Mammaとの約束(乾燥パスタの茹でかた)
このコロナ騒動下、80歳の義母はローマのアパートで一人きり家に篭っている。そのことを思うと毎日気の毒で仕方ない。しかしもちろん高齢なので外には出て欲しくない。けれどもあの人は無駄に散歩して、出会した犬という犬に「bello? o bella?」と話しかけて、(『可愛い』を男性名名詞と女性名詞両方で聞いて、暗にオスかメスか尋ねている。AnconaのVittoria通りなんて犬の散歩だらけで、1mごとに立ち止まるので全然目的地につかない)何かにかこつけてすぐに銀行に行って、美容院に行って、知らない人に話すのが好きなのだ。いつも何がそんな忙しいか良くわからないが「忙しい、忙しい」と言って、「Anconaに帰って花に水やらないと」とまるでかなり緊急性<高>の用事があるような言いっぷりで、電車に飛び乗っていったりしていた。彼女の娘も頻繁にMammaのアパートへ出入りして洗濯物を頼んでいたのに、今やそのアイロンをかけるものも何もなくて、なんだか生きがいを無くしてしまってるんじゃないかと思う。もっとも、あの歳の彼女が毎日どんなことを考えて暮らしているのかは誰もわからない。あの歳になったら私は何を考えて毎日生きるだろう。
彼女と初めて会ったときは緊張した。夫と結婚する前に同棲していた日本の家に来てもらったのだが、夫がいきなり、”友人を迎えに行かなければならないから”と言い出し、義母との初見5分後にいきなり二人きりにされた。イタリア語能力がほぼ0の私だったが、夫は私に優しく、だがかなり雑に「何言っているかわからない時は『Come?(何?)』って聞いてね」とだけ言い残して足早に家を出ていった。それじゃ、話続かないじゃん。私全部わからないんだから。全く使えないドラえもんの道具を置いて行かれたような気分になった私はComeは使わないようにしようと決め、とりあえずソファに座ることを勧めた。彼女がこの家に泊まることになっていたので部屋に案内しようかとも思ったが、細かいことが説明できないと結局夫が帰ってきてから二度手間だろうと、とりあえずコーヒーを入れるべく台所に立った。私は少なからず彼女に良い印象を持ってもらわなければと思いつつも、イタリア語で何も言えないからどうしようと、鈍間にただドキマギとしていたのだが、「何立ってるの、こっちに座りなさい」みたいなことを言われて、義母はお構いなしに立て板に水のごとく話しかけてくる。(独り言だったのかもしれない)とにかくわからないことは聞き流し、あ、ちょっとわかったぞ!みたいなことは強くうんうん、とうなずいた。すると「あ、今のは分かったみたいね」みたいなことを言われて爆笑された。
結局二人で楽しくお話しできたみたいになって、1時間があっという間にか経っていた。夫が友人を連れてきて、みんなで家ツアーをした。(イタリア人はすぐ家の中を隈なく案内すると思う。そしていつもどの部屋も綺麗にしている)
「なんて小さくて可愛くてComodo(心地いい)な家なの!」と感激する義母。
イタリア人は本当に家の話ばかりする。家族が大事だし、仕事よりも家族の食事が重要だったりするから、その箱が大事なのは言うまでもない。彼女も例に漏れず、家の話ばかりする人だから、その彼女が心底気に入ってくれていた様で本当に良かった。その言い方がなんとも愛らしくて、顔がぱあーって輝いていて、もうその時から私は義母のファンになったのだった。
最後に義母が日本に来たのは私たちの結婚式の時だ。この時もまたもや結婚式の前日「仕事関係のパーティーがある」と私をイタリアの家族と置いてけぼりにして、夫はどこかに行ってしまったのだ。結婚式の前日って私も準備とかあるのに、彼らを観光とかに連れて行かなければならないのか!またここでも(少しだけ進歩した)サバイバルイタリア語で時間を繋げなければならない状況になった。そして彼女たちに結婚式で着せる着物や足袋を試着させなければならないというミッションもあった。夫が急遽いなくなってしまった家族たちは、頼るものが私しかいなくなって、少し心細そうに見えた。
