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短編小説 三丁目公園の老人はかく語りき(三のニ1588字)

いちいち当たっている老人の言葉に聡は

「あなたに、相談なんかしてませんよ、あなたは、誰なんですか、」

老人は、はっきり言った

「私は柴田聡 八十歳、未来のあなたです」

聡は、頭を上げて、改めて隣の老人を見た。

そこには、老けて老人になった自分の姿があった。

「三十年後の私があなただと言うのですか」

そうだ

聡の頭は混乱していたが、出来るだけ整理して老人に疑問をぶつけた。

なぜあなたは、現れたのですか

それは、私の人生で、早期退職した五十歳が人生のターニングポイントだっ

たからだ、何かアドバイスしたい、助けになってやりたいと思ったからだ

ちょっと、まって、あなたは、未来から来たの

そう言う事になる

と言う事は三十年後の人は過去と未来を行来出来ると言う事ですか

いや、出来ない。そんな技術は無い。私は、ただ三十年前を悔いて、落ち込

んでいただけだ、気が付いたら隣にお前がいた。

それで察した、これは困っているお前を救えと言う事なのかと思ったのさ。

じやあ、それは誰かの仕業なの

わからない、そんな事はどうでもいい、今をどう生かすかだ。

八十のわしと、五十のあんたが、これからどうするかと言う事だ。

五十までのあんたと、わしは同じ経験をしている。

わしは、それから三十年経験している。

わしの悔いている事、失敗を教えれば、きっとわしより三十年良い暮らしが
出来る。

私は老人に言った。

そんな事をしたら歴史が変わってしまうじゃないですか。

ハハハハハ。

老人は、大きく噴き出す笑いを堪えて。

大丈夫、あんたは歴史を変える様な大物じゃない、

小物の人生が変わっても、世の中に影響はしない。

私はそれを訊いて、少しがっかりして

上がり目は無いと言う事ですね。

と言うと老人は

落ちる事もあるんだよ

と老人は切り替えして来た私は

落ちるんですか

と、思わず声を高めてしまった。
うまい就職口はないと言う事ですか

老人は

まあ、希望退職で成功する人は、一握りもいない、
勿論あんたは、一握りじゃない。

私は、

あんたは、私を助けに来てくれたんじゃないんですか。

老人は

此処にわしが現れたのは多分、五十の私を助けろと言う事だろう。

私は

良い就職先を教えて下さい、お願いします。

と私は頭を下げた老人は、

いや、流石に同一人物だなあ、あんたの言う言葉が分かる、浅いと言うのか軽薄だ。まあ、急ぐことは無い、おいおいな。
そうだ、今週の天皇賞の結果教えてやろうか、4-9-12で、万馬券だ。

私は急いで4-9-12と、もう使わない名刺にメモした。

老人は、腕時計を観ながら

もう帰るだろう、そこの交差点を右に曲がって、地下鉄で帰るんだろう

私は
そうです、それが一番近い経路です。

老人は、

ちょっと、コーヒー一杯付き合ってくんないか

と言うと歩き始めた。

老人は私を近くの二階の喫茶店に誘った。

喫茶店に入り窓側の席に着くと交差点が良く見えた。

老人が

交差点を右に曲がった歩道をよく見てて

と言った。

それからの事はストップモーションの様に
目に焼き付いている。

・サラリーマン風の男が交差点を右に曲がった

・男は歩きながら道に転がっていた石を蹴った

・クリーンヒットした石は正面から歩いて来た女性の顔に当たった。

・女性は顔を押さえ左側の街路樹の方に倒れた。

・女性の上半身が道路にはみでた。

・そこに軽ワゴン車が、突っ込んで来た。

・すぐ男は駆け付け、野次馬が集まり、
 救急車とパトカーのサイレンが鳴り響いた。

私は一部始終を見て、震えていた。

私には石を蹴る癖がある。

老人が言った

わしが三十年前に引き起こした事故だ。

女性は植物状態になった。

軽ワゴンの運転手は、半身不随になった。

裁判にもなり

莫大な賠償金を背負う事になった。

家も売り、離婚もした。

生活も乱れ刑務所にも入った。

わしの人生は完全に狂ってしまった。

と、坦々と語った老人は、少し間をおいて

来週また公園で会おう

と言って、レシートを持って消えた

私は,まだ震えていた。

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