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読みもの

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cafe gにまつわる話あれこれや、全く関係のない話や、店内で読めるcafe g発行の季刊誌「季節のお便り」過去号の記事を再編集したもの、など
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記事一覧

〈読みもの〉余白

〈読みもの〉余白

 旅に出るのが好きだ。何か環境の変化があったりすると、しばらくは慣れることに精一杯だが、暮らしのリズムが定まってきて、繰り返しの日々の安定性をつまらなく思い始めると、心の流れがぎちぎちに詰まってきて、いつか破裂してしまうような気がしてくる。そこに、大きくても小さくても、旅の予定が立ち現れると、心に余白ができる。その余白のおかげで、いつもの生活をいつものようにこなしていても、不安になったり、心細くな

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〈読みもの〉店主の昔の日記(1)

〈読みもの〉店主の昔の日記(1)

2019.2.4
朝、久しぶりの雨の音で目覚める。今日の雨で随分雪も融けたことだろう。あたたかくなってきたのだ、としみじみ思う。びゅうびゅう風も吹いている。宮沢賢治の風の又三郎の一節を思い出し口ずさんでみる。この頃は布団からなかなか出られず、目覚めてから数分、布団の中で思索に耽る時間がある。そこでは毎度何かしらの疑問が生じる。疑問と言っても、ほんの些細なこと。今朝の疑問は、気と心の違い、「舐めてん

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〈読みもの〉灯火

〈読みもの〉灯火

灯火

 ある一定の期間、気がつくと同じ色のものばかり手にとってしまう、あるいは身につけているものがほとんどその色になっている、ということがよくある。その対象の色は、歳を重ねるごとに、環境が変わるごとに、行きつ戻りつしながら変わっていった。好んでいた色の遍歴を振り返ると、物心ついた頃から小学生くらいまでは、確か水色だった気がする。中高生になってからは、水色というほど淡くはないが、青というほど濃くも

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〈読みもの〉 グアテマラのクッキー

〈読みもの〉 グアテマラのクッキー

グアテマラのクッキー

 何事においても自分の目で見て、嗅いで、触って、確かめておかないと気が済まない店主は、「いつか珈琲を出す店をやるなら、コーヒーの森は見に行っておかないと」と思い、ひとりグアテマラに滞在していたことがあった。cafe gのグアテマラのクッキーは、その際に出会った“champurradas“というクッキーをお手本にしている。

 現地ではホームステイをしながら農園に行ったり語学

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〈読みもの〉はわちゃん

〈読みもの〉はわちゃん

はわちゃん

 早朝、聞き慣れない鳴き声で目を覚ました。声質からして、カラスだと思うのだが、どうにも普通ではない鳴き方をしている。「カア、カア、カア」ではなく、明らかに「ハワ、ハワ、ハワ」と言っている。いったいどうして、そんな鳴き声になってしまったのか。周りの仲間たちと比べて、あれ、自分の鳴き方ってたぶんおかしいな、と思わなかったのだろうか。それとも、練習を重ねたけれど、どうしてもこのようにしか鳴

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〈読みもの〉春雨

〈読みもの〉春雨

春雨

 雨が降っている。店はとっても暇である。と言っても忙しい日の方が珍しいくらい。それでも、今日という今日は誰も来る気配がない。書いている今は、三月半ば。窓を流れる雨滴を見つめて、この雨は春雨ということになるのかしら、とぼんやり思う。

 春雨。ああ、はるさめ。あの細長くてつるつるした透明な食べ物に、雨の名を付けた人がどこかにいたのか。なかなか素敵で、なかなか勇気があると思う。麻婆春雨とか、チ

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