マガジンのカバー画像

お話

4
運営しているクリエイター

#文章

とんとん

手でとん、とん、とん、とし続けるあれ、
小さい子どもや親しい人が、近くで寝そうにしているとき、やってあげる。安心して眠れよ、とかではないな、正直。こちらが愛でる行為の一貫。でも近ごろ思い出したのだ、そういえばぼくは、あの「とんとん」が嫌いだった。

眠らない子どもだった。夜に眠らないのだから、昼間なんて尚更だ。何故大人たちが、こぞって昼寝をさせようとするのか、さっぱり分からなかった。それ以上になぜ

もっとみる
夢(一夜)

夢(一夜)

こんな夢をみた。

年上の恋人はさわやかで、なかなかに聡明だった。ぼくたちはデートをし、街の小さなビジネスホテルに行きついた。部屋のベッドに腰かけて話していると、突然全館に放送が響いた。

「これにて大会は終了します。大会は終了します。大会は…」

恋人はぼくのスマホを手にとり、ホーム画面のゲームアプリを指さした。

「これ、やった?」

ぼくは黙って首をふる。気が向いていれたものの、ほとんど放置

もっとみる
生活の主張

生活の主張

 僕の恋人は完璧だ。

 完璧というのは,もともと傷の全くない宝玉を表していたらしい。すべらかでなめらかで,ほんのり琥珀色をした完璧な玉。恋人を完璧,と思うたび,僕はその玉に思いを馳せる。

 国王はビロウドの椅子に座って,手の中に収めたその玉をうっとりと眺める。戦国の時代 ――― 争いに,人に,時代に疲れた王を唯一癒すのは,手の中で冷ややかに眠るその玉であった。力こそ全ての時代において,案外国王

もっとみる