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シン・金太郎

執筆家の女性。
 
ピンポーン!
 
「は~い。
 どちら様…って、あなたは…」
「突然すいません。
 坂田と申します。
 あの折り入って先生に、
 ご相談がありまして…」
 
応接間。
 
「あの…
 あなたのような方が私に、
 どのような、ご要件で?
「はい。
 実は僕…
 長年、悩んでまして…
 
「悩み?」
私の昔話…ご存知ですか?
 
「はい。
 何となく…頭の片隅かたすみには…」
「ざっくりでいいので、
 お話してもらっていいですか?」
 
「今ですか?!
 え~と…たしか…
 山で元気な男の子が、
 熊と相撲をとって…強くて…
 …なんやかんや……
 ん~…みたいな?

「そうですか…
 まあ、そんな感じですよね?」
 
「す、すいません!
 ふわっとしか覚えてなくて…」
「いえ、そういうことなんですよ。
 それが…僕の悩みのタネなんです
「と…言いますと?」
 
「僕はこう見えても四天王なんです」
「あ~それは知ってます。
 源頼光みなもとのよりみつ四天王のおひとりで…
 
「いえ、それもそうですが、
 僕が言ってるのは、
 太郎四天王の方です」
「太郎四天王?
 ごめんなさい。
 存じ上げないのですが」
 
「太郎四天王は、
 主人公が太郎の昔話。
 つまり…
 桃太郎、
 浦島太郎、
 龍の子太郎、
 そして僕、金太郎。
 これを太郎四天王と呼んでるんです
「初めて知りました。
 それが金太郎さんの悩みと、
 どういった関係が?」
 
「僕以外の太郎は、
 特徴的とくちょうてきなシーンがあり、
 お話にがあると思いませんか?」
「あ~~そう言われれば…
 
 桃太郎は三匹のお供と鬼退治。
 浦島太郎は竜宮城へ行ってお爺ちゃん。
 龍の子太郎は母親の龍と一緒に人助け。
 
 金太郎さんは熊と相撲を取って…
 何でしたっけ?

「ちっくしょう~!!
 やっぱりだ~~!!
 なぜ僕だけ、地味なんだ~~!!
「ちょっと、落ち着いて下さい!
 そうは言っても金太郎さんは、
 誰もが知ってる有名人ですよ。
 頼光四天王の話だって、
 あるじゃないですか」
 
「そのお話は?」
「お話?
 ん~なんだっけなあ~
 酒好きな鬼を退治する…的な?
 
「はい、お約束~!!
 所詮しょせん、僕なんて、
 その程度の太郎なんですよ!
 
 僕の世間の認識は、
 語り継がれる英雄ではなく…
 
 独特な見た目の、
 ユニークキャラなんですよ!!

「そんなことないですって!
 大丈夫ですよ!
 みんなそんなに●●●●気にしてませんから!」
 
「そんなに気にしてないって、
 それを僕は気にしてるの~!」
「ああ~~ごめんなさいごめんなさい!
 で、金太郎さんはどうしたいんですか?」
 
「ですから、
 僕の昔話を先生に、
 書き直してもらいたいんです

「はい?
 私が昔話…
 金太郎を書くんですか?!」
 
「はい、お願いします。
 もう我慢がまん限界げんかいなんです。
 
 そもそも設定から、
 おかしくないですか…僕の話。
 
 見てお分かりの通り…
 裸に赤い前掛け…
 真ん中にデカデカと金!
 
 母上がバランス間違えたんです。
 気付いたら前掛けに、
 太郎を入れる場所がなくなったって。
 
 そんなことってあります?
 
 ご祝儀袋しゅうぎぶくろの名前書く時だって、
 あちゃ~ギリギリで最後の文字
 ちっちゃくなった…は、あるけど、
 金だけって人、いませんよね?」
「見たことはないです」
 
「ですよね?
 それにこの前掛け…
 あの飛騨ひだの人形サルボボより、
 布面積小さいんです!
 
 しかも…
 常にお尻丸出しですよ、僕!
 
 後ろからの絵はNGですから!
 
 これじゃあ、安心してもらえないですよ!
 いてませんから!

「まあ、それは…」
 
「これどう思います?
 このデザイン?
 イケてますか?」
「それを…
 私が答えなければ、
 いけないのでしょうか?」
 
「ですよね!
 みんな、その反応!
 
 でも、僕もそう思いますよ!
 
 この頭も見て下さい!
 これ、もうカッパですよね!?
 
 ひどくないすか?!
 
 誰ですか、これデザインした人?
 僕が退治した鬼の末裔まつえいですか!?」
おっしゃりたいことはわかりますけど…
 時代的なものではないかと…」
 
「にしてもです!
 それに見て下さい、この武器!
 
 知ってます?!
 
 マ・サ・カ・リって!!
 草刈正◯と間違えやすいじゃないですか!

「いえ、私はそんな間違いする人、
 見たことありませんけど…」
 
「せめてこの武器だけでも、
 桃太郎のようにだったら…。
 
 源頼光様もあの宝刀蜘蛛切丸くもきりまるを、
 もっと早くにさずけて下されば…。
 
 そうすればのちに、
 熊切丸とでも名を変えて、
 ちょっとはカッコがついたのに」
熊、切っちゃダメでしょ!
 金太郎さんには、
 マサカリがいいんですって!

 
「じゃあ、聞きますよ。
 
 もしゲームの中で…
 
 剣、双剣、槍、銃、ハンマー…
 マサカリってあったら、
 あなたなら、どれ選びます?

「私なら……銃かな♪」
 
「ちっきしょう!!
 だよな!!
 僕もそうだも!
 
 あ~あ、
 僕、マイナー!!
 お話もキャラも全部!!
 
 ヒット要素がひとつもない!!
 モテ要素においても全くない!!

 
「そうやって検証すると…そうですね」
「だからお願いです!
 是非、語り継がれるような英雄伝を、
 作っては頂けないでしょうか!
 お願いします!!
 この通りです!!」
 
「う~~ん。
 そこまで聞いておいて…
 断れませんよね。
 わかりました。
 お引き受けします」
「ホントですか!!
 ありがとうございます!!
 ヤッター!
 半年ぶりに…よかった~!」
 
「?
 誰か他にもお声掛けしたんですか?
「ええ。
 実はある先生にもお願いしたんです。
 
 そしたら話が妖怪サスペンスに…。
 
 もうひとりの先生は、
 ちょっと独特すぎる世界観の方で…
 
 僕のことを…
 蒸しすぎた肉まんを、
 壁にぶつけたような体
って、
 表現されてまして…どう思います?」
 
「何となく、
 誰にお声掛けしたか分かりました。
 それは大変でしたね」
「ある先生なんか、
 最後の最後に主人公の僕を、
 無慈悲に地獄に落としめるような、
 最悪の結末にするんですよ!
 トラウマものですよ!!」
 
「もう大丈夫です。
 結構、有名な方にいかれたんですね」
だから先生が頼みの綱なんです!
 他の先生方は、
 ご自分の世界が出来上がりすぎてて、
 昔話に向かなかったのだと思います!」
 
「わかりました、金太郎さん。
 私でよければ協力させて下さい。
 私も金太郎さんが、
 悲しんでる姿は見たくありません」
「ありがとうございます。
 そう言って頂けると助かります。
 で、どれくらいで出来上がりますか?」
 
「もうできました」
「え!?
 もうできたんですか!!」
 
「はい。
 お話もらった時に大筋は」
「ちょっと、
 聞かせてもらってもいいですか?」
 
「いいですよ。
 では、いきますね。
 
 昔々、足柄山あしがらやまに…
 ひとりの男の子が…
 異世界転生してきました」
「い、異世界転生!!」
 
「男の子は元の世界では、
 サラリーマンだったようで、
 バイクで爆走中に転倒して、
 この世界のおじいさんとおばあさんに
 助けられました」
バイクで暴走って…
 それ…サラリーマン金◯郎では!!

 
「やがて大きくなった男の子は、
 足柄山ではちょっと名の知られた、
 ワルになっていました」
「ワル?!」
 
頭は天まで届くかのようなリーゼント!
 真っ赤な特攻服に禁の文字!
 背中には2本のマサカリ!
 その名もダブルトマホーク!

「大幅、路線変更!!」
 
「そして禁太郎は…」
「ヤバい人になってる!!」
 
「村の畑を荒らす熊どもに、
 タイマン勝負を申し込み、
 ばったばったとほうむり去ります!」
「ちょっと…カッコいい!!」
 
「連戦連勝の禁太郎はついに、
 足柄山の主…
 暴君クマすらも倒してしまいました!」
「その名前…使っちゃダメ!!
 それ、ワン◯ースでしょ!?」
 
「やがて…
 泣く子熊も黙ると言わしめた
 禁太郎の活躍で、
 村に平和がおどずれました
「おお~!!
 著作権的に多々問題あったけど、
 これはこれでいいんじゃないですか!!」
 
「そして…
 足柄山を追われた熊たちは…
 街へと出没するにようになるのでした

「うぉ~~い!!
 私が全ての元凶になってるよ!!」
 
「そして…
 勇者禁太郎…没後1000年…
 新たな時代を越えた冒険が始まる…

 
出版社の垣根かきねを越えてるよ!!
 それに違う人の英雄伝に、
 なってるだろ、それ~!!

 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

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二月小雨
お疲れ様でした。