節分ってこんなん?
朝食を食べているお父さん。
食事中、スマホを見ている。
(今日は節分かぁ…
しかし、日本も変わったねえ。
昔って…
今のような問題あったのかなあ。
鬼のなり手不足とか…
鬼が可哀相だとか…。
これが多様性なんだろうけど…
鬼って…想像上の生き物だよね?
神様と同じで…
人によって捉え方が違うんだなぁ。
あれ、何だっけ?
秋田の風習…
………なまはげ!
あれもすっかり、様変わりしてたなぁ。
鬼が家に来て…
悩みを聞いてくれたり、
勉強を教えてくれるって…。
そうなると鬼じゃなくてもよくない?
近所のお兄さんでいいよね?
でも、伝統だからなんだろうなぁ…
うちは子どもが怖がるから来ないで…
とか、言われると…
鬼も変わらざるを得ないんだなぁ…。
きっとこれから…
今の形が当たり前に、
なっていくんだろうなあ)
朝食を食べ終えたお父さん。
食器を片付けてリビングへ。
「うわっ!!
ビックリした!!」
「………」
「ちょっと、ママ!!
これ、どういうこと!?
ていうか、この人たち誰?!」
「………」
「ママ!!」
「はっ…
……ああ、パパ」
「ママ、大丈夫?
これ一体、どういう状況?
この人たちは何者?」
「なんかね…
朝…節分の準備を、
マーくんとしてたの。
豆を準備してたらマーくんが、
福は内~って…
豆まき始めちゃって…
そしたら急に玄関から…
この人たちがゾロゾロと」
「え?!
もしかしてこの人たちって…
あの…
槍を持ってる人…
釣竿持ってる人…
琵琶を持ってる人…
大きな袋持ってる人…
あれってまさか!」
「そうよ…そのまさかよ!」
「新しい戦隊モノの人たち!」
「何でよ!
槍以外は武器にならないでしょ?!
あなた知らないの!?
あれどう見たって、七福神でしょ!!」
「ああ~あれが七福神かぁ~。
…………で?」
「で、じゃないわよ!
それがうちにいるのよ!」
「何で?」
「私もパパと立場は一緒!
玄関開けたら何も言わずに、
ゾロゾロ上がってきたんだから!」
「じゃあ…不法侵入だし…警察?」
「それは待って!
それは私も考えた。
でも、よ~く考えて。
あれは神様よ…
しかも福の神。
そんなことしたら、
どうなると思う?」
「まさか…
僕は一躍、街のヒーロー!」
「戦隊モノから離れて!
違うわよ!
バチが当たるんじゃないのって話!」
「またまた~。
どうせ近所の、
コスプレーヤーじゃないの?」
「違うわ。
私さっき…
スマホの懸賞で、
ア◯ゾンギフト券…1万円当たったのよ!」
「何だって!
あんな、絶対に当たらないと言われてる、
懸賞で1万円も!!」
「そうよ。
あと…ゲームアプリ登録したら…
PS5も当たったの!」
「本当に!!
あんなの夜店の景品と、
同じだと思ってたのに!!」
「今日はどのポイ活サイトも、
全部、1等しか当たらない…
これはまさに…神の力!」
「ママ…何としても、
このまましばらく居てもらおう!」
「ええ!」
「あれ?
ところで…マーくん、どこ?」
「あそこ」
「ん?
どこ?」
「ほら。
あの布袋様の袋…」
「ああ!
マーくん、袋の中に入っちゃって…
大丈夫なの……ん?
何か、マーくん様子が変じゃない?
目を閉じて…スンって顔してる。
あれは何が起きてるの?」
「よく分からないけど、
今、スマホで調べたら、
あの袋の中には人の感謝の気持ちとか、
精神的な宝が入ってるんだって。
だからマーくん…
悟りでも開いたんじゃない?」
「小学校1年生で?!」
「たぶん…」
「まあ…いいか。
危害を加える感じもないし、
本当に神様っぽい…
あれ?
でも、七福神って…
7人じゃないの?」
「当たり前じゃない」
「でも…9人いない?」
「………いる!!
パパ、9人いる!!
気付かなかった!!」
「時代の流れで増えた?」
「んなわけ、あるか!
え?!
あれが大黒様で弁天様…
寿老人に福禄寿…
恵比寿様に毘沙門天に布袋様。
あの2人は……何?!」
「詳しいママが分からないなら、
僕には分からないよ!」
「ちょっと待って!
パパ…よく見て…
あの2人…頭に角…
生えてない?」
「ツノ?
……ホントだ!!
とんがりコーンかと思ってた!」
「そんなヤツいるか!
って、ことは…よ。
あれって……鬼じゃない?」
「鬼?
あの桃太郎とかに出てくる?」
「そうか!
マーくん言ってた!
福は内~鬼も内~って!」
「それだ!!
だから神様と鬼がうちのリビングに…
って、あるか~い!!
普通じゃないよ、これ!!」
「そう?
子どもの願いが、
叶った的な感じじゃない?」
「ママはこの状況を、
すんなり受け入れてるね」
「だって迷惑かかってないし、
むしろ幸運が舞い込んでるから、
私はウィルカム派よ」
「ママは前向きだなぁ。
でもこの人たち…
すっかりうちに馴染んでない?」
「そうなの。
さっきからかるた取りとか、
コマ回しとか昔の遊びで、
ワイワイしてるの」
「今度は目隠しして、
福笑いとか始めたよ」
「楽しそうね。
お正月みたい」
「弁天様!
そこじゃないよ!
福笑いの目が、
とんでもないところにいってるよ!」
「ププッ!
目、離れすぎ~!」
「ダメだよ、笑っちゃ!
あれ、毘沙門天…
こっそり…目の位置を戻して…
顔を整えて…上手上手…って、
何、その優しい気遣い!
毘沙門天って紳士キャラだったの?」
「ブサイクな顔にならないように、
配慮してくれたんじゃない?」
「何だろう…毘沙門天が、
急にイタリア人に見えてきたよ」
「あれ?
それって…うちで用意した豆。
何、始めるの?
恵比寿様が箸を全員に配って…
ああ~豆つかみゲーム!
誰が一番多くの豆を取れるか競うのね。
面白そう!」
「あれ、いつの間にか、
マーくんが袋から出てきて、
箸を受け取ってる」
「パパ。
私たちも混ぜてもらいましょう」
「僕も?!」
「ほら、一緒に。
私たちもお願いしま~す」
恵比寿様から箸を受け取る2人。
合図とともにみんな一斉に、
中央の豆を箸で掴みに行く。
どんどん各々の、
手元の皿に運ばれる豆。
親子も夢中になって豆をつまむ。
パシッ
コロコロコロ~
パシッ
コロコロコロ~
ひとりだけ…
豆を上手く掴めない者がいた。
赤鬼だった。
何度やっても…転がる豆。
何度も…
何度も掴んでも…
豆はスルリと抜けてテーブルへ。
そして…
その転がった豆を指でつまんで、
中央に戻す…青鬼。
そして赤鬼はまた挑戦する。
そして転がった豆を戻す青鬼。
赤鬼は自分の不甲斐なさに、
目に涙を浮かべている。
その背中をさすりながら支える青鬼。
いつしかみんな…
2人に釘付けになっていた。
「ガンバレ~」
「頑張って~」
「できるぞ~君ならできる~」
神様たちはみんな手拍子で、
赤鬼を鼓舞した。
そしてついに…
赤鬼はつかんだ一粒を皿に置いた。
目を真っ赤に腫らした赤鬼と、
涙でクシャクシャの青鬼は、
しっかりと抱き合い喜びを分かち合った。
「よかったね~おにさん」
「もう~感動よ~」
「ああ…いいもの見せてもらった…
………
………
でも、これって何?
泣いた赤鬼?」
おしまい。