昔話なお宿　～お夜食～

前回はこちら。 

古めかしい老舗旅館に、
泊まりに来た男性。
 
宿の独特なサービスに、
戸惑うことばかり。
 
果たして今回は…。 

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本館から、
お部屋に戻ろうとしている男性。
 
「あ～、お湯も料理も最高～。
 
　料理は思った通りのサメ御膳ごぜん。
 
　サメのムニエルに、
　サメの煮付け。
 
　フカヒレスープは、
　今までで一番、美味かった！
 
　そうだ、あのはんぺん！
 
　手作りって言ってたけど、
　あれは絶品だったなあ～。
 
　まさか庭のサメが、
　あんなに美味しくなるなんて、
　思いもしなかったけど…。
 
　しかし…人間って凄いなあ。
 
　こんなに真っ暗闇でも、
　３回目ともなると、
　平常心でサメの池を飛び越えるんだから」
 
サメの池を越え、
部屋に戻った男性。
 
部屋にはすでに、
布団が敷しいてあった。
 
「女将だよね？…
　一体、あの人…
　ここ何往復してるんだ？
　あれ、何か置いてあるぞ」
 
テーブルの上に、
布を被かぶった何かと書き置きがあった。
 
「女将からだ」
 
【よろしかったらお使い下さい】
 
布をめくると中には、
美味しそうなおにぎりが。
 
「これは夜食と、
　解釈かいしゃくしていいのか？
　でも、お使い●●●下さいって、
　書いてあったぞ？…まさか…」
 
♪おむすびころりん　スットントン
♪おむすびころりん　スットントン
 
庭から陽気な声がしてきた。
 
「やっぱりか…。
　何かノリノリで…
　すっごく楽しそうなんだけど」
 
♪おむすびころりん　スットントン
♪おむすびころりん　スットントン
 
「でも…別に…
　行かなくても、いいよね？
　これ自由参加でしょ…」
 
♪おむすびころりん　スットントン
♪おきゃくのさいふは　スッカラカン
 
「？！
 
　え？！
　おいっ！！
 
　あっ！！
　財布さいふの中身が葉っぱに！！
 
　ちょっと待って！！
　そこまでする～！！」
 
男性はおにぎりを持って、
声のする方へ行ってみた。
 
♪おむすびころりん　ヌスットントン
♪おきゃくのさいふは　スッカラカン
 
「あの～、
　何やってるんですか、女将。
　また新たに穴掘ったんですか？」
 
穴の中で、
陽気に歌っている女将。
 
「あら、お客様。
　こんな夜更よふけにどうなさいました？」
「いや、あなたが仕組んだんでしょ？
　この茶番」
 
「いえ、私はただお夜食が欲しくて、
　ここで歌っておりました」
「これ、女将用のおにぎりなんですか？
　僕のじゃなくて？」
 
「お客様、
　わざわざご親切に持ってきて頂いて、
　ありがとうございます。
　さあ、こちらへ」
 
おにぎりを、
穴の中の女将に渡す男性。
 
「私わたくしこれが２回目の食事でして、
　何分なにぶん忙しいものですから」
「え？
　女将こんな時間まで、
　食事も取らずに働いていたんですか？
 
　いくら仕事とはいえ、
　無理しないで下さい。
 
　体壊こわしますよ」
 
「お客様は本当にお優しい方で。
　お気遣きづかい痛いたみ入ります。
　そんなお客様にひとつご忠告がございます」
「何です？」
 
♪おきゃくのさいふは　スッカラカン
♪おきゃくはころんで　スッコロリン
 
「そこの足場は少々危険かと…」
「え？！」
 
ズルッ！
ズッドーーーン！！
 
男性は別の穴に落ちた。
 
「ちょ、ちょっと！
　僕も落ちましたけど？！
　どうするんですか、これ？！
　二人共落ちたら、
　誰が助けてくれるんです？！」
 
見上げるとそこには、
さっきまで穴の中にいたはずの、
女将の姿が。
 
「あれ？女将いつの間に？
　これは何の余興よきょうですか？
　出して下さいよ」
 
「私わたくしは女将おかみではありません。
　女神めかみです」
「へぇ？」
 
「正確にはトイレの女神めかみです」
「僕にはもう訳がわかりません。
　全くの未体験ゾーンで」
 
「旅のお方。
　あなたが穴に落としたのは、
　この金のおにぎりですか？
　それともただの鮫さめおにぎりですか？」
「ツッコミどころが大渋滞！
 
　中身がサメって、
　サメへの拘こだわりが強い！
 
　金のおにぎりって何ですか！
　斧おのじゃあるまいし！
 
　お渡ししたのはサメ…
　サメおにぎりです！」
 
「あなたは…
　哀あわれ正直者ですね」
「何か聞いたことある！
　昔のアニメのエンディングが、
　そんなタイトル！」
 
「そんな正直者のあたなには、
　そこで拾ったクレジットカードと、
　現金を差し上げましょう」
「それ僕のです！
　元から僕の持ち物です！」
 
「今すぐ、交番に届けて下さいね」
「だから僕のですって！
　何で自分のお金を、
　交番に届けるんですか！」
 
「いえ、正直者のようなので」
「意味がわかりません！」
 
「あっ！
　明日の朝食の準備もしないと」
「まさか、アニメのエンディング曲、
　頭で再生させてたら、
　ハムとソーセージが出てきて、
　思い出したとか？」
 
「お客様、よくご存知で」
「流れでね！」
 
「それでは私わたくし、所要がございますので、
　これで失礼します」
「ちょっと待って！
　ここから出して下さいよ！」
 
「失礼しました。
　少々お待ちを」
 
すると男性の頭上に、
銀色の細いロープが垂たれてきました。
 
「こんな細いロープ、
　切れませんか？」
「ご安心下さい。
　人工タンパク質素材クモノスQMONOSですので、
　優すぐれた耐久性たいきゅうせいと伸縮性しんしゅくせいがありますから」
 
「蜘蛛くもの糸かい！」
 
つづく。

この記事はフィクションです。
 実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。