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〈読みもの〉 グアテマラのクッキー

cafe gのマガジン「読みもの」には、店にまつわる話あれこれや、全く関係のない話や、店内で読めるcafe g発行の季刊誌「季節のお便り」過去号の記事を再編集したものなどを掲載しています。

下記は、cafe g の「季節のお便り」過去号に掲載していた記事を再編集したものです。

グアテマラのクッキー

 何事においても自分の目で見て、嗅いで、触って、確かめておかないと気が済まない店主は、「いつか珈琲を出す店をやるなら、コーヒーの森は見に行っておかないと」と思い、ひとりグアテマラに滞在していたことがあった。cafe gのグアテマラのクッキーは、その際に出会った“champurradas“というクッキーをお手本にしている。

滞在時に食べていた実際のchampurradas。背景に映るバキバキの道路が懐かしい


 現地ではホームステイをしながら農園に行ったり語学学校に行ったりしていて、食事はその家の普段のご飯を食べさせてもらった。タマレスやらフリホーレスやら、見慣れない食べ物を、毎日わくわくしながら食べた。(そして、たまにお腹を下した。)
 食事が終わったあとの時間や、1日2度あるおやつの時間に、食事とは別にコーヒーと一緒に甘いパンやらクッキーやらが出てきて、それをみんなじゃぶじゃぶコーヒーに浸しながら食べるのが印象的だった。日本に帰る頃には、コーヒーを飲むならあのクッキーがなくっちゃ!と思うほど大好きな組み合わせとなり、いつか店をやる時にはこのクッキーを、と胸に秘めて帰ってきた。

 そして時は流れ、cafe gを始めるとなった時、新しい焙煎機と仲良くなることでいっぱいいっぱいだった店主は、クッキーの製造はひと足先に岩手で店を始めていた友人にお願いすることにした。実は初めはchampurradasとは別のタイプのクッキーにしようかと思ったのだが、なかなか再現が難しく、やっぱりchampurradasにしよう、と切り替えた。こんな感じあんな感じ、と記憶の中の味や現地のレシピと照らし合わせながらやり取りをして出来上がったのが、今のグアテマラのクッキーである。champurradasは実物はまん丸の形なので、そのまま提供しようかと思っていたのだが、食べる時にあまりにボロボロと落ちるので、もっと食べやすく、珈琲にも浸しやすく、と大きさや厚さの改良を重ねて落ち着いたのが今の半月型だ。 
 味わいは、いわゆるサブレと呼ばれるようなものをイメージしていただくと近いかもしれない。一度食べると、なぜだかふとまた食べたくなる不思議な魅力がある。なんて書くと、さぞ特別な材料を使っているのだろう、と思われるかもしれないが、小麦粉、卵、バター、砂糖、塩、などなど、至ってシンプルな材料しか使っていない。でも、「グアテマラで食べた、あの味」にできるだけ近づけた。ただそれだけ。

 そんなこんなで、開店当初からずっとお出ししているグアテマラのクッキー。「あのクッキーがふと食べたくなって……!」と、定期的にいらっしゃる方や、お持ち帰りで毎度たくさん買って帰られる方も多い。今では珈琲とともに、看板商品と言っても良いかもしれない。あの時、いったん休んで遠回りをして、グアテマラに行っておいてよかったと思う。

 大人は珈琲に、子どもはミルクに、じゃぶじゃぶ浸しながら。店主の思い出の味を通して、異国気分を味わい、地球の裏側のどこかにある珈琲の森と、そこに暮らす人々に思いを馳せていただけたら嬉しい。

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