酒乱のBANだ!
私は入社2年目。
私は姉のように慕っている
憧れの高橋先輩がいるこの会社に入社。
もう2年目なのに…
まだ私は会社に馴染めてない。
特に感じるのは男性社員との距離。
そして私には、
思い当たる節があった。
それは去年の新人歓迎会。
うちは小さなベンチャー企業で、
その年の新規採用は私だけ。
ホテルの一角の、
パーティースペースを貸し切って、
歓迎会は行われた。
社長の祝辞と私の所信表明が、
滞りなく終わり乾杯の音頭…。
すると…空気は一変!!
ビール瓶を持った男性陣が、
慌ただしく移動を始めた。
みんな社長の前に列をなし順番にお酌。
(うちって…体育会系なんだ…)
私もホールフタッフにビールをもらい、
その列の最後に並ぶ。
男性陣はビールを注ぎ会釈すると、
どんどん入れ替わり去っていった。
(まあ社長だし、
一社員が話し込むこともないのか)
そんなことを考えてるうちに私の番に。
「社長どうぞ」
「後藤さん、ありがとう。
頑張ってね。期待してるよ」
社長はもうすでに赤ら顔。
温厚な顔立ちだが、
さらに表情が緩んで、
仏様のような表情を浮かべていた。
(こういうゆるキャラいそう…)
社長との会話もそこそこに、
自分の席に戻ろうとすると、
さっきの男性陣が、
私の席で新たな人集りになっていた。
(え?!…私待ち?
すいません…)
そそくさと私は自分の席に座った。
私は…
ただ座っただけだった。
誰も私に声など掛けてこない。
それは同テーブルにいる、
高橋舞先輩目当ての烏合の衆だった。
高橋先輩の前には、
同期2名が立ちはだかり、
必死に接触を阻止していた。
「一杯、注ぎに来ただけだって~」
「じゃあ、私に注いでよ。
舞に飲ませようったって、
そうはいかないんだからね!」
「そんなつもりじゃないよ~。
ほら~いつも高橋さんには、
お世話になってるからさ~
感謝の気持ちだって~」
「さっさと自分の席に戻れ!
どうせ舞を酔わせて、
去年みたいになること、
期待してるんでしょ!」
どうやらその行列は高橋先輩に、
お酌をしようとする群れのようだった。
去年、高橋先輩は、
何か…やらかしたらしい。
その攻防を横目にちびちびと、
赤ワインを飲んでる高橋先輩。
「高橋先輩。
ちょっといいですか?」
「あら~後藤ちゃ~ん。
飲んでる~?」
ほろ酔いの高橋先輩。
「何か凄いことになってますけど、
これって何ですか?」
「私もね~、よ~くわからないの~。
みんなが言うにはね~ぇ~、
去年の新人歓迎会で私…
飲みすぎちゃってぇ~
……」
「先輩。
飲みすぎちゃって、
どうしたんですか?」
「そう~そう~。
飲みすぎちゃってね、
素っ裸になっちゃたんだってぇ~」
「え~~~!!
先輩、脱いだんですか?!」
「全~然~覚えてないの~。
気付いたらおうちで寝てたし~
あっ、同期のみんなの話だと、
素っ裸まではいってないとか…
セミヌードぐらい?って言ってたかも~」
「それでか~
男性陣が下心丸出しの顔で、
ビール注ぎにくるんですね」
「そうなの~?
でもやっぱり飲み会は、
楽~しく飲みたいよねぇ~」
(この人は事の重大さを認識してない。
覚えてないからOK!
…じゃないですよ先輩!
自分が素っ裸になって、
職場の男性社員がどうなるかは、
目の前の現実が物語ってるのに…。
仕事ができて美人なのに…
酒が入るとダメ人間…。
ギャップ萌えか~いいなあ~。
でもお酒怖いわ~。
お酒って性格反転させるのかしら。
それにしても…
男性先輩陣は何?!
私の目の前で!
恥ずかしくないんですか!
何なんですか、
その裸を見るための粘り強い交渉術。
仕事で活かしなさいよって言いたくなる。
もう~バカバカしい!
飲もう)
ふと横を見ると、
社長が美味しそうにお酒を飲んでいた。
完全にできあがっている。
しかも幸せそうに微笑みながら。
(社長…何か、可愛い~。
そんなにお酒が好きなの~?
うんうん。
キビナゴのお刺し身、美味しい?
そんなたくさんお口に放り込んで…
ほら~ひと切れ、
お口からこぼれた~
あれ?
刺し身なんてあったっけ?
しかもそれ日本酒よね?
もう完全に独自スタイルなのね。
そう!
そうですよね!
せっかくの飲み会ですもの!
好きなものを、
飲み食いしろってことですよね!
私も社長を見習って~、
周囲を気にせず飲みます~!!
ご教授ありがとうございま~す!!)
数十分後。
「ねえ、高橋ちゃ~ん。
一緒に飲もうよう~」
「舞、ダメよ!
あなたも、もうほどほどにしなさい!」
「え~~。
だってこのワイン美味しいよ。
次はロゼも飲みた~い」
「ほら、もうそれくらいに…」
「舞ちゃ~ん。
僕の日頃の感謝の気持ち~
受け取ってくれないかな~」
「もう~係長もしつこい!」
ドォーーーーン!!
テーブルに日本酒を叩きつける音。
会場にいる…
社長以外全員の動きが止まった。
「何かおかしいと思いませんか?
あ゛~ん?!
これは何の飲み会ですか?
新人歓迎会ですよね?
ねっ?!
そんなに高橋先輩の裸が見たいの?
誰かひとりでも、
私のところにお酌に来ました?
社長の次は、なぜ高橋先輩?!
エロジジイ!!
逃げるな!!
男性陣は全員並んで!
こ・こ・に、並んで~!
まず謝って下さい!
みんな、復唱!!
舞さんの裸見ようとして、すいません!
はい!!」
「舞さんの裸見ようとして、すいません」
「舞さんの裸見ようとして、すいません」
「舞さんの裸見たいです、すいません」
「エロジジイですいません!」
「エロジジイですいません」
「エロジジイですいません」
「エロく生まれてすいやせん」
「よし!気をつけ!!」
後藤の声に、
男性社員たちは背筋が伸びた。
「みなさんに問いま~す!
今日の主役は誰ですか~!!」
「後藤さんです!」
「後藤さんです!」
「ごっつあんです!」
「そうでしょ?!
じゃあ、ひとりずつお酌!」
「はい!」
「はい!」
「へい!」
……。
現実に戻り、
頭を抱える後藤。
「どう考えても、
あの新人歓迎会が原因よね…。
あそこで記憶が途切れてるけど、
どう見たって逆パラだわ。
男性社員はドン引きよね…。
あ~思い出したくないもの、
思い出しちゃった…
……ん?
なんか、ひとりフザケた人いない?!
あれ?…あれって…
…社長?!!」