総理いっぱいいっぱい
首相公邸。
「総理、お疲れ様です。
今日は、どうなさいますか?」
「ちょっと疲れたんだ。
食事はあとでもらうから、
少し部屋で休ませてくれ」
「かしこまりました」
私室。
ドサッ!
「はあ~疲れた…。
……。
ほんと何なんだ、
あの野次!
増税カツラって!
これ地毛だし!
そういう風に見えるだけだし!
そもそもネットで流行ってるからって、
議員が議会で言うかね?
まあ、言ってもいいよ!
でも、ちょっと考えろよ!
それが意見か悪口なのか!
あいつはあの後、
たっぷり説教食らってるから、
いいけどさ。
言われた私の心配は?
私の心のケアは?
誰もしてくれないの?
何だよ、
みんなして、ドンマイセルフって!
自分で頑張れってか!
これでも繊細なんだよ、私は!
どうせあれが火付け役になって、
ネットで大喜利大会でしょ。
私のあだ名選手権みたいなさ。
ほんと日本の、
こういうノリがキライ!
誰も好きで増税してるわけじゃないよ。
自分の時にしたい人いないでしょ?
前任者達が先延ばしにしたからでしょ。
私がやらざるを得なくなったのは!
ズルくない?!
全部、私に押し付けて!
首相に推薦するからやってとか言うけど、
やったとたんに全員、知らん顔!
関係各所や経団連も、
自分のことしか考えてないんだも!
ねえ、誰かさ~
明日から代わってよ~国会審議。
絶対、減税の話でるからさ~。
民雄、最近行ってないでしょ国会。
代わりに行ってよ~」
「やだよ!
このタイミングで!
今が一番、世論も支持率も、
最悪の状態でしょ!
行くわけないでしょ!」
「待って!
最初、みんなで持ち回りって、
話だったよね。
何でいつの間に、
自由登院になったの?
大変な時は、
お互い助け合おうって誓ったよね?」
「それは昔の話でしょ?」
「はあ?!
昭雄、何だよ昔って。
今の話をしてるんだけど」
「そんなのうちらの口約束でしょ?
何の拘束力もないってこと」
「おい!
じゃあ、言わせてもらうけど、
私もその条件に入ってるよね。
だったら私にも、
国会に出ない権利はあるし!」
「まあまあまあまあ」
「何だよ、俊雄。
また、良い人ぶって」
「どうしたの~。
冷静カツラって呼ばれた君が…」
「言われてないよ!
何だよ、冷静カツラって!
パスタみたいな言い方して!
それも悪口だよ!」
「でもさ…
一応、文雄はオリジナルでしょ?
うちらは所詮、影武者だから」
「なら尚更、
オリジナルのピンチこそ、
出番じゃないの?!」
「え~面倒くさそうじゃない。
あいつらの相手って」
「何、言ってんだよ!
自分達も何回か経験しただろ。
【あとで確認します】
【承知の事実はありません】
【ただいま検討中です】
これでいいんだよ!」
「だって今回は、
誹謗中傷でしょ?」
「それはオリジナルの私のことであって、
君らのことじゃないんだよ」
「あっ、そうか!
顔は一緒でも、
うちらのことじゃないんだ。
ならいっか!」
「じゃあ、俊雄で決まりな!
増税マープ…
よっ、マープ増税法!」
「……
……ちょっと待って。
いま…すっごく傷ついた…。
ダメだ…これは行けない…。
誰か代わって…」
「いや、無理無理!!」
「私だって嫌だよ!!」
「自分が駄目なこと、
人に押し付けるなよ!!」
首相公邸では、
夜な夜なこんなことが、
起きているとか…いないとか…。
お疲れ様でした。