【未来予想】200年後の太陽系経済圏 【無害な空想】
今回は頭の準備運動として、人類の宇宙進出が盛んになった2200年代
(23世紀)の太陽系について、妄想全開で書き留めていきたいと思います。
地球軌道圏
人類の宇宙時代開闢を知らせた20世紀のスプートニク1号の打ち上げ以来、長らく宇宙開発は国家の威信と見栄を採算性度外視で発揚するものだった。しかし、2020~30年代にかけて米・墨・中・印・日・韓・仏、続けて南ア・ナイジェリア等の民間企業を中心とした宇宙ビジネスが勃興した。
2200年代の今日においては、観光・医療研究・運輸・電波通信網・発電・送電網・スペースデブリ回収再資源産業・大型宇宙船の建造業が主要産業として確立している。商業利用の対象である地球高度約1万km上空までは、「広域地球軌道経済圏(WEES)」と呼称され、WEES全体では約15万人が常時生活を行っている。
軌道エレベーター
WEESの経済活動を支えているのは「軌道エレベーター」である。
現在、地球上に3基が建造されている。
アフリカ連合によってケニアのナイロビ近郊ロコリに建造された「ユー・サナ」。アメリカ合衆国とブラジルを中心に旧フランス領ギアナに建造された
「ビーン・ストーク」。日本、中華連邦共和国、インド、インドネシアによってナウル共和国に建造された「ハヌマーン・プル」の3基がいずれも2070~80年代にかけて完成している。
各軌道エレベーターでは、一般的に宇宙空間とされる高度100kmから初代国際宇宙ステーション(旧ISS)があった高度400kmまでが観光客向けの高度として設定されている。常時滞在1000名を可能とする民間宇宙ホテルが数十、軒を連ねる土産物店・飲食店など観光収入は大きな経済効果を生み出しており、約40%が麓の国の税収となるため、軌道エレベーターそのものがパナマ運河やスエズ運河に匹敵する一大産業となっている。
観光だけでなく、運輸産業も大きな経済規模を誇る。それは地球外・地球内両面問わずである。
例えばマスドライバーによる、巨大コンテナの射出は海運に匹敵する貨物の大型輸送を可能にし、物流に大きな影響を与えた。
月面経済圏への輸送の実に90%以上が、軌道エレベーターからのマスドライバー射出によって賄われている。
観光エリアより高度では医療や農作物の研究開発も盛んであり、
例えば「ハヌマーン・プル」2万km地点の実験棟「あまのはしだて」では
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬開発の成功で知られる「宇宙製薬業」や、人工重力実験、低重力下における脳外科手術などが行われている。
2万kmまでは製薬会社や民間建築業者が常駐し、約2000人が「宇宙出張」を行っているが、2万㎞以上から終点3万8000㎞には主に天文学者や惑星生物学者など僅かな学術要員の場所となっている。
長さ3万8000㎞を誇る各エレベーターは、紛れもなく人類史上最大の巨大建造物となっている。
ちなみに2067年の「改訂国連宇宙条約」により、主権の及ぶ範囲は主権国家の上空1万㎞(領有空間)にまで拡大され、例えば「ハヌマーン・プル」の場合は観光客のいる第1ステーションまではナウル共和国の法律が、高度1万㎞以上は公海法が適用されることとされている。
スペースコロニー
地球と月軌道上の重力が均衡するポイント「ラグランジュ2」には、
スペースコロニーと呼ばれる人工居住区が存在している。
2145年に完成したドーナツ型コロニー「アスカルディア」は、遠心力によって人工重力を発生させており約1万人が居住している。
従来の技術では「魔法瓶」のような密閉環境での地球環境再現には、害虫の異常発生や二酸化炭素の異常蓄積など技術的課題が多かった。
しかし、2090年代に急激に進展した「ナノテクノロジーストラクチャー」による完璧な分子制御建築法により、水と大気の持続可能な循環が可能となり、大きな事故は減少した。
しかし、やはり採算性と安全性に難があり、WEESでの宇宙移民の主流にはなっていない。
高軌道エネルギープラント「ヘリオス1」
地球軌道約3万km地点には、「ヘリオス1」と呼ばれる人類史上最大の太陽光発電ハブが置かれている。無人施設で高度に自動化された当施設は、
約41万㎢の面積を誇り、日本列島よりも巨大な発電パネル群として有名である。
発電量は2760兆キロワットを誇り、月と地球の経済圏を合わせた消費電力の40%を賄う超巨大インフラ施設となっている。
その重要性から、過去4回のテロ未遂と2回の軍事占領の憂き目にあっており、第3惑星経済全体を支える面から安全性の確保が求められている。
「国際太陽エネルギー機構(ISEA)」と各国の出資下にある5つの公社がヘリオス1を維持・管理している。
月面経済圏
1969年のアポロ11号の月面着陸と一連のアポロ計画以来、人類の有人月面探査は一旦半世紀の間停止した。
そこから2030年代のアルテミス計画と十数か国による初の国際月面基地(IMS)の完成によって、民間企業による月面への経済進出は加速した。
現在では、8つの月面都市と27拠点の月面基地が存在し、そのうち「ジュール・ベルヌ市」「嫦娥市」「バズ・シティ」の3つは主権国家として独立している。
月面都市は主に溶岩チューブと呼ばれる、地殻変動によって生じた3~20㎢ほどの巨大な地下空間に建設されている。
