ナンマイダーカードの軌跡
男性二人。
「はいどうも~」
「よろしくお願いします!」
「なあ、ちょっと気になってること、
あるんだけど聞いてくれる?」
「なに?」
「ナンマイダーカードってあるじゃん?」
「ああ、あるね。
あのやたらとバージョン上がるけど、
いつまで経ってもポイントカードより、
利用価値のないカードね」
「最初から攻めるね~」
「だってそうでしょ?!
開発費1兆円も使って、
未だにこれは便利だと言う人が、
身内しかいないという特級呪物でしょ?」
「確かに名前も取り扱い方も、
過去の数々のトラブルから鑑みても、
物騒な代物なんだけどね」
「だろ?」
「そのカードの出始めって覚えてる?」
「出始め?」
「全国規模の災害級トラブル」
「あ~はいはい。
ニュースありました。
他人の住民票が出てきたとか。
報道されてたね」
「それそれ。
でさ…この前、実家に戻ったら、
じいちゃんもカード使ったら、
変なの出てきたって言ってて」
「マジで?!
じいちゃんも違う住民票出てきた!?」
「じいちゃん、戸籍抄本を選んだら、
YOASOBIのライブチケット
出てきたって」
「ウソだろ!
マジで、意味分からん!」
「俺にもよく分かんないんだけど、
じいちゃんはそのチケット。
そのまま役所に郵送したら、
戻ってきたって」
「当たり前だろ!
気付け、じいちゃん!」
「仕方ないからじいちゃん、
グッズ買ってライブ行ったんだって。
今年で80歳」
「良かったな、じいちゃん。
その話聞いたら、
犯人が誰とかもうどうでもいいな。
もう、結果オーライ!」
「そこで思ったのは、
じいちゃんが使えるようになったのは、
暗証番号の設定がなくなったからだよね」
「ああ、そうそう。
セキュリティーどうしたって、
ネットで叩かれてたけどな。
番号覚えられない人には、
良かったかもな」
「あれだって最初は4桁の数字で、
4桁は安全なのかって不満が出て、
急に9桁の英数字になって。
そしたら覚えられるわけないだろって、
苦情が来て慌てて、3桁!
そしたら重複登録と不正利用多発って!」
「このカード…、
仕様が定まったことないよな。
設計者って今、何してるんだろな?」
「トラブルの度に、
担当変わるらしいよ。
だから毎回、
災害レベルの被害が出るんでしょ」
「確かに。
最初なんて顔認識はできても、
顔認証ができなかったらしいぜ」
「何それ!?
犯人が目の前にいるのに、
証拠不十分で逮捕できない
警察みたいじゃん!」
「全てはこの国の、
デジタル技術のレベルの低さだよな」
「それにしても、このカードはひどい。
なのに時代に乗ろうと、
今度は生体認証にしたろ?」
「そうそう。
何だっけ?
指紋認証?
5本認証?
10本認証だっけ?」
「バカだよね!?
最後は両手両足認証だよ。
当然、クレームが付いて、
次が虹彩認証と声紋認証。
そして静脈認証」
「もうその頃は、
セキュリティーの迷走が、
留まることを知らなかった。
そん次が動脈認証に、
頸動脈認証だっけ?
どんだけ血管見るんだよ」
「それ全部OKにならないと、
本人確認できないっていう、
おぞましい仕様だったね」
「端末のメニューも1個1個選ぶから、
案の定、役所は3時間待ちって…」
「思い出した!
あれ覚えてる?
ニュースキャスターの生不倫告白!」
「あったあった!
カードが個人情報を不正取得してて、
個人のプライバシーを事細かく、
保存してたらしいけど、
それが大漏洩したやつ」
「そうそう。
あれはヤバかったね。
日本中の浮気と不倫が、
一気に世間に解き放たれて。
毎日ワイドショーが、
ハロウィンみたいだった」
「余計なことしかしてないんだよなあ。
カードの本来の役目が、
誰も分かってないんだよ」
「そうそう。
バージョン上がったと思ったら、
今日のラッキーナンバー機能って。
そんな朝の情報番組でやってるし!」
「そしてその次が、今日の運勢機能。
それも朝、やってるしな」
「迷子感がすごかった。
あとカラオケ機能あったの知ってる?」
「知ってるよ。
カラオケ高得点認証だろ?
何やらせたいんだって話だよな」
「どっかの会社の利権かな?」
「かもな」
「こわい世の中だね。
そのうち100の質問認証とか出るかも」
「東大王クイズ認証とか」
「もう一部の人間しか、
使えなくなるね」
「そしてここに来て、
カードの名称の変更だろ?」
「もう悪名高いカードだから、
改名してリセットする気だね」
「出直し芸能人みたいんだな」
「いま、新しい名称、
募集してるけど、何がいいと思う?」
「う~ん、そうだな。
語呂が良いから、
マイナンバーカードで、
いいんじゃねえ?」
「その名前、分かりやすい!」