「日本ってイタリア語も全然書かれていないし、英語でさえも全然通じないのよねエ」と英語が全く話せない義母が愚痴っぽく言っている。
しかしなんだかコミュニケーションがつづがなく続いたのだ、この時は。自分がどんなに稚拙なイタリア語を使っていたのかは覚えていないが、彼らが私に頼り切って熱心に聞いてくれたのもあるだろう、私的にはすごい会話がスムーズだった感覚があった。夫がいたらできなかったかもしれない、かなり深い話もできた。夜は前夜祭として飲みに行き、その際私の親戚たちにもまた義母は臆せず話しかけまくって
「Traduci Traduci!」
と冗談でなく肩をもたせかけ私に翻訳をするように促したのだ。それはコミュニケーションに関する私への信用度が上がっている感じの頼り方だったと思う。私は本当に心から嬉しくて義母と肩を組んだ。それから私はイタリア語を話すのが楽しくなった気がする。
「だからね、お義母さん」と私は去年のクリスマスの時に彼女に言ったのだ。
「このまま私たちと一緒に日本に帰って、私たちの新居にしばらくいてよ。飛行機もいいチケットがあるの。席も私たちのところに近くて。」
三年前に東京に建てた新居をお義母さんにずっと見せたかったのだ。また初めて家に来た時みたいに新居ツアーをして、風呂釜の大きさにびっくりして欲しかった。屋上を作ったので「小さいけど、気持ちいいわね」とかあの笑顔で言ってもらいたかった。しかし高齢なのでもうずっと遠い日本には来ていなかった。
夫にはこの日本への同行のことを義母に事前に話すように言ってあったのだが、どうも何かで口論になってちゃんと伝えていなかったようだ。(本当にイタリアの人たちの日常的な口論が激しい。本人たちはそんなにダメージを受けていないんだけれども。ただ見た目が激しいだけなことが多い)私はもっと来て欲しいという気持ちをちゃんと伝えたくて義母と二人きりで話した。
「まあ、そんなこと聞いてないわ。もうチケットまで買ってるの?」
「日本に来てもらってしばらく一緒に過ごしたいの。おばあちゃんとして孫とももっと過ごして欲しいし、あまりいつも私たちと長く居られないから」と私は執拗なまでにお願いした。
しかしやっぱり彼女は頑なのである。
「気持ちはとても嬉しいわ。日本も好きだし、新居は本当に行きたい。けど、Anconaの家の植物が心配なのよ。水をあげなければいけない。それにAnconaの家のメンテナンスで帰らなければいけないの。ストーブとか水道管とか・・・それに・・・」
色々言い訳を言っていたけれど、結局は日本とイタリアを往復することが彼女には重荷なのだ。彼女が本当に行きたいのはわかっている。しかし飛行機に乗ることに関してはだんだんと腰が重くなっている。あまりにも突然な申し出で、非日常的なことはもうなるべくしたくないのだ、彼女は。無理もない。しばらくしつこくお願いしていたが、最後には私が折れた。
「来年は必ず日本に行くわ。娘に連れて行ってもらう。」
絶対だよ、お義母さん。けど今になって思うのは、コロナパンデミックの前に日本に来て欲しかった。そのままイタリアに帰らずに日本に居てもらってもきっと楽しかったし、それに今度いつイタリアに行けるかはまだ良くわからない。(夏はいけないだろう。クリスマスも果たして。)しかし彼女には彼女の生活がある。おそらくいつも欠かさずみているドラマも見たいのだ。それについて妹と電話で話したいのだ。
昨晩も電話をしたけれど、彼女はスマホも持っていないので顔も見ることができない。1歳半の息子が何か電話に向かって話しかけていて、その様子なども見れたらどんなに喜んで、またああして、高い声で笑ってくれただろう。それでも声だけ聞けるだけでとても嬉しそうで
「Ti voglio bene!!(大好きよ)Ti voglio bene!」
と何回も言っていた。私は少し目が潤んでしまった。
いつもイタリアに行くと食材を買い溜めして帰る。特にオリーブオイルと蜂蜜とパスタ。義母は近所のスーパーに行く時などは付き合ってくれて、私を子供みたいに思ってるのだろうか、「会計は私がする」と言って聞かない。こんなに買うともうそれだけでスーツケースがいっぱいで、洋服などは後から郵送する。
