博士と助手の君の名はゲーム
年老いた博士。
それを支えてきた、
ヒューマノイドの助手。
テラスで日差しを浴びながら、
博士の背中を擦っている助手。
「朝晩は、少し過ごしやすくなったのう」
「そうですね。
寒暖の差がない方が、
私たちにもいいことなので」
「そう言えばお前も、
よく気温を気にしておるのう」
「はい。
関節などの機械的な部分は、
温度によって動きに影響がでます。
だから朝晩の冷え込みには、
注意が必要なんです」
「人に似せて造られたヒューマノイドが、
悩みまで人に似るとは、
何とも皮肉な話じゃのう。
そういうわしも、
温度差でこんなに足腰にくるとは…
老いてみないとわからんなあ。
おかげですっかり出不精じゃあ」
「それは仕方がないことかと。
お体、優先でいいと思います」
「体が優先…
そうじゃろうか?
最近は命よりも思い出の方が、
価値が重いように感じるんじゃ。
生きてるうちにどれだけ、
有意義な体験をしたか…
語れる大切な思い出の数こそ人の幸せ…
人生の豊かさなのではないかと」
「私からすれば、どちらも大切です」
「そうじゃな。
全ては両方あってこそじゃな。
さて今日は何をしようかのう。
研究書類の整理も残っているが、
それは来週までで、急がんし…」
「それならば博士。
また私とゲームをしませんか?」
「お前は、
本当にゲームが好きじゃのう」
「博士とゲームをすることが、
私にとって大切なことなのです」
「そうかそうか。
で、今回はどんなゲームを、
考えてきたんじゃ?」
「今回は久しぶりに、
君の名はゲームをしたいのですが?」
「お~!懐かしいのう。
それはわしが考案したやつじゃな」
「はい。
私の性能チェックのために、
博士が考えてくれたゲームです。
博士に勝つのに、
苦労したゲームのひとつです」
「じゃが、それも1ヶ月じゃったろ。
お前はコツを掴むのが、
他のヒューマノイドより長けとった」
「ありがとうございます博士」
「もうしばらくぶりじゃから、
何かとても新鮮じゃの」
「はい。私も楽しみです。
先行は博士で結構です。
7回勝負でいきましょう」
「覚えておるぞ。
では行くぞ!」
「はい!」
「湯豆腐に舌鼓をうつ、田中春菜!」
「違います。
名古屋コーチン親子丼を食べる、武豊」
「こっちも違うぞ…では…
鰹のたたきをたいらげる、中村弥生!」
「石巻焼きそばをがっつく、古川穂波!」
「まだか…み、み、
ミカンを皮ごと食べる、朝倉南!」
「ミレービスケットをひとりで食べる、鎌井田清助」
「け、毛ガニを2杯食べた、十勝太!」
「白えび刺身丼をかき込む、東堂平蔵!」
「うなぎのきんし丼を注文する、高野由里!」
「うな重の特上を注文する、
ぼく利右衛門」
「ブッ…ものまねはズルイぞ!
笑かしに来おって!」
「博士。
笑っても負けなの、お忘れですか?」
「わしは、まだ笑っとらんぞ…
利右衛門…ん、ん?
おい!
んで、終わっとるではないか!
それに利右衛門って」
「あっ!
私としたことが。
博士を笑わせようとするあまり、
注意を怠りました。
私の負けですね」
「お前にしては珍しいミスじゃのう。
わしも久々に勝ったぞ。
ちなみにそっちの当たりは何じゃった?」
「今回は、青森県つがる市牛潟町
大田光でした」
「それはド定番だからないだろうと、
思っとったが…裏を書いてきたな~」
「博士は何でした?」
「岩手県北上市、
北上江釣子じゃ」
「博士。
それは地名じゃありませんよ」
「はぁ?!
なんじゃと?」
「それは正確に言いますと、
インターチェンジの名称です。
正式には北上市上江釣子もしくは、
北上市下江釣子が、
地名としては正しいです」
「そうか~。
言われてみてば…今思い出した…。
わしも、すっかり老いたのう」
「では今回は、
引き分けということにしましょう」
「それがええの」
「このゲーム、【君の名は】
要するに人名のような地名しりとりですが、
初めてやった時は、
本当に私には難しくて、
全然できませんでした」
「頭にその都道府県の、
名産品を入れるという条件に、
えらい苦戦してたのを覚えとるよ」
「今ではきちんと、
データベースが構築されてますが、
あの頃は全てを検索データに、
頼っていましたので、
誤情報に惑わされてました。
白い恋人、桔梗信玄餅、ちんすこうも、
全部、東京のお菓子だと思ってました。
売ってるので」
「それは、まあ間違いでもないが、
当たりではないのう」
「さて、博士。
お茶にしましょうか」
「おう、もうそんな時間か。
今日の茶菓子は何じゃ?」
「はい。
お中元で頂いたものがありまして、
【東京名菓 ぽんぽこおやじ】
【滋賀銘菓 かいつぶり】
【名菓 因幡の白うさぎ】
【名菓 どじょう掬いまんじゅう】
【名菓 鎌倉ポッポ】
博士はどれがよろしいですか?」
「聞いとるだけで、
口の中の水分が無くなりそうじゃの」
「お茶はオミジャ茶を用意しました」
「なるほど。
人生の味がするというお茶じゃの。
今日はどんな味がするか…楽しみじゃな」
「はい」
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