引っ込み思案な4歳娘の「あそぼ」
「お友達が幼稚園に来たら、自分からあそぼって言うの」
幼稚園年少の娘が自宅で夕食を食べながら話してくれました。どこか得意気な顔です。
私は驚いて娘の顔をじっくり見ながら「え?そうなの?えらいね!」と答えました。
「だって、自分から話しかけることが大切なんだよ」
娘の思いがけない言葉に、さらに驚く私。
聞きたいことは、たくさんあったけれど、胸がいっぱいになり何も言えませんでした。
□□□
娘は家では、とても活発ですが、幼稚園では人見知りで引っ込み思案。不安を感じやすく、とてもおとなしいため先生にも心配されてしまうような子です。
幼稚園では小さな声で話し、大きな声を出すことはありません。
そんな娘の様子に、私もハラハラの連続。
娘は今年の春に入園してから、なかなか幼稚園に慣れませんでした。初めての集団生活で何度も風邪を引き、ほとんど幼稚園に通えない日が続いたことも理由の一つだったかもしれません。
新緑が目立ち始める5月下旬。
風邪も落ち着き、久しぶりに登園した日も泣いていました。
「幼稚園行きたくないよぉぉ!!!」
大泣きする娘を幼稚園に連れて行くのは、心が張り裂けるような思いでした。
なんとか幼稚園に送っていき、私が自宅でソワソワしながら心配していた頃、娘にとって大きな出来事があったようです。
それはゆーちゃんとの出会い。
幼稚園に入園してから、初めてお友達ができたのです。
あるとき、娘が話してくれました。
「お母さん居なくて寂しくて、えんえんって泣いてたら『大丈夫?』ってゆーちゃんが話しかけてくれたの。だから仲良くなったんだよ」
幼稚園に着いても、ずっと泣いている娘に、同じ年少クラスのゆーちゃんが話しかけてくれたようです。
ゆーちゃんと仲良くなったおかげで「幼稚園に行きたくない」と泣くことはなくなり、楽しく通えるようになりました。
□□□
娘は毎日、幼稚園での出来事を私に話してくれます。
私は「うんうん」と、うなずきながら娘の次の言葉を待ちます。
「ゆーちゃんとね、砂場で遊んだ!虫探しとお花探しもしたの!」
「ゆーちゃんね、かわいい髪型してるの」
「ゆーちゃんはバスで幼稚園に来るんだよ」
最近の話題は、ゆーちゃんのことばかり。
家で遊ぶときも、幼稚園でゆーちゃんと遊んでいるのだろうなと思える遊びを私に求めてくるようになりました。
独特なルールがあるお店やさんごっこ、おままごと、幼稚園ごっこ……。
誰もいない公園内を走るときは、私と手を繋いで走ります。
「あっちに行ってみよう!あはははぁ。楽しいねぇ~」
娘が遊びたいように一緒に遊んでいると、私に対してお友達に接するように話しかけてきます。
「ここはこうするといいよ。ね、こうして……」
その話し方は、とても優しく楽しそう。
娘の様子から察するとゆーちゃんは、とても優しい女の子のようです。
□□□
ミンミンとセミの声が響く7月のある日、担任の先生が幼稚園での娘の様子を教えてくれました。
「娘ちゃんは毎日、ゆーちゃんがバスで登園するまで待っているんですよ」
「えー?」と驚く私。娘は私が幼稚園まで送迎しているので、バス通園の子よりも早く登園します。
「園庭の入り口の遊具で一人で遊んで待っている日もあれば、室内の窓から園庭の入り口を、ずっと見て待っている日もあって」
そう話す担任の先生に「そうなんですか……」と言いながら、私は一人で待っている娘の姿を想像してしまいました。
娘は「ゆーちゃん早く来ないかなぁ」と思いながら待っているのでしょうか。
胸がきゅっとなるような、切ない思いがこみ上げてきました。
担任の先生は微笑みながら、話を続けてくれます。
「ゆーちゃんも登園したら『娘ちゃん待ってるから早く行かなきゃ』って急いでいて。うふふ。着替えの前後もトイレに行くときも、いつも一緒なんです!ほんとに仲良しですよ~!」
担任の先生と話し終わってから、私は娘とゆーちゃんが、仲良く遊んでいる様子を想像してみました。
手を繋いで笑顔で走っているところ。
楽しく虫探しをしているところ。
それは、とても微笑ましくて愛しい姿です。
私の心の中は、あたたかい気持ちで満たされていきました。
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夏の暑さも落ち着き、すこし冷たい風が吹き始めた9月。
今日も娘を幼稚園に送り届けてきました。
幼稚園に着いたら体操着に着替えて遊ぶのがルールです。
娘は今日も体操着姿で、ゆーちゃんのことを待っているのでしょうか。
ワーワーキャーキャーと子どもたちの声が響く幼稚園の中。
バスから降りて元気に登園してくるゆーちゃんに、今日も娘は自分から声をかけに行くのでしょう。
ちょっぴり勇気を出して。
「ゆーちゃん、あそぼ」
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