〈読みもの〉はわちゃん
はわちゃん
早朝、聞き慣れない鳴き声で目を覚ました。声質からして、カラスだと思うのだが、どうにも普通ではない鳴き方をしている。「カア、カア、カア」ではなく、明らかに「ハワ、ハワ、ハワ」と言っている。いったいどうして、そんな鳴き声になってしまったのか。周りの仲間たちと比べて、あれ、自分の鳴き方ってたぶんおかしいな、と思わなかったのだろうか。それとも、練習を重ねたけれど、どうしてもこのようにしか鳴けないのか。とにかくその鳴き声は他のカラスたちとは違っていて、(あ、また来てる。)とすぐにわかる、唯一無二の鳴き声だった。
今は4月、カラスたちは繁殖期の真っ只中。カーテンを開けて、その声の主を見てみると、生まれたてというわけではなさそうだ。幼いがためにまだうまく鳴けない、というのではなく、縄張りの主張や仲間との意思伝達のために、いち大人のカラスとして、鳴いているらしかった。その鳴き声は他のカラスたちよりもいくらか大きく、自分は皆と同じように鳴けないのではなく、この鳴き方がいいからこう鳴いているのだ!と、我が道を貫いているかのようだった。ほんとうのところは、聞いてみないとわからないけれど、少なくとも私の目にはそのように見えたし、そのように聞こえた。
それから、彼(または彼女)を「はわちゃん」と勝手に命名し、その声が聞こえてくるのが楽しみになった。はわちゃんは近所のあたりを縄張りとしているらしく、外を歩いていて出会うこともあった。私ははわちゃんがちょうど近くにいるのを見つけると、お、今日もいい声で鳴いてるね、という気持ちを込めつつ何となく視線を送るようになった。カラスは賢く、人間の個体識別もある程度できるらしいので、なんかいつも目を合わせてくる変なヒトがいるな、と警戒しているかもしれない。いや、特に何とも感じていないかもしれない。
いずれにせよ、あの声が聞こえる限り、そっと見守りたいと思っている。
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