さて明朝はもう空港に行かなければと思いながら部屋で一人でスーツケースを整理していると、いつも必ず義母は周りをうろうろして心配そうに、そして何かしらにいちゃもんをつける。
「こんなにパスタを買ってMa, sei matta!?(頭おかしいんじゃないのあなた!)」
と叫ぶあの大袈裟な反応が本当に懐かしい。今更何言ってるの、買ってくれたのお義母さんでしょう。確かにイタリアではパスタなんて安くてたくさん種類がゴロゴロあって、日本のこと良く分かっていない人には「頭おかしいんじゃないの?!」ってレベルかもしれない。(言っておくが、日本ではこんなこと人に滅多に言わないから最初びっくりするけれど、イタリアでは結構頻繁に使うので、そんなに意味は強めではない)
とにかくずっとうるさいので、いい加減夫に叱られて、お義母さんはナポリの古い歌い始める。(彼女は何か都合が悪いことがあったりすると、歌い始める。そして言っておくが、彼女はナポリの人ではなく北イタリアのTrentinoの人だ。)
「だってお義母さん売ってないのよ、うちの周りにはこんなパスタの種類。それに1.7mmのスパゲッティだって珍しいんだから!」
と言うことで、今日はちょっと乾燥パスタを茹でるコツをここに書こうかと思う。スパゲッティはやはり家では作れないので乾燥パスタを使う。まず、日本では1.6mmばかり売っている。おそらく昔のイタ飯ブームでスープパスタなどが流行ったからスープが絡みやすい細いパスタが輸入されたその名残、と私は憶測しているが、とにかくこれは細すぎて何か物足りない気がするのだ。(日本的に言えばコシがないと言うべきか)イタリアで良く見るのは1.7mmスパゲティ。これを日本で偶然見つけたら私は買い溜めする。
①茹で時間をパッケージ通りにしない
パッケージに書いてあるー2分で茹でる。あの時間通りに茹でると絶対アルデンテにはならない。
②パスタをザルにあげない。
またこれはイタリアでも珍しいかもしれないが、義姉のパートナーに教えてもらったのは「パスタが茹で上がったらざるにあげないで、パスタをトングで掴んでよそう。」そうすることで、茹で汁に逃げたアミノ酸を少しでも救うことができる。アミノ酸は旨味成分と良く言われるので、そうか、と私はこれをいつも忠実に守っている。しかし手早くあげるよう気をつけなければならない。せっかくのアルデンテでもどんどんふにゃふにゃになってしまう。
③茹で汁に入れる塩はイタリア産がおすすめ
パスタを茹でるときに塩を入れる理由はパスタをしめるためと言う説もあるみたいだが、パスタに多少味がついていないと、単純にソースと絡めた時にやはりぼんやりした味わいになってしまうからだと思う。塩はイタリアの塩(粗塩)の方が味が決まると私は思うし、夫の反応も良いことが多い。イタリアの塩の方がまろやかで味が濃い。もし日本の塩でやる時は多めに入れたほうが良い。(手掴み3−4杯のイメージ)我が家はいつもこのMothia。
先日作った丸鶏とじゃがいものオーブン焼きの残りと、空豆でパスタを作ったら美味しかったのでこちらに記しておきます。空豆と鶏肉は合います。豆とじゃがいももホクホク同志でとても合います。
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※レシピ Ricetta
空豆と鶏肉のスパゲティ(Gli spaghetti con le fave e il pollo)
<材料>
・鶏肉(オーブンでローズマリーとオリーブオイルで焼いたもの)
・じゃがいも(オーブンで焼いたもの)
・空豆(グリルで鞘ごと焼いたもの)
・スパゲティ
・ペコリーノチーズ
1. スパゲティを茹でる(上記のポイントに気をつけて)
2. 鶏肉とじゃがいもを細かくする
3. 2のものと空豆とスパゲッティをあえる。
4. ペコリーノをかけて出来上がり!
そうそう、うちの子は何を隠そう、一番お義母さんに似ています。