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母がもいだ甘夏が今(甘夏のリゾット)
近所の家で、築何年なのだろう、木戸の雨戸を使っている家がある。大きいのに何となく一部屋一部屋が狭っこい部屋がたくさんある家。昔の家らしいあのそんなに幅が広くないベランダで、お父さんが一人肩身狭そうにキャンピングチェアに座ってタバコをふかしているのをよく見る。それに、どんなに暑い日でも薄い長袖を羽織っている痩せ細ったお母さんが、折れそうな物干し竿に布団を干しているのをよく見る。もともとなんとなく気になっていたお家なのであるが、そこの家の前に来ると、私の子供もいつも立ち止まるようになった。家の前でそこの姉妹がいつも午前中にバトミントンをやっているからである。跳ぶ羽をずっと目で追う息子。二人とも40歳前半ぐらいだろうか。(私は自分が歳を取るごとに、だんだん他人の歳を言い当てられなくなってきた)一人がおそらくなんらかのバトミントン経験者で、もう一人にいつも教えている格好で羽を叩き合っている。二人ともとても元気で若々しくて、とても無邪気に遊んでいるという感じだ。目的はコロナによる運動不足解消だったとしても。それに二人はとても似ていないけど、とても仲がいい。この姉妹と、あのお父さんとお母さんがお昼に食卓を囲んでそうめんをすすっている様子が目に浮かぶ。この姉妹は私の1歳児の息子をいつも観客として快く迎え入れてくれる。
私は女姉妹がいないので、兄弟が仲がいいという感覚があまりよくわからない。兄妹でも仲がいい人はいると思うのだけれど、家族の異性同士で例えば同じ趣味について話すとか、趣味が同じでなくても仲がいいとか、その事象がどうやって起こるのか私には全く見当がつかない。(異性の夫婦ではそういったことはできるのだが、それは血が繋がっていないからこそだ、と私は思っている)
私の母もそういえばお姉さんと仲がいい。弟もいるけれど、姉との方がよく連絡を取るし、一緒にお茶会とか旅行とか展覧会にいったりしている。二人とも全然似てないし、共通の趣味は着物があるけれども、それ以外は考え方とか人生のベクトルとか全然違う女性同士なのに、電話番号を暗記して、お互い何をそんなに電話しているのだろうといつも思っていた。叔母の方がいつも落ち着いて斜に構えていてお金の使い方を心得ていた。しかし母は世間知らずで無邪気でおてんばな箱入り娘のまま歳をとったみたいな人だ。「お金の話とかそういうのは私のでる幕ではないわ」とでもいうようだ。子供に対してはおおらかではないのに、自分に対してはおおらかだった。子供にはそういう矛盾がいちいち引っかかって、難しかった。子供には厳しいのに、他人のうちの大きな木から甘夏がこぼれ落ちそうだと言って、ぴょんと飛び跳ねて甘夏をもぎ取ったりしていた。あの時の、突然の麗しき女学生バリのお茶目さと、機敏なハイウェストのジーパン姿は、なぜか私の記憶に刻まれている。
しかし今思い返すと、母が叔母へ電話することが多くなったのは祖母が亡くなってからかもしれない。当たり前だが、確かに姉妹の共通の話題は家族だ。例えば私が夫に話す母像は断片的だ。きっとここに書かれることと同じく偏りがある。そして彼はその断片的な像を受け入れるしか手立てはなく、それは正確には共有ではない。以前の過去の母を目の当たりにしておらず、一緒に時間を共有していないからである。しかし姉妹ならばそれを補える。もしくは同じ事象を、一人には記憶にないエピソードを共有することで増幅できる。母と叔母とはもちろん、辛気臭くずっと祖母の話をしていたわけではないと思うが、言葉の端端に家族の匂いが嗅げて、彼女は落ち着いたのかもしれない。彼女は兄弟の中で一番お母さん子だと、生前祖母が言っていた。もしかしたらいつか必要になってくるのかもしれない。私は母の思い出をいつ補え合えるだろうか。
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甘夏をふと思い出して買ってみた。ブラッドオレンジでリゾットを作ったことがある。少しの柑橘系の苦味とマスカルポーネの相性が非常に良くて、これを甘夏でも作っても美味しいのではないかと思い作ってみた。イタリアではこのようにフルーツでたまにリゾットを作るようだ。どこの地域のものかはちょっとわからない、南の方かもしれない。
レシピ Ricetta
甘夏のリゾット
<材料>Ingredienti
・甘夏 2個
・マスカルポーネ(私は自家製チーズ)
・野菜のブロード(にんじん、ズッキーニ、玉ねぎ、セロリを煮立てたもの)
・玉ねぎみじん切り 1個分
・米(カルナローリ米がやはりイタリアのリゾットになる) 1.5合
・バター少々
・白ワイン
<作り方>
・甘夏で出汁をとる。皮を白い部分を取り除いて切り、水で煮る。綺麗な黄色になったら、野菜のブロードを混ぜて出来上がり。実は皮をむいておく。
・フライパンで玉ねぎをバターで炒める。透明感が出てきたら、米を投入し乾煎りをする。
・白ワインと甘夏の出汁を少しずつ足し、米を煮立てる。
・最後に実とマスカルポーネをさっと余熱で混ぜたら出来上がり。
Buon appetito!
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