リベンジラビット
「ねえ、いいだろ~?」
「いやだよ~」
「何でだよ~。
もう1回、勝負しようぜ~」
「そんなの…
僕、絶対負けるでしょ?」
「それは…
やってみないと…分からないよ。
前回もそうだったろ?」
「それはたまたまだよ。
今回はそれを踏まえてやるんでしょ?
ウサギくん、今回も…
お昼寝してくれる?」
「しない!
絶対、寝ない!
そして、圧勝する!!」
「ほら~!
じゃあ、やらない。
せっかくうさぎくんに勝って、
みんなにチヤホヤされてるのに…。
再戦なんてしたら…
やっぱりな~って言われちゃう」
「そこを頼むよ~!
あれが唯一の汚点なんだよ~!
お前、何…余裕かまして負けてんの?
調子こいて負けるの一番ハズい。
肝心な時に使えないタイプだろ、お前。
って、言われんだよ、みんなに!」
「それは自業自得でしょ?
僕に言われても…」
「別にいいじゃん!
もし、カメくんが負けても…
亀だから当然だよね…
で、世間は納得するんだから」
「それでも、いやだ!
僕はこの地道に勝ち取った金星と、
みんなの羨望の眼差しを失いたくない!」
「こんなに頭を下げて、頼んでるのに?!」
「下げてない!
むしろ偉そうだよ!」
「チキショウ!
こうなったら…
知り合いのサメに君のこと、
砂浜でイジメてもらうからな!」
「何か、色んな話が混ざってる!
そんなこと、止めて!」
「じゃあ、もう1度、戦え!」
「ぜ~ったいに、イヤだ~!
…あっ、そうだ!
良いこと思いついた!」
「何、良いことって?!」
「ウサギくんが僕に勝っても…
正直…話題にならないと思わない?」
「…言われれば…そうかも」
「だって、順当でしょ?」
「そうだな。
前回はカメくんが、
下馬評をひっくり返したから、
世間があんなに騒いだってことだからな」
「そこだよ!
だから、ウサギくんは…
絶対に勝てない相手と競争して、
勝てばいいんだよ!」
「そうか!
前回の逆パターンか!
これはイケる!
カメくん、ナイスアイデア!」
「でしょ?!
そこで僕がこんなこともあろうかと…
お呼びしてますよ…対戦相手!」
「もう来てるの?!
早くない!?
一体、誰?!」
「世界最速…
チーターくんで~す!」
「ハッハハ~!
チーターだよ~!」
「コラッ~!
走りのプロじゃねえか!!
ぶっちぎられるだろ、これ!!」
「だから、呼んだんだけど」
「いやいや、
もうちょっと僕に近い…
ネコとかキツネに…」
「そんなの誰も注目しないよ。
ウサギくん…
前回の僕らのレース思い出して…
ウサギとカメの差は?」
「そう考えると…
チーター……妥当だね…」
「はい!
そういうことで始まります…
世紀の大レース!
再起を賭けたウサギが勝つか!
それとも絶対王者チーターか!」
(カメくんが豹変した…)
「実況は不屈の逆転王カメと、
解説は…
燃えた毛根タヌキさんです」
「よろしくです」
(あのタヌキ…生きてやがった…)
「解説のタヌキさん…
この勝負…どう見ますか?」
「いや~
実力からいけば間違いなく、
チーター勝利なんですけど…
なにせ、相手はあのウサギです。
昔話界隈では曲者と呼ばれてますから、
このレースも…
何かしてくるんじゃないですか?」
「やはりそうですか!
これは見逃せませんね!」
「チ~タ~応援に来たわよ~♪」
「がんば~って~♪」
「こっち見て~チ~タ~♪」
「ハッハハ~!
みんな~ありがと~!」
「キャーーーー!」
「キャーーーー!」
「キャーーーー!」
「チーター大人気ですね~!
ファンから黄色い声援が飛んでます!」
「チーターくんはフォロワー数1億の、
インフルエンサーですからね。
カッコいい動物ランキングでも、
彼は常に上位をキープしてます」
「人気も実力も申し分なし!
対するウサギは…」
「ウサギは…ちょっと待って下さいね。
え~と…個人SNSのフォロワー数は…
5ですね」
「5ですか?」
「はい。
恐らく家族と友人でしょう」
「さあ、この圧倒的不利な状況で、
ウサギはどうやって戦うのか!
乞うご期待!」
(カメの奴~好き勝手言いやがって~。
あいつのせいで、
完全にアウェイじゃねえか。
しかし…この勝負…僕に分がある)
「ハッハハ~!
ウサギく~ん!
今日は正々堂々と勝負しよう!
ちなみに君は…
僕が短距離は速いけど…
山登り…しかも持久走には弱い…
そう思ってないかい?」
「ギクッ!!」
「ハッハハ~!
君の考えは間違ってないよ~!
