パン職人の修造108 江川と修造シリーズ リーブロプレオープン
修造は大坂を店のテーブルに座らせてコーヒーを飲ませた「みんな前の店のやり方があるんだな、この店のやり方とかまだ身についてないから揉めたんだよ」
「すみません、カッとなって」大坂ががっくりパワーダウンしてきた。
「俺、すぐカッとなるんです」
「うん」
「前の所でも喧嘩して」
「それで辞めたのか」
「はい、でも折角入ったリーブロ、俺辞めたく無いです」
「うん」
ところで今パンを焼く人間がオーブンの前にいない。
「撮影は江川に任せて俺がパンを焼いてくるから落ち着いたら戻ってきてね」
「はい、すみませんでした」
そこへ立花が戻ってきた「あの」
「うん」
「引き止めたけど帰ってしまいました。もう来ないかもしれません。力及ばずですみません」
「立花さんが悪いんじゃないよ。忙しい時にごめんね、後で電話してみるよ」
「はい」
「予想もしない事ばっかり起こるな」そう思いながら修造はどんどんパンを焼いていった。
ところでまだあの争いは続いていた。
芝生のところで子供達とボールで遊んでいる律子と待機中の桐田の目が合った、お互いに会釈したが目は笑っていない。
「私、男の人は自分の事だけ見てくれなきゃと思うわあ」
横に立っていたマウンテンは桐田の言葉を聞いて、なんかバチバチになっとるで、奥さん平凡そうやけど気がキツそうやし、あの気位の高い桐田美月がこんな顔するなんてシェフも罪作りやなあ、それにしてもどこがええねん、いつも遠くばっかり見て。
ほんまどこ見とんねん。
そうや前や!真っ直ぐ立って前だけを見て生きとるねん。ちょっとも他所見せえへん、女性は男のそういう所に惹かれるんかもなあ。
「そういえばね、桐田さん。僕以前パンロンドでロケやった時に奥さんの作った料理を目隠しで当てるっちゅうやつをやった時、シェフが奥さんの為に必死で当てにいってたのを思い出しましたわ」と言った。
「え、すみません見ていなくて」
「そんな2人を見て、やっぱ今までずっと支えてきはったから絆があるんやなあと思いましたわ」
それには桐田は返事をしなかったが、十分に説得力があった様にマウンテンには見えた。
「さ、僕らは僕らの場所へ帰りましょか」
「そうね」
2人はリーベンアンドブロートから遠ざかりながら話した。
「僕の方が独身やしええ男やのに」
「バカね」
「バカやないねんアホやねん」
「フフ」
ーーーー
ロケ隊が帰った
11時からは本格的に招待客が来る。
大坂はしばらくすると窯の前に来て「すみませんでした」と言って修造と一緒にパンを焼き出した。
今度は修造の焼くタイミングをよく見ていた。
「修造さん、今日遅番だった登野さんが体調悪くて来れないと連絡ありました」電話に出ていた江川が欠員を知らせてきた。
「わかった、江川、登野さんのポジションに行ってくれない?」
「わかりました」
江川は早速冷蔵庫からバターを折り畳んだ生地を出してきてパイローラーで伸ばしてそれを長い三角にカットして成形を始めた。時間が押している、なるべく素早くやりたい。
和鍵と平城山は同じ台の上で作業していた。2人は気が合うのかおしゃべりしながら成形している。もう2人も欠けてるのにこの呑気さはなんだろう。目の前にいてる江川には不思議な光景だった。
「あのさ、お話をしたらいけないとは言わないからもう少し早く手をうごかさないと、ね」結構優しく言ったつもりだったのに2人の表情は急に引きつってそれ以降何も話さなくなった。
江川は急いでデニッシュとクロワッサンの成形を済ませてホイロへ入れた後、本来の自分の持ち場に戻りミキサーで生地を捏ねだした。
さっきの2人は江川を見ながら何か言っていた。
ーーーー
11時になった
開店当日さながらにパンが並び、招待状を出した人達がやって来た。
「よう修造」
「大木シェフ、鳥井シェフ、どうも」
「良いパンが並んでるじゃないか」
「ありがとうございます」
「落ち着いたらゴルフに連れて行ってやる」
「ゴルフ、、俺やった事なくて」
「俺が教えてやるよ。道具も貸してやるからな」
「大木は修造とゴルフに行きたいらしいよ」と鳥井が大木をからかった。
「フン!また連絡するからその時は来てくれよ!上手くなったら他所のシェフが集まるコンペでお前を紹介するからな」
「はい」
招待客が外に並んだ、
新しい店のオーナーが挨拶するのを聞いている。
まあ、話すのは修造なので「どうも、この度は、あの、ゆっくりしていって下さい」で終わりだったので、代わりに大木が皆に挨拶して、修造のプロフイールについて話していた。
修造が挨拶しに来た基嶋機械の後藤と話している間に、パンロンドの杉本や藤岡達4人を見つけた江川が走って行った。
「みんな久しぶり~」
「今日来れなくてごめんねって奥さんと親方が言ってたわよ」と風花が言った。
「仕方ないよ今日定休日じゃないんだし、さ、お店に入ってパンを選んで!パン粉ちゃんを紹介するね」
「え?パン粉ちゃん?」みんなには、レジの向こうから出てきたパン粉は江川にとって特別な存在に見えた。江川の隣に立って時々目が合うとお互いにニッコリしている。
「とっても気が合うんですねパン粉ちゃんと」
「うん、そうなんだ藤岡君、今度の休みもパン屋さん巡りに行くんだ」
「楽しんできて下さいね」
「うん」
つづく
マウンテンって意外と常識人だったんだ。
そんなマウンテン山田が出てきたお話はこちら背の高い挑戦者23〜27話
パン職人の修造 江川と修造シリーズ 1〜55話はこちら
パン職人の修造 江川と修造シリーズ 56話から100話はこちら
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