飾品を作ったりと忙しく働いた。
宴会の当日、8人の新郎新婦が村に集まり、それぞれが美しい服に身を包んでいた。
歓迎と祝福のために、私の弟のカウリと妹のリアが、花冠とレイを新郎新婦にかけていった。
村の広場がまた掃き清められ、村の人々が全員でそろい、宴会が華やかに始まった。
まずは村の子供たちが歓迎の歌、テ・カランガを歌う。妹のリアもその中にいた。子供たちの透き通るような歌声に、辺りは歓声に包まれた
次に、男性の舞が披露される。この時は新郎新婦の兄弟や友人達がそろって舞を踊る。この日は総勢15名の男たちが、抜けるような晴天の下、力強い舞を披露した。力強い掛け声とともに繰り出される足踏みや腕の動きは、生命力にあふれ、周囲も自然と盛り上がっていく。
舞が終わると、山の神殿の巫女である叔母が、8人の新郎新婦に祝福をささげ、結婚の誓いの儀式が執り行われた。
その後は愛の歌が披露される。この日は私がその大役を仰せつかった。
緊張を沈め、従姉達の事を思って声の限りに歌った。
長老のタンガロアお爺さんの横に、8人の新郎新婦が座る。
8人の前には、焼いた石で蒸し焼きにした豚と芋などの野菜が、蘭とプルメリアの花で飾られて大きな皿の上に鎮座している。その脇には具沢山の魚のスープの鉢と、お皿に乗った鳥の丸焼きがいくつも並べられていた。スープからは、母さんたちが集めてきた香草のいい香りが漂っている。
タンガロアお爺さんが新郎新婦に向けて挨拶をした。
「2人の新しい家族を迎え、また2人の家族を遠くの村に持つことになったことに感謝を。この村にやってきた二人は、これから私たちの家族の一員です。皆をあなた方の家族として時には頼り、時には支え、一緒に楽しく暮らしていてくれれば嬉しい事この上ない。始めのうちは慣れないことも多いと思うが、どうか私たちを父、母、兄、姉として頼ってほしい。
そして遠くの村へ行く四人も、あちらの村の家族を大切にして、時々私たちのことも思い出しておくれ。私達は今後もあなた方の家族だ。何か困ったことや心配なことがあればいつでも相談してほしい。村と村が家族になるのだ、一緒になって問題を解決して楽しく暮らしていこう。
それでは、お腹を空かせた人達、お待たせしました。宴会を始めようか」
食事がめいめいに取り分けられ、私たちはごちそうと共に新郎新婦を祝福した。従姉達に挨拶に行くと、先に来ていた村の大勢の小さな子供達が、新しく村に来た新郎や新婦たちに甘え、質問攻めにするのに夢中になっていた。子供たちをかき分け、やっと新郎新婦達のそばまで行けた私は、精いっぱいの声で話しかけた。
「兄さん、姉さん達、おめでとう!またいつでも遊びに来てね!」
すると、兄さんや姉さんたちは一瞬顔を見合わせた後、私の方を見て、少し寂しげで少し悲しそうな顔をしながらこう言った。
「ティアも、何があっても頑張るんだよ!私たちも応援しているからね!」
(続く)
(このお話はフィクションです)
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