その通り、僕はスタミナがない。
君は対戦相手が僕と知って、
慌てたふりをしてたみたいだけど…
内心…これはイケる…
そう思ったんじゃないの?」
「ギクッギクッ!」
「頂上までは約500メートル。
僕が全速力で走れる、
限界ギリギリの距離。
でもここはいつもの平地じゃない。
傾斜20度の登り…。
君…勝ったと思ってるよね?」
「……ニヤリ」
「でも…僕だって、バカじゃない。
イメージトレーニングはしてきたさ」
「なに?!」
「僕が全力で走ると思ってる?
そんなことしたら…
僕は山の中腹で、
スタミナ切れで動けなくなる。
ちょっと考えれば…誰でもそう思う」
「まさか…」
「だから僕はこの山を…
半分の力で走る。
スピードは半分…
だけど…それで充分、君に勝てる。
最後までそのスピードを保てば終始、
君の背中を見ることなく、
僕が勝つってことさ!」
「ク、クソッ!」
「ウサギくん、悪いね。
僕は人気者なんだ。
たくさんのファンを、
悲しませるわけにはいかない。
だから…勝たせてもらうよ!」
「チ、チクショウ!!」
「では、両者スタートラインに…
………
オンユアマーク…
………
セット…」
バンッ!!
「おっと、両者キレイなスタート…
ちょっと待って下さい!
何と、ウサギがぁ!!」
「ちょっと変ですよ!!
あれは飛ばし過ぎです!!
あれではウサギの方が先に、
スタミナ切れで動けなくなります!」
「ですよね!?
ウサギが暴走してます!!
何を考えてるんでしょうか!?」
(やるしかねえんだよ!
結果がわかりきった勝負でも…
逃げ出すわけにはいかないんだ~!)
「これは誰も予想してない展開です!
一方のチーターは、
若干流し気味に一定のリズムで、
坂道を登って行きます!」
「貫禄ですね。
恐らくですがこのままだと…
5合目くらいで追い抜くでしょう」
「果たしてこのウサギの奇行に…
何か意味はあるのか!?」
(そんなの……
あるに決まってるだろ!!)
ウサギは分かれ道で、
急に立ち止まった。
そしてお約束の…
順路の立て看板の…方向を変えた。
「おっと、でた~!!
ウサギの狙いはこれだった!!」
「やることが、えげつないですね。
レースの順路は頂上までの最短ルート。
ですが、あの変更した先は、
ハイキングコースです。
最短コースの3倍の距離です。
さすがウサギ…やることがゲスい!」
「おっと、そうとは知らずにチーターが、
順路の看板を見て…
ハイキングコースに入った~!」
「これは決定的です。
この状況では…
チーターが先に着くことは、
まず不可能です」
「まさか…こんな手を使ってくるとは!
ウサギの執念…恐るべし!」
(勝てばいいんだよ、勝てば!
勝たなければ意味がない!
僕は前の戦いでそれを学んだ!
後から何と言われようとも…
勝って、歴史に名を残すんだ!!)
「ウサギはスタミナ切れで歩いてます。
ですが現在、7合目。
一方のチーターは…
マイペースに…写真撮ってますね」
「自撮りしてますよ。
あと峠の茶店に…寄りましたね。
お店の子と…記念撮影。
何でしょう?
完全に観光してますけど…」
「どうしたチーター?!
勝負を捨てたのか!?
そんなことを言ってるうちに…
ウサギが重い足取りで頂上付近へ!」
「顔が真っ青ですけど…
大丈夫でしょうか?
おっと、チーターは…
どうやら松茸を見つけたようです。
嬉しそうですね~」
「あっ!
ここでウサギが…
ゴォォォォーーール!!!
ついにこの時が…
ウサギの長年の祈願が、
今この瞬間に叶いました!!
世界最速王決定戦…
勝者はなんと…ウサギーーーー!!!」
頂上。
ゆっくり上がってきたチーター。
「やあ、ウサギくん」
「………」
「君が何かしてくるのは読んでいた。
でもまさか…
こんな古典的な手を使ってくるとは…
見事にやられたよ…僕の完敗だ」
「………」
「でも良かった。
この勝負…
僕には何の徳にもならないから、
断るつもりだった。
でも今は参加して良かったと思ってる」
「?」
「君が順路を変更してくれて…
本当に良かった」
「……良かった?」
「今日、僕が…
SNSにアップした写真が、
世界中で大反響!
フォロワーも一気に200万増えたよ!
本当にありがとう!」
「な、なんだと!!」
「じゃあ、僕はこのまま、
ファンと一緒に残念会に行くから。
また機会があれば、
呼んでくれたまえ~!
ハッハハ~!」
「チ~タ~残念~」
「私が慰めてあげる~」
「チ~タ~ドンマ~イ」
「………
こういうのを…
………
試合に勝って…
勝負に負けたって…
言うんだろうな」
「おっと!
ウサギのSNSが大炎上中!!
これは波乱の幕開けだ~!!」