データで下さい
会社員男性。
「お~お~松本。
ちょうどよかった。
これこの前の。
次のプロジェクトの参考資料。
やっと見つけたよ。
俺が昔作ったやつだけど、
これ使ってくれて、いいから」
「これですか?」
「そうだよ。
前のプロジェクトの時は、
まだ俺が駆け出しの新人で。
色んな所から資料となるパンフを、
かき集めさせられたんだよ。
あとこの中には、
調査結果をまとめた文書も入ってる。
こうやってファイリングして、
とっておいたんだよ。
もしもの時のためにって」
「先輩。
せっかく見つけてもらったのは、
ありがたいんですが…
できればこれ…
データファイルで頂きたいんですけど」
「データ?
これの?!」
「すいません。
紙って持ち運ぶの不便ですし、
ガサばるんですよねぇ。
取引先との打ち合わせとかだと」
「おお、そうかあ…
そう言われればそうだな。
…分かった。
ちょっと原本探してみるわ。
あとパンフの方は、
スキャナーで読み込んでおく…。
明日中に…
うちの共有にファイル入れとくから」
「ありがとうございます。
助かります」
退社後。
帰宅した男性。
「はあ~疲れた」
「どうかしたの?」
「いやさ、もう紙の時代は、
終わったんだなあって」
「何かあった?」
「昔、俺が一生懸命作った、
プレゼン用の紙の資料を、
後輩に渡したらデータで欲しいって。
言われてみればそうなんだけど、
何か…寂しくなってさ」
「その後輩の人は、
印刷してホッチキスで止めたり、
パンチャーで穴を開けて、
インデックス付けてまとめたり、
したことないんでしょ?」
「そうなんだよな。
今は全部、
データでやり取りなんだよ。
メール添付やUSBで受け渡し。
サーバーの共有フォルダに入れて、
それを閲覧するのが普通。
紙に触れてる時点で…
もう俺はおじさんなんだなあって…」
「でもそのプレゼンのファイルは、
紙で保存されてたけど、
今でも充分、使えるんでしょ?」
「そうだな。
もう10年前のだけど、
会社の資料としてはしっかりしてるよ。
そこに最近のデータを付け加えれば、
ちゃんと今でも使える」
「じゃあ、後輩の人も喜ぶんじゃない」
「うん…そうだな。
そうだよな…。
ま、いっか…。
そう言えば子供たちは?」
「お部屋でゲーム」
「本当にあいつらはゲーム好きだな。
ということは…
今年もクリスマスはゲームなのか?」
「子供たちサンタさんに、
お手紙書いてたわよ。
私はまだ見てないけど。
そこの引き出しにあるから、
あなた何て書いてあるか、
見てもらっていい?」
「ああ。
え~と、どこだどこだ…あった!
こっちがお兄ちゃんだな。
どれどれ…え~と、
フォートナイトのぶいばっくす?
何だこれ?
弟は…
マインクラフトの…
マインコインパック?
ママ、このぶいばっくすと、
マインコインパックって、
何だか分かる?」
「あ~それはあれよ。
子供たちのやってるゲームの、
課金用のプリペイドカードよ」
「プリペイドカード!?
プレゼントに?!
え?!
物じゃなくて?!」
「何言ってるのパパ。
今は何でもそうじゃない。
音楽だってゲームだって」
「いや、そうだけどさあ~。
……そうか…。
俺だけが遅れてたんだな…。
子供のクリスマスプレゼントにまで、
データ化の波が来てたなんて…」
「あっ!
あとパパ!
お年玉もLINE Payで、
ちょうだいだって!」
「そこもなの!!」