とんとん

手でとん、とん、とん、とし続けるあれ、
小さい子どもや親しい人が、近くで寝そうにしているとき、やってあげる。安心して眠れよ、とかではないな、正直。こちらが愛でる行為の一貫。でも近ごろ思い出したのだ、そういえばぼくは、あの「とんとん」が嫌いだった。

眠らない子どもだった。夜に眠らないのだから、昼間なんて尚更だ。何故大人たちが、こぞって昼寝をさせようとするのか、さっぱり分からなかった。それ以上になぜ同級生たちは、なんの疑問も持たず、なんの苦労もせず、陽の高いうちから嬉々として眠りにつけるのか、理解ができなかった。

今なら分かる、考えていることはどうであれ、そんな園児は先生方にとって確実に厄介者だ。せっかく事務仕事が捗る時間を、たった1人のために邪魔されては困るだろう。言っておくが、ぼくは自分が寝られないからといって、ほかの子どもの睡眠を妨げるような真似はしなかった(と思う、一人遊びを深く研究した記憶があるため)、が、寝る気もさらさらなかった。そんな面倒な子どものため、先生が日替わりでやって来ては、添い寝をした。先生は大好きだったので、その点は嬉しかった。

そこであの「とんとん」だ。目を閉じてごらん、と言われ、やわらかであたたかい、とん、とん、が始まる。あのころ本気で寝ようと思えば、もしかすると眠ることも出来たのかもしれない。しかし、あの「とんとん」が、今度は余計な気を起こさせるのだ。

(次のとん、が終わったら、先生はここから離れてしまうのではないか…?)

最初から誰もいなければ、そうとして受け入れるし、気にならないはずだった。しかし、いてくれる人がいなくなるのは、それは、とても怖いことだ。

そんな風に思うくらいなら絶対に寝まいぞ、と、変な根性にとらわれた保育園児は、ますます眠れなくなるのだった。


考え方って変わらないのだな、という話。

#日記 #文章 #短歌 #note短歌部

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