各都市の主要産業は、それぞれ核融合発電燃料として用いられるヘリウム3の採掘、14日間にも及ぶ昼間の日照時間を利用した太陽光発電、北極付近の水資源の採掘、低重力大規模プラントによる農作物栽培である。このほか、ジュール・ベルヌ共和国では金融業が盛んであり、広域地球軌道経済圏と月面経済圏を合わせた「第3惑星経済圏(TPEZ)」の金融ハブとして機能している。
地球近辺に存在する独立国家
2210年現在の地球総人口は約50億人、TPEZ宇宙居住者は約100万人程度だ。
そして、地球上に存在する国家は241か国、対して地球以外の天体・人工天体に存在する国家は32か国である。
例えば、先述のジュール・ベルヌ共和国には「月世界連合(MU)」の本部が置かれており、宇宙国家間の通商の自由化が行われている。
宇宙国家の多くは、地球とは異なる低重力下で生活する場合が多く、筋肉量や骨密度の関係から長期の地球滞在は難しく、地球と切り離されて暮らすうちに「地球外人類」としてのアイデンティティを獲得するに至った。
彼らは低重力スポーツの交流に代表される文化交流で独自の結束を誇り、長らく地球での夏季・冬季オリンピックへの参加は消極的だった。
だが2116年のダルエスサラーム五輪で月面国家の嫦娥共和国代表が参加して以来、宇宙国家の五輪参加も進展。
2156年には夏季オリンピック・ジュールベルヌ大会が開催され、初の無重力エアレースが競技化するなど、太陽系人類の文化的統合は進んでいる。
スティーブン・ホーキング電波天文台
月の表側・ハインドクレーターに建設されたスティーブン・ホーキング電波天文台は、クレーター直径の約29㎞をそのまま活用した巨大天文台である。
21世紀初頭のハッブル宇宙望遠鏡の最大観測距離はおよそ780億光年だったが、ホーキング天文台は3500億光年までの観測が可能であり、2131年の調弦ひも理論の立証や2192年の太陽系外初の知的生命体文明の発見など、22世紀における数々の天文学的発見の立役者となった。
火星
火星より遠方の天体については、電波中継拠点を挟んでも第11世代インターネット通信の超容量通信で約2時間半のタイムラグが発生するため、第3惑星経済圏(TPEZ)との経済統合は難しいとされている。
2040年代に当時のNASAと民間企業による人類史上初の火星有人探査が成功。21世紀の実業家イーロン・マスクの意思を継いだマスク財団による入植が2070年代から始まり、2200年代現在は約1万1000人が生活している。
火星の生命体
2033年9月27日は人類史における歴史的な出来事と共に記憶されている。
地球以外で初めて生命体が発見されたのである。
アメリカの火星探査機「パーシヴィリアンス」が、2024年に火星の地質から生命活動の痕跡の可能性を発見して以来、火星における生命体の生存は懐疑派と積極支持派で多くの論争を呼んだ。
その後2037年に3か国共同探査機「マーズ・チャールズ・ダーウィン」によるサンプルリターン調査が行われた末、地球に持ち帰られた火星の地下土壌サンプルから微生物が発見。「学名:Darwinus Mars amicus pahages」と命名され、地球起源以外で初の生命体が確認される大発見となった。
テラフォーミング計画と議論
火星独自の生命体はその後の研究で、アミノ酸の塩基配列の一部が地球由来の生物と一致。地球生物と火星生物が同じ起源を持つ可能性が指摘され、「パンスペルミア説」(宇宙空間の生命拡散によって別の惑星に生命が広がったとする説)の現実性が認識された。
こうした学術上の重大意義により火星の環境保護がにわかに大きな課題となった。しかし金属鉱脈や水資源の違法開発が進むなど各国の足並みはそろっておらず、科学者は重大な懸念を表明している。
最も大きな環境破壊は、ナイジェリア・アメリカ企業が合同で進める「カール・セーガン計画」と称する火星テラフォーミング計画である。
この計画は、火星緯度上の超電導リング敷設による人工磁場発生と、六フッ化硫黄・二酸化炭素・メタンガス等の温室効果ガスの大量排出で40度近い火星気温の上昇、温暖化による永久凍土の融解と火星の海洋復活、地球からのコケ植物やミツバチの移植による野心的な環境改造計画である。
こうした火星環境の地球化によって火星固有の生態系が損なわれる、という一定の反対が存在しながらも、現在火星全体で150基を超える温室効果ガス発生プラントが稼働を始めている。
ナイジェリアの首都ラゴスにある本社前で環境活動家の大規模デモが発生したり、温室効果ガスプラントで爆破テロが発生するなど、テラフォーミング計画は大きな物議を醸しだしている。
PLUS ULTRA(より遠くの世界へ)
火星の衛星ダイモスには、深部太陽系探査の拠点として補給・電波中継の小規模基地が置かれている。
「太陽系大航海時代」を迎えた23世紀現在において、地球からはるか7800kmを数える火星でさえも人類の中継ポイントに過ぎない。
次回以降の記事では、火星以遠の天体における人類活動の設定をつらつら書いていきたいと思います。
(続)
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木星~冥王星
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