かじや姫
昔々…
でもない…
あるところに…
おじいさんとおばあさんに、
大事に育てられた姫がいました。
姫はすくすくと育ち…
それは美しい女性に成長しました。
でも少々、
意地悪な性格が災いし、
よく炎上することから巷では、
かじや姫と呼ばれていました。
そして今日も、
噂を聞きつけた求婚者が、
屋敷に押し寄せてきました。
その長蛇の列を眺めながら、
かじや姫は思いました。
(私はそんな軽い女じゃなくてよ。
見ず知らずの人間が、
気安く私に話しかけないでくれる?
それに…
結婚して下さい。
僕にみそ汁を作って。
って、何?
手土産も何もなし?!
ありえないんですけど?!
かといって茶菓子程度で、
私がなびくとか思ってないわよね?!)
「これは地元の茶菓子です~」
(いたわ!
今日もまた!
私はあなたのご近所さん?!
この間、家族で旅行に行ってきまして、
つまらないものですがよろしかったら…
じゃないわよ!!
貰ったものは食べるけど…
食べるんだけどね。
食べるけどあんた…
なぜそこに座ってんの?
え?!
私のお茶待ち?
私があなたをもてなすの?
どういうこと?!
はいはい、次々!!
うわ~結構いるわ~!
何で減らないのよ~!!
あの…
紙袋持ってるのは、
あれほとんどお土産組よね?
かといって、
高いものをプレゼントすれば、
余裕って思ってる輩も鼻につくけどね)
「これ…いいっしょ?
かじや姫に似合うんじゃねえ?
しかも結構、高かったんだぜ~」
(でた!
マナー違反。
初対面で何?
もう私と付き合ってる体で話してない?
しかも買ってきてやった感が、
全身からにじみ出てるわよ、あんた!
しかも出た!
プラダのサテンバッグ!
どうせあれでしょ?
女性が貰って喜ぶ
プレゼントランキングとか見て、
これ選んだでしょ?
私に似合うとかじゃなく!
私はこう見えて…
高級志向じゃないの。
庶民派なの…。
でも高級バッグも悪くはないわよ。
嫌って言ってるわけじゃないの。
でも私が欲しいのは、
日常使いができるもの…。
そう…
ぱっと見は高級っぽく見えて…
でも可愛らしいデザインで飽きがこず…
A4サイズのファイルがスッと入って、
中に整理ができる便利な収納があるもの。
そして肩から下げても疲れない…。
費用は2万円前後…。
そういうのをご所望なの?
わかる?
ダメだわ。
次から次に人が押し寄せてくる。
何とかしないと…
そうだ…あれよ!)
1時間後。
(やっと人が減ったわ…。
思った通り…
緊急開催!
かじや姫ライブ・コンサート 炎上上等!
大成功だったわ!
スパチャマラソンは効果絶大だわ!
お金が尽きたものから、
消えていったわ…。
でも残ったのは、
金で全て解決してきたって猛者…。
誰とも付き合わないって言えば、
簡単なんだけど…貢物は欲しいし…。
あと炎上も面倒だし、
情報開示や名誉毀損の裁判とか…。
疲れるし…。
残ったのは…2人?
どうしようかな~。
かぐや姫みたいに、
この世に存在しないものを、
取ってくるよう提案してみる?
ダメダメ。
あの女、存在しないもの要求しやがった!
って、私の方がネットで叩かれるわ。
あ~どうしよう?
何かいい手はないかしら~。
………。
そうだ!
あれよ!
あれがいいわ!!)
「お呼びですか、かじや姫様」
「何なりとお申し付け下さい、かじや姫様。
あなたの願いは何でも、
叶えて差し上げましょう」
「私もお望みとあらば、
ここに東京タワーを、
建てて差し上げましょう」
「では私はスカイツリーを!」
「なにを!
じゃあ、私は上海タワー!」
「オレはブルジュハリファ~!
はい!
オレの勝ち~!」
「じゃ、じゃあ、エベレスト~!」
「お前、それ山だろ!」
「ここにエベレスト持ってくる~!
土をたくさん盛って!」
「バカじゃねえの!!」
「バカって言う奴がバカだって、
父上言ってた~!」
「ち・ち・う・え?!
お坊っちゃんはパパの小遣いがないと、
プロポーズも出来ないのかい?!」
「何を~!
お前だって、
アコギな商売で金儲けしてるの、
知ってんだぞ!」
「屋台のひよこ売りの、
どこがアコギだってんだ!」
「ふたりとも、やめて~~!!」
「………」
「………」
「いいですか?
お二人にはあるものを、
持ってきてもらいます」
「あるもの?」 「あるもの?」
「それを無事に持ってこれた方と、
私は結ばれても良いと思っています」
「それは?!」 「どんな?!」
「では、
まずそちらの方…」
「はい」
「あなたは、
名古屋へ行って下さい」
「名古屋?」
「そして…
名物スイーツぴよりんをくずさず、
ここまで持ってきて下さい」
「え?!
それって噂の…
メチャクチャ柔らかいというお菓子?!」
「あと、
そちらの方は東京へ」
「東京?!」
「銀座高島屋の、
クリスマスケーキをここまで。
もちろん…くずさずに」
「それ!
オレもう絶対無理じゃねえ?!
それに東京から奈良って、
不可能じゃん!」
「頼みましたよ」
結果……
「…………」
「…………」