愛のために進化した
ある日。
森の中。
「あ~好かれたい。
あ~チヤホヤされたい」
「先輩。
願望が、
口からだだ漏れですよ」
「俺、何か言ってた?」
「注目浴びたそうですね」
「なぜ、わかった!!」
「今さっき、言ってましたよ。
何かあったんですか、先輩?」
「いや~よくぞ聞いてくれた」
「………………………」
「俺等って、嫌われ者だよな?」
「まあ、世間一般的にはそうらしいですね」
「でも…このままではいけない。
今の状態を受け入れてはいけない…。
そこで俺等は立ち上がった!
一念発起し苦心の末、
進化を成し遂げたじゃないか!」
「はいはい。
お尻が光るようになりましたね」
「これでうちらゴキブリも、
人がわんさか押し寄せるような、
大人気の昆虫になれると思った…よな?」
「はい、ちょっと思いました」
「そしたらどうだ?
やっぱり無理、フォルムが駄目、
生理的な不快感。
お尻が光っても評価が全く変わらん!
どういうことだ?」
「評判そのままなんだと思います」
「クソっ!
まだ、これでは足りないというのか!
よし!わかった!
次の手だ!!
俺は諦めんぞ!!」
「先輩、何する気ですか?
ま、まさか!!」
数週間後。
「あ~モテたい。
あ~バズりたい」
「先輩。
また口元、緩んでますよ~。
それにうちらはすでに、虫ですよ~」
「何でだ!
なぜ人気が出ない!
意味がわからん!」
「僕は何となく、わかりますけど…」
「お尻が光って、
角が生えてるんだぞ!
しかも3本!
モテないはずがないだろ!」
「え~とですね。
基本的に無理。
見た目だけの問題じゃない。
不快さが半端ない…以上です」
「ノー!!
こんなにも人に愛されたいと、
努力してるのに、
どうしてわかってくれない。
何が悪い?
何がいけない?」
「まあ、
存在そのものってことですかね?」
「イヤ!
まだ何かあるはずだ。
人気者のホタル、カブトムシ、クワガタ。
他にも…もっと…いや待てよ」
「どうしたんですか、先輩?」
「俺等は昆虫にばかり目を向けてきたが、
本当に人が好きなものについて、
考えてなかった…そうだ!
人が好きなものを調査して、
それを取り入れれば良いんじゃないか?」
「先輩どこへ?」
「街へ行くぞ!
実態調査だ!!」
「は、はい」
数週間後。
「あ~スリスリされたい。
あ~子供にキャーキャー言われたい」
「先輩。
キャーキャー言われてたじゃないですか」
「あれはギャーギャーだ!
歓喜じゃない!
恐怖の方だ!」
「そうだったんですか…」
「なぜだ!
現場リサーチまでして、
完璧な進化を遂げたというのに、
なぜ相変わらずの、
不人気のままなんだ!!」
「仕方ないと思いますよ…」
「おかしいだろ!!
ついに俺等は、
羽が七色に光るようになったんだぞ!
しかも色変えや順送りもできる!
こんな昆虫、他にいないだろ!」
「いませんねぇ…」
「なのに人間は逃げる一方!
手にはいつも、
虫取り網じゃなく、スプレー缶!
俺等は、敵じゃない!!
人間に愛されたくてこうなったんだ!!」
(先輩は気付いていない…
大事なことに。
そう、そのにじり寄ってくる、
動きの不快感に…)
カサッ…
カサカサカサカサッ
お疲れ様でした。