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【ショートショート】消失日

 ミナミは金曜日の夜が怖くてたまらない。
 スーパーによって部屋に帰る。小さなキッチンで簡単な料理を作りため、冷蔵庫に保存。麦茶もたくさん煮出しておく。
 そして静かにベッドに潜り込むと、午前六時にすぱっと目覚める。ミナミはスマホで曜日を確認する。月曜日の朝である。
 今週も土曜日、日曜日は知らないうちに通り過ぎていった。
 膀胱はパンパンに膨れているので、とりあえずトイレに駆け込み、それから冷蔵庫の扉を開く。腹も減っているのだ。麦茶を飲み、作り置いた料理を慌ただしく食べて、シャワーを浴びる。
 八時半には会社に到着した。
 なんの変哲もない日常が始まる。
「もう何ヶ月も続いているんです」
 とミナミは上司に相談した。
「それはあるねえ」
 とコウノは言った。
「緊張感がなくなるからかなあ。自宅に帰ると発熱して、土日はずっとベッドの中さ。それなのに月曜の朝にはぴたりと平熱に戻る」
「それですそれです」
 とミナミは言った。自分だけではないとわかっただけでも嬉しい。
「しかし、君の症状はちょっと極端だな。医務室で専門医に紹介してもらうといい。すぐ行ってきなさい」
 ミナミは嘱託医から大病院の脳外科を紹介され、詳しい検査を受けた。脳に物理的な異変はなかった。
 心療内科にも行った。
 医者は首を傾げた。
「該当する病気はありませんね。ストレスの解消としか解釈できません」
 薬はなしで、通院することになった。経過観察である。
 ある日、
「ミナミさん」
 と先生が言った。
「だんだんあなたのような症状の人が増えてきましたよ。病名がつくかもしれません」
 日本から土曜日、日曜日は消滅した。
 金曜日を休みにすべきだという意見があるが、ミナミは懐疑的である。そんなことをすれば、消失日が増えるだけではないのか。

(了)

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