りんごとバターと砂糖のにおいが立ち込める部屋での1日
また雨に閉じ込められてしまった。我が家は角地なので、余計に四方を水責めされているような感覚に陥る。こういう雨の壁って、通り抜けても通り抜けてもまだあって、地獄にもし入ったら、死んでも死にきれないってこういう感覚と似ているのかなーと想像が飛ぶ。そしてこんなときに限ってラジオからは「帰って来た酔っ払い」が流れる。私の中にはおそらく自分にも見せられない不安がきっと一日中くすぶっていた。
「雨に唄えば」みたいな明るさで雨の中を楽しめるのは、心に余裕があるときだと思う。それに昨日はとりわけ寒さも厳しかったから、余計私は内向きだったのかもしれない。つい最近まで暑かったのに、もう暖房をいれるなんて癪だから、パンを2時間かけて焼いたりして、オーブンで暖を取っていた。私はこの「暖を取る」という言葉が好きだ。
夜はさすがに子供が心配だったので、デロンギのオイルヒーターをつけた。部屋がじわじわ暖まるのを待てずに、ヒーターを毛布で覆い、その中に入って炬燵のようにして自分の体を速暖した。そしてその暖まった体で子どもを包んで寝た。
子どもはどうしてこんなに甘える生物なのだろう。自分も含めて世の中の人間たちがかつてはこんなに甘えていたのを思うと信じられない。そんな息子も私に甘えるには甘えるけど、構ってくれないからと地団駄を踏むことを不思議とここ数日やらない。私のこの水責めにあっている気持ちが伝染してしまっているのだろうか。
幸せを伝染させるには甘いものしかないとなんとなく思いついた。そういえばTrentinoの親戚に聞いたStrudel(ストゥルーデル)のレシピがある。以前私が作っていたStrudelとだいぶレシピが違うのだ。私がレシピを聞いた彼女は、彼女のMammaのレシピと、Nonna(おばあちゃん)のレシピ、両方教えてくれた。親子でもレシピ が違うから、家に伝わるレシピ って本当面白い。
彼女のお母さんのレシピはBurro(バター)たっぷりのもっとオーストリアっぽいレシピだというから、それを作ってみることにした。普通Strudelの生地って麺棒で伸ばすんだけれども、これはAppicicoso(べたべた)すぎて、手でなんとなく伸ばすしかない。扱いにくくて、包むのも簡単ではなかった。
焼いている間、部屋がほのかに暖まって、ふんわり、林檎とバターとシナモンとたっぷりのお砂糖が絡めあっている香りが部屋中を充満して、私の頭の中の幸せ中枢は満たされた。もう匂いが色づいてきそう。茶色で黄色でオレンジなんだけど、やっぱりピンクの匂い。幸せの香り。バター色の髪で頬がピンクの女の子が飛んできそうな感じ。息子もなんだか食欲が湧いて来たみたいで、私にレーズンを求めて来た。
良かった焼いて。形は失敗したけど満足度は高い。3時頃これを夫と息子とおやつと称して食べる、というイベントを設けるだけでもう楽しい。
この香りが家の壁に厚みを作ったのか、もう私の耳には雨音はもはや聞こえなくなっていた。
◉Ricetta
Strudel(ストゥルーデル)
Ingredienti
《生地》
小麦粉300g
砂糖 200g
バター 100g
卵 2つ
塩少々
バニラビーンズ 少々
《詰め物》
りんご 3つ分(2x2x1cmぐらいの薄さに切る)
レーズン 洋酒付け(私はアマレットに漬けてます) 好きなだけ
松の実 好きなだけ
砂糖 60g
パン粉 50g
シナモン、ココア 好きなだけ
1.生地の材料をこねて一つにまとめる
2.詰め物の材料を全部満遍なくよく混ぜる
3.生地を薄く長方形に広げる。(このとき清潔な布巾の上に粉を敷いて、その上に広げるとあとで包みやすくてよい。布巾にくっつかないようにする)
4. たっぷりの詰め物を載せて、布巾ごと持ち上げて丸める
5.180度のオーブンで40分ほど焼くと出来上がり!
Buon appetito!