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エッセイとイタリアからのおいしいもの

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日々の何気ない事柄、ふと道で思いついたことを書き綴っている、そのエッセイとともに繰り出されるイタリア料理のレシピ。色々と考えていると結局何かおいしいものにたどり着きます。Prim…
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#料理好きな人と繋がりたい

りんごとバターと砂糖のにおいが立ち込める部屋での1日

また雨に閉じ込められてしまった。我が家は角地なので、余計に四方を水責めされているような感覚に陥る。こういう雨の壁って、通り抜けても通り抜けてもまだあって、地獄にもし入ったら、死んでも死にきれないってこういう感覚と似ているのかなーと想像が飛ぶ。そしてこんなときに限ってラジオからは「帰って来た酔っ払い」が流れる。私の中にはおそらく自分にも見せられない不安がきっと一日中くすぶっていた。 「雨に唄えば」みたいな明るさで雨の中を楽しめるのは、心に余裕があるときだと思う。それに昨日はと

Formaggioの作り方

 いつも私が使っているイチョウの小さいまな板がある。これは私の実家の銀杏の木を切らなければならなくなった時に、父が切って、やすって、きれいにしたものだ。あの木はいつも2階の私の部屋から見える、本当に黄金に輝く、何か大きい浮遊体のようだった。父が幼い頃、昔はとても深く見えた、あの森で苗を見つけて、家の庭に植え替えたものらしい。(しかしその話は父本人が覚えておらず、誰が言ったのか、我が家に伝わっている話なだけで、真相は藪の中なのである。)  母は、父の思い出の木なんぞを感傷的に

涙の理由

 電車通勤がなくなってから、イヤホンを耳にしなくなった。私はいつもラジオを通勤中に聞いていたのだけれども、イヤホンは耳に悪いし、そもそもベビーカーで子供を連れながらのイヤホンは危なくてしていられない。なのでここ2年ぐらいはずっと、自分の聞こえるレベルの音量でラジオをかけ、流しっぱなしでバッグの中に忍ばせている。近所を歩くときだけだけれども、迷惑だろうか。自分としては、そんなに喧しいラジオを聞いているつもりはないので、迷惑にならない程度にかけていると思っている。それに私は歩くの

幕開け

 ベランダのプランターで房なりに育ったトマトが、赤く色づいてきた。友人は自分の子供にそれを指差し「しゅうかく」という言葉を教えようとしていた。1歳10ヶ月なのに助詞も正しく使うほどよく喋れる子で、小学生の頃に読んだ「天才えりちゃん、金魚を食べた」という本を彷彿させる。お母さんが、地味ながらも丹念に子供に話しかけをしているのをよく見ていたし、ご両親共々才能のある人たちだから、他人の私まで期待を寄せてしまうような女の子である。いつも綺麗な色のふわっとしたスカートを着て、あのウィス

一面葡萄畑の中で

 縁の下がいっぱいになっていたので整理していたら、最近久しく見ていなかったボトルのガラス容器が見つかった。中にはやや緑がかった黄色の液体が入っている。なんだっけ、これ。梅酒は別の容器に入ってるしな。梅酒が変色しちゃったのかしら。それともずいぶん前に作ったリモンチェッロ??  これは果たして飲めるものなのだろうか、夫とおそるおそる飲んでみる。夫はそんな忘れ去られているものは腐っているものに違いないと、かなり試飲に抵抗していたが、無理やり付き合わせる。最初はリモンチェッロだと思

Sicilian Ghost Story

 この前も子供を育てることについて少し書いたけれども、夫とはたまに子供をどこで育てようという話になる。私は鼻息を荒くして日本の学校に通わせたくないの一点張りで、たぶん私のことをちょっとイタリアかぶれだと思っている夫は、「けど、イタリアの学校も別によくないよ」となだめる。 >>過去の参考記事  イタリアの学校は、もちろん地域によって全く異なると思うのだけれども、日本の学校のように全体主義、不自然な平等主義ではないし、子供たちがわりと楽観的なような気がする。(日本のうちの近所

おさるのジョージ論(カンノーロ)

 息子が毎日欠かさず見ているアニメ、それは「おさるのジョージ」である。子供が生まれる前は映画を毎日見て年間200本以上、独身時代は年間300本以上見ていたが、今やおさるのジョージにその時間を侵されてしまっている。私はあまり子供に子供番組を見せないようにしていて、というよりテレビがないので、自動的に何かのチャンネルを流すということができず、そういう週間がなかった。しかしイタリアの実家でイタリア語の勉強にいいかもと、アニメチャンネルを見せていたら、おさるのジョージが彼にどハマりし

母がもいだ甘夏が今(甘夏のリゾット)

 近所の家で、築何年なのだろう、木戸の雨戸を使っている家がある。大きいのに何となく一部屋一部屋が狭っこい部屋がたくさんある家。昔の家らしいあのそんなに幅が広くないベランダで、お父さんが一人肩身狭そうにキャンピングチェアに座ってタバコをふかしているのをよく見る。それに、どんなに暑い日でも薄い長袖を羽織っている痩せ細ったお母さんが、折れそうな物干し竿に布団を干しているのをよく見る。もともとなんとなく気になっていたお家なのであるが、そこの家の前に来ると、私の子供もいつも立ち止まるよ

結婚主義〜恋愛主義〜それから

 今日は結婚記念日。厳密にいうと入籍をした日で、結婚式を行ったのは12月。なので私たちの両親たち(日本もイタリアも)は5月に入籍したことなんか覚えていないだろうし、私たちもどちらが結婚記念日というべきかいつも決めかねてのらりくらり、たまに忘れている時もある(やはり式がないと実感がない。当人たちが実感がないので誰もそんな実感ない)、もうサラダ記念日とあまり変わらない。とにかくその記念日だった。  結婚なんてつい六年前ぐらいは考えていなかった。そういうパートナーもいなかったし(

料理と真摯に向き合うこと

 先日マレーシアの友達がFacebook上にて、「Western foodは本当に早く作れるから、最近はWestern foodばかり作っている lol」みたいなことを書いていて、いやいや何言ってんだ君!って書き込みたかったところをグッと堪えた。しかし言いたいことを言わないとかえって疲れる気がしたのでここに書く。  私は声を大にして言いたい。あなた何言ってんの!!イタリア人とか、どんだけ時間かけて夕食作ってると思ってんの!夕食のために1日が始まると言っても過言ではない。(イ

Lost in translation(花クレソンのリゾット)

 うちの子はブランコが大好き。本当に遠くからブランコ目掛けて走っていって「うーっ!」と言いながらブランコを指差し、私に座れという。私はブランコの鎖を手で握らず肘で挟み、この子を膝の上に載せると、空を見上げてその時の空の様子を歌にして口ずさむ。夕方だったら、見え始めた白い月の歌とか、青空に松の幹の茶色が映えていたら松の幹茶色いの歌とか。だから毎回違う詩とメロディ(大抵短調)なのだが、なぜか息子は落ち着くらしく、8割型そのまま揺られて寝てしまう。  そういえば曇り空の日、私がま

Mammaとの約束(乾燥パスタの茹でかた)

 このコロナ騒動下、80歳の義母はローマのアパートで一人きり家に篭っている。そのことを思うと毎日気の毒で仕方ない。しかしもちろん高齢なので外には出て欲しくない。けれどもあの人は無駄に散歩して、出会した犬という犬に「bello? o bella?」と話しかけて、(『可愛い』を男性名名詞と女性名詞両方で聞いて、暗にオスかメスか尋ねている。AnconaのVittoria通りなんて犬の散歩だらけで、1mごとに立ち止まるので全然目的地につかない)何かにかこつけてすぐに銀行に行って、美容

スロースロースロー 〜便利じゃないイタリア〜

 先日「洗濯マグちゃん」という、洗剤を使わずにマグネシウムで洗うという方法をブログでも紹介したが、 それを昔イタリアに住んでいたという近所の人にもおすすめしたら、 「そう言えばイタリアに住んでいた時、近所のおばさんがクルミで洗ってたなあ」 と衝撃の一言。クルミ洗濯!?そんなの私は初めて知りました・・・!上には上がいる。早速”Noci(クルミ), lavastrice(洗濯機), bucato(洗濯物)"と検索すると・・・なんと、なんとたくさん検索ヒット!  クルミの皮