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イジゲンメトロ

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私の書いた物語、ぜひ、楽しんでください。
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#小説

まえがき

まえがき

2020年10月に書いた物語を、ここにアップさせていただくことにしました。

みなさんに読んでいただくのは、はっきり言ってたいへん恐いのですが。

あえて、公開することにしました。

ぜひ、多くの方々に読んでいただき、コメント欄にて、ご感想をお聞かせ願えるとうれしいです。

さて、2020年の7月にnoteを始め、これまで174本の記事をアップしてきましたが。

ここで改めて少し、自己紹介をさせて

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イジゲンメトロ -1

イジゲンメトロ -1

 だいぶ前にメモしておいた番号をタップした後、私は少しドキドキしながら、スマホを耳に押し当てた。電気的な呼び出し音が響く。一回、二回、三回、数えている途中で回線がつながった。

「もしもし、ミホ? 私、ミズキ。小学校のとき……」

 そこまで名乗ったところで、受話器の向こうに息を呑む気配がした。

「うっそ、なぜなぜ星人ミズキちゃん?」

 ずいぶんと懐かしいあだ名を耳にし、にわかに居心地が悪くな

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イジゲンメトロ -2

イジゲンメトロ -2

 相変わらず顔が広いミホのおかげで、ほんの二日ほどで無事、浜田くんの電話番号を手に入れることができた。

 けれどさすがに、ダイヤルするのは気が引けた。浜田くんとは特に仲が良かったわけでもないので、十中八九、私のことなど忘れてしまっているはずだ。

 でも、電話しないわけにはいかなかった。他でもない、キイちゃんがSOSを求めているのだから。最終的には断られるとしても、浜田くんには、話だけでも聞いて

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イジゲンメトロ -3

イジゲンメトロ -3

 その夜、浜田くんから連絡が来たのは、十一時を回ってからだった。早めに仕事を終え、電話を待ち構えていた私は、すっかり待ちくたびれていた。

「遅くなって、悪い。田代のことがどうとか言ってたけど?」

 なのに待たせた当の本人は、形だけわびはしたものの、挑むような口調を崩そうとしなかった。

「ううん、大丈夫。こっちこそ、さっきはごめんね」

 私は少しでも落ち着かせようと、意識してゆったりとした口

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イジゲンメトロ -4

イジゲンメトロ -4

 私たちが通っていた小学校は、立派な区立のスポーツセンターになっていた。まだできてからそれほど経っていないらしく、木を組み合わせて建てられたオシャレな建物は、隅から隅までピカピカだった。建物の向こうに見える芝生も、朝日にきれいに映えている。

 浜田くんが来る前に、私は周囲を一周してみた。開館は九時なので、まだ中に入ることはできなかった。それでもかつて裏門があった場所は、だいたい見当が付いた。

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イジゲンメトロ -5

イジゲンメトロ -5

 そこは、車がやっと一台通れるくらいの、細い道だった。面した家々に昔のたたずまいはまったくなく、外観がどれもいっしょの建売住宅や、低層の集合住宅ばかりが密集して建っている。

 その中を私は、ゆっくりと歩いた。どこに向かえばいいのかは、分っていた。いや、頭で分っているのとは、ちょっと違う。あの日の記憶と照らし合わせようとしたところで、仕方がないことは明らかだったから。

 その代わり私は全神経を集

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イジゲンメトロ -6

イジゲンメトロ -6

 キイちゃんがこちらに背を向け足早に歩き出すと、私はそれを追った。

「キイちゃん、待って。病気は直ったの?」

 そのとき、浜田くんに手首をつかまれ、強引に引き留められた。

「早く追い掛けないと、キイちゃん行っちゃうよ」

 私は、慌てて言う。あの日の自分を、自ら演じている感覚だった。もたついている私たちを、キイちゃんは足を止め、待ってくれている。

「相原さん、どうしちゃったの? 誰もいない

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イジゲンメトロ -7

イジゲンメトロ -7

 浜田くんが回復すると、薄暗い中、私たちは改札の方向へと移動を始めた。

 記憶によると〝デブっちょ浜田〟は、とても気が弱かったはずだから、ここらで弱音を吐いてもおかしくはなかった。にもかかわらず、あの夏も彼は、黙って私の後を付いて来た。よっぽどキイちゃんに、思い入れがあるのだろうか。

 二人は保育園のときからの、幼なじみだと聞いていた。私がキイちゃんと仲良くなったのは三年生のとき同じクラスにな

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イジゲンメトロ -8

イジゲンメトロ -8

「いないねぇ、田代……」

 階段の影になっているところをのぞき込みながら、浜田くんが言った。そう、目の前で消えちゃったのよ、困ったことに。下の階へと続く階段を見下ろしながら、私も言う。

「この下がホームだと思うけど、真っ暗。これじゃ先に、進めないね」

 前に来たときには、ホームに灯りは点いていた。それは、間違いない。でもいまは、下方からの光はまったくなかった。完全な、真っ暗闇だ。

 と、そ

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イジゲンメトロ -9

イジゲンメトロ -9

 自殺の理由を、多嶋先生はなかなか口にしようとしなかった。でもこう見えて私、千人以上もカウンセリングしてきた実績のある、プロなの。だから、重い口を開かせる方法も、知ってるつもり。

「ねぇ先生、子供の私じゃ役不足かもしれないけど。もしよかったら、何があったか聞かせてくれない? だって先生、もう死んじゃってるんでしょ? だったらこれって、夢みたいなものじゃない。夢なら何を言っても、恥ずかしくなんてな

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イジゲンメトロ -10

イジゲンメトロ -10

『キイちゃん? どこにいるの? 突然いなくなって、びっくりしたわ……』

 私は救われた思いで、こころの中で呼び掛けた。

『ごめんね、ミズキちゃん。私はもう、そっちの世界には入れないから、ああやって影を見せるしかなかったの』

『影?』と、私は聞き返す。

『いい? 驚かないで聞いてね。いまミズキちゃんたちのいるそこはね、私のイメージの中なの』

 キイちゃんは、言い聞かせるように、ゆっくりと言

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イジゲンメトロ -11

イジゲンメトロ -11

 我に返ると、目の前でまだ、先生はすすり泣いていた。その様子を見て、私は素早く考えを巡らせる。

 確かに、先生が直接、浜田くんに謝ることのできるチャンスはいましかない。それを浜田くんが聞いていようがいまいが、先生にとっては、謝るという行為が気持ちの整理につながるはずだ。

「ねぇ先生、せっかくこうして会えたんだから、浜田くんに直接、謝ってみたら? まだ気を失ったままだけど、うとうとしながら聞いて

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イジゲンメトロ -12

イジゲンメトロ -12

 電車が闇の向こうに完全に消えてしまってから、私は浜田くん元へと戻り始めた。長くて暗い階段も、浮き立つ私の気持ちを静めることはできない。足早に上り切る手前で、またあの重い音とともに階下の明かりが消える。

 私はこころの中で、恐らくもう二度と来ることはないだろうホームの様子を、最後にもういちど思い描いた。

 浜田くんは穏やかな寝息を立てながら、まだ寝入っていた。その顔をのぞき込んだとき、別の何か

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イジゲンメトロ -エピローグ

イジゲンメトロ -エピローグ

 小学生のころの坂本美和は頭がよく、スポーツも万能で、身体も大きく、男子ですら逆らうことができないような〝目立つ存在〟だったそうだ。特に五年生になるとバレー部のエースとして大活躍し始め、周りからは女王さまのように扱われるようになった。

 そんな彼女がクラス担任であり、バレー部の顧問でもある多嶋先生に恋心を抱くようになったのは、最上級生でもない彼女を、先生がエースに抜擢してからだった。

 意を決

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