知られざる社内図書館の仕事。それはエンジニアの共創を生む拠点でした。
2年前に新たに開設されたフルノの研究開発棟"SOUTH WING"。
その1階には広々としたロビーが設けられ、昼休みには多くの社員がおしゃべりしながらランチをとったり、就業時間中でも会議室とは少し違った雰囲気で気軽にミーティングが行われていたり、憩いの場・交流の場として活用されています。
このスペースの中でも目を引くのは一番奥に置かれたちょっとおしゃれな書籍棚。たくさんの雑誌が並べられていますが中にはマニアックなものもチラホラ。海運や技術系の専門誌が置かれているのがフルノらしいですね。
これらの雑誌などを管理しているのが、フルノ図書室の運用・管理を担当している中井さんです。公共の図書館ではない、社内図書館ならではの面白さ、たくさん伺ってみました。
社内図書館の仕事ってどんなことをしている?
今回の取材のきっかけはSOUTH WINGのロビーでミーティングをしているときに雑誌を配架している中井さんを見かけたことでした。
現在フルノの図書室は本館の2階、SOUTH WINGの2階、そして雑誌・学会誌コーナーとしてSOUTH WINGの1階ロビーの3つに分かれています。
これらを管理するだけでも大変そうですが、他にも新規の図書の選定や社内回覧、また日本各地の事業所への貸出・返却のメール便対応など多岐にわたります。
中井さん「現在フルノには12,880冊の図書があり、雑誌も和176誌・洋48誌とかなりの量を取り扱っています。それらを管理している他、文献調査依頼や規格冊子購入依頼の対応もしています。
あと新規図書の購入に関しては1.5ヶ月に一度、研究開発部門の社員で構成した図書委員会を開いて、選書しています。図書委員会では『研究開発に役立つ学術的資料』『長期展望に立って体系的に収集』『社員の教養を高めることに貢献』という基準で選書していますが、気軽に寄って欲しいという想いもあるので、技術書の間に世界の名作や時事問題、自己啓発本なども挟んで色んな方に興味を持ってもらえるような棚作りをしています」
図書の中には、超音波・無線通信、船舶工学などフルノで勤務していなかったら絶対に手に取らないだろうなと思う本も多いそうですが、基本全ての新着図書には目を通すそう。
「やっぱり目次やまえがきには『なんでこの本を出そうとしたか』という作り手の意図が表現されていますから!」とのこと。
厳選して選んだ図書室の本は中井さんにとっては「子ども」のようなもの。
これまでも何かに悩んだり、迷った時に図書館や書店を訪れ、本からヒントをもらっていたと言います。本当に本が好きで、大切な存在なんだろうなと感じました。
社内図書館だからこその難しさも
雑誌コーナーをふと見ても科学技術系雑誌やビジネス系雑誌などたくさんの種類があり、またヨットや海運の専門誌あたりが並んでいるとフルノらしさを感じます。このような社内図書館は公共の図書館とどういう点で異なるのでしょうか。その疑問を中井さんに聞いてみました。
中井さん「公共の公立図書館とは異なり、企業図書館は専門図書館に分類されます。フルノでは研究開発部門向けとして図書室が設立されました。読者側もフルノ社員限定というのは特徴的ですよね。
現在も200種類以上ある雑誌を社内の希望者に回覧しています。そもそも企業内図書館自体の数は多くないと思いますが、その中でもこのような地道な取り組みをしているところってあまりないんじゃないでしょうか。手間はかかりますが、たくさんの方に読んでもらいたい、海や船、当社の取り組みにより一層興味を持ってもらいたいなという想いで頑張っています」
ただ最近はデジタル化が進み、雑誌や書籍の出版数も減ってきているのだそう。公共図書館などでも電子書籍化が進んでいるようです。ただしその点でも企業内図書館ならではの難しさがあります。
中井さん「電子化もやりたいなとは思いますが、日本は著作権がかなり厳しいので、実現しようとすると膨大な費用がかかります。というのも公共図書館と異なり企業図書館は営利目的と判断されるからなんです。そのため実際にデジタル化はハードルが高いですが、紙で読むことの良さもありますから今のままでいいかなと感じるところもありますね」
本の良さは視覚的・体感的に楽しむところだと中井さんは言います。
表紙のデザイン、手触りだったり、横に並んでいる書籍が目に飛び込み、予期していない新たな本との出会いなど、紙の本ならではの価値があると教えてくれました。
社内図書館のこれからのカタチ
SOUTH WINGに引っ越してから中井さんには図書室の運営のほかにデジタルサイネージの運営という業務が加わったとのこと。SOUTH WINGに設置され、社内の情報共有ツールとして活用されています。
中井さん「デジタルサイネージの運用は予想外でしたね(笑)
図書室からは新着図書の案内や推薦図書の紹介などをサイネージで流しています。サイネージのメインとしては技術コンテンツや人物紹介コンテンツを配信しています。
他社さんだと来社するお客さん向けのサイネージだったり、総務課などが通達代わりにサイネージを活用していることが多いのですが、自分たちの研究技術発表をするためのコンテンツを作って社内に配信している会社は珍しいです。
研究者やエンジニアのみなさんがお忙しいのは存じていますが、他部署の方に自分の業務を紹介できる機会は少ないので自分たちの研究開発のアピールの場として活用して欲しいなと思います」
以前、開発部門が新製品の解説をするサイネージを流したところ、研究部門から"詳細な話を聞きたい!"という申し出があったケースもあり、社内の新しいつながりを生むキッカケになれば嬉しいと中井さんは言います。
そのためサイネージのコンテンツを作るときは顔写真と氏名、所属は必ず入れてもらうようにしているのだとか。
デジタルサイネージを使ったアピールをより活発にして、製品開発や業務改善を支えていきたいと新しい業務にも前向きに取り組んでおられました。
お話しを伺っていく中でも中井さんからたくさんのエネルギーを感じますが、まだまだ他にもやりたいこともあるそうです。
中井さん「受け身ではなく、情報を発信していくプッシュ型の図書室でありたいなと思います。デジタルサイネージもそうですが、様々な情報が飛び込んでくるようにすることで、自身の求めているネタだけではなく、新たな発見につながるかもしれない。そのためにも例えば外部から講師として本の著者をお招きして、学びの場や気づきの場となるようなイベントも行ってみたいなと考えています」
最後に中井さんにとってお客さんとなるフルノの社員にメッセージをお願いしたところ興味深いお話をしてくださいました。
それは図書や論文など、貸出が多い方は特許出願の数も多い傾向にあるということ。
「知識というのは過去からの読書量の積み重ね。幅広い知識を取得している方はフルノでも活躍しているなと実感しています」と中井さん。
メーカーであるフルノにとって、特許は重要な財産。
フルノの技術を支え、社内共創の拠点、そして会社の発展に寄与する場として重要な社内図書館、今後のさらなる進化にも期待が高まります。
ぜひたくさんの方の来訪をお待ちしています!
執筆 高津